『初めて』を取り取られたあと
「ええ。だからこういう事をするチャンスも出来て、オマケに、覚悟も出来たので」
その言葉を聞いた途端、俺はえっ?と言う声を上げようとしたが、その言葉を言うよりも、海堂の動きのほうが早かった。
彼女の足が、胸が、俺の体に触れていく。
彼女の胸にはタオル越しで触れていたