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出発

翌日、俺と海堂は何事も無いような振る舞いをして、みんな(海堂の使い魔達)のところへ行き、ここから出発すると告げた。

みんな一斉に「えー」、という一年のクラスの小学生達が宿題を増やされた時のような声を上げたが、みんなちゃんと行動してくれた。

教育がなっているんだな……などと考えていたら、またクリスとパトリアに絡まれてしまったので、一人だけ一階に避難する事にした。

一階に降り立つと、スポーツブラジャーに上から半袖を羽織っているメリウスが、ロビーで地面をモップで磨いていた。掃除なのはわかるが、何でこんなこと?


「何をしてるんだ?」


興味本位があったので、俺は彼女に聞いてみる事にした。

口調は海堂の前にいる時の感じでは無いが。


「うん?って、なんだアンタか……冷やかしか何かい?」


相変わらず素っ気ないな………

そこまで俺のことが嫌いなのか?とツッコミたくなったが、それを押し堪えておいた。


「冷やかしの気は一切無いぞ。お前がしてる行動が、ちょっとだけ気になったんでね」


「ふーん………見たらわかるだろ、掃除だよ。今日もお客迎えるのに、汚なかったら印象良く無いでしょ」


「なるほどな………」


入り口のところがキレイだったら、清潔感もあるしな。俺が中三の修学旅行の時に泊まった旅館もキレイだったし、やっぱりキレイなのは良い印象が持たれるのかな?

そうこう考えていると、メリウスが口を開いた。


「それと、嬉しいニュースあるよ。私は今、アンタの事そんなに嫌いじゃ無いよ。まぁ、少し信頼できるようになったってところかな?」


ん?何でいきなりそうなったんだ?めちゃくちゃ気になるんですけど………


「………どういう事だ?」


「簡単だよ。アンタとオクルスが、キスをやってたってのを知っちゃったからさ」


………は?

えっ、ちょ、何で知ってんの?

てかどうやって知ったの?

何で海堂=オクルスってのがわかるの!?

と、結構驚いていた俺に追い打ちをかけるかの様にメリウスが口を開いた。


「浴室掃除をしようと思ってちょっとだけ覗いたの。そしたら、キスしてた所を偶々見ちゃってね……」


すげー恥ずかしいんですけど。

どれぐらい恥ずかしいって言ったら自分の黒歴史を掘り返されてそれで煽られるぐらい恥ずかしい。

というかすげー偶然過ぎない?

人がキスしてる所見れるなんて相当運いいと思うんだけど。

いや、運とかどうとか言う前に見られた人は恥ずかしいのか。


「オクルスがアンタにキスするぐらい、信頼してるってのはわかったんだ。そうなれば、私もアンタのことを少しだけ信頼できる。そういうことさ」


「そ、そうか………」


まぁ………そうだもんな。

キスしておいて敵対してるとかヤベーもんな。

変な事を考えていると、メリウスはこちらに歩み寄り、こう言ってきた。


「あの子の事はアンタに任せる。ちゃんと守り切ってあげて」


「ああ、約束する。彼女は必ず守り通す。俺は約束を破らない主義でな」


「そう言われると、逆に信頼できなくなるんだけど?」


「アイツを任せると言ったお前自身が、俺を信頼出来ないのか?」


「信頼してるから、頼んでるんだろ?」


「………そうだな」


そんな会話をしていると、上の階からオクルスと他の使い魔達が降りてきた。

彼女の姿は、肩まで掛かった白髪にルビーのように赤い瞳、初めて会った時と同じくゴスロリ姿だが、服は綺麗なものになっている。

それに気付いたメリウスは、俺のそばに近寄ると、「今の事はあの子には言わないようにね」と言うと、俺から離れていった。

理由は……多分恥ずかしがるからだな。


「あら?マグナさんにメリウスが………一体何をお話ししていらっしゃったのですか?」


口調変えるの上手だなぁ。俺と話していた海堂の時の話し方が微塵も残っていないんだけど………

これは良いお手本が見れるな…


「ん?何って、ただ私がコイツを少しバカにしていただけだけど?」


あの会話を隠すためなのか、俺が予想していた発言のかなり右斜め上の方向だった。

他にあったんじゃねーの?

例えば、『なんでもないよ』とか、あとは………思い浮かばないな。


「………相変わらず人を小馬鹿にするのが上手いやつでな。全く、対応に困るよ」


取り敢えずそれっぽい感じで返してみたが、バレないのか?

アイツって、こんな時だけに妙にカンが鋭いからな………中ニの時もそんな感じがしたし………


「メリウス……貴女はまだ私が信頼した彼を信頼出来ないのですか?」


全然気付いてねーわ。ごまかすの簡単すぎだろ………

俺は一回わざと咳き込んだあと、話題を変えた。


「向かう場所のことは、みんなには言ってなかったな。これから向かうのは、この旅館の入り口から右斜め前に進んだ場所にある、亜人と獣人で作られた街だ。聞いた話によればそこにいる王女が、ここ最近様子が変わったとの事だ。ちょっとした予想だが、この件はもしかしたら俺も一度会ったことがあるかもしれない。だから確かめに行く。何者かに操られているならば気を失わさせ、その人物の意思ならば殺害する。……………それと質問だが、確かここの入り口は、南を向いているんだよな?」


ちょっとしたスピーチを言い終えたあと、俺はメリウスに確認を取ることにした。方角が間違っていれば、すぐさま変えないといけないからな。


「ああ、会ってるよ」


「………だそうだ。距離はザッと三日程だ。オクルス、そこまで向かいたいのだが、構わないか?」


オクルスは少しばかり黙り込むと、「良いでしょう。舟の主人〈あるじ〉として、目的地までお運びいたします」と言い終え、俺に向けて微笑んだ。

ちょっとだけ思ったが、オクルスの笑顔って、可愛いんだな。

が、今は関係無いか。


「メリウス、舟は用意できてるのか?」


目的地までの距離はちょっと遠いので、出来る限り早く向かいたい。遠足に行く前の子供っぽいような軽い質問だが、俺は気になっていたので質問した。


「用意なら昨日のうちに終わらせておいたよ。ついでに言うなら、足りなくなってた食料の材料も補充しておいたよ」


用意周到過ぎるな…と言おうと思ったが、心の中に留めておくことにした。


「ではメリウス、我々はこれからその街へ向かおうと思います。暇があればまたこちらに来ますので、ご安心を」


「アンタの言葉はあんまり安心出来ないんだけどね………まぁ、安心させてもらうよ」


メリウスは少し呆れたようにそう言うと、少し微笑しながらそう言った。

会話が終わると、オクルスは俺の方に近寄り、「行きましょう」と言ったので、俺はそれに従うようにして、彼女について行った。


泊まっていた宿を出てから、イトチニクの外へ出た。そこからしばらく進んでいくと、片側に4枚づつ、計8枚の白い翼を生やした舟が地面に降り立っていた。

初めてみた時のように地面にめり込んで止まっていたと言うわけではなく、地面の上に乗せてあるかのように止まっていた。

俺たちは舟の上に乗り込むと、オクルスが右手の指をパチンと鳴らした。要するに指パッチンだ。

それをした直後、舟にある8枚の羽は一斉に羽ばたき始めた。

舟はしばらく羽ばたき続けると、雲を突き抜け、何も無い空へと登った。

何処までも透き通っている、青い空だ。

舟がそこまで進んだ所で、俺はこの舟に乗っている全員に、自分が向かおうとしている場所で行う事を、再度言うことにした。


「これから俺たちは、亜人達の街へ向かう。そして、困っているもの達を助ける。だがこれは、俺の名前を世界に広めるためでは無い。俺が敵では無い事をこの世界に教えるためだ。自分勝手な行為だという事は嫌でも分かっている。でも、やらせて欲しい…………みんな、構わないか?反論があるなら、正直に言ってくれ」


周りが静まり返った。だが、何かを言うために、口を開いた者がいた。オクルスだ。


「やらせて欲しいと言われましたが、条件があります。必ず、この舟に戻ってこれるのですか?」


そんな事を聞かれた。だが、返す言葉なんて決まっている。


「戻ってくるさ、必ず。お前達がいる舟に、戻ってくるよ」


スケルトンの顔で微笑む事はできないが、少し笑っているような感じで、俺は言葉を発した。

俺が言った言葉を聞いた後、オクルスは安心したような顔をして、舟をの行き先を亜人の街に向ける事を決行した。彼女には、とても感謝している。


さて、久し振りに動く事になるな………大変だが、やる価値はあるな。

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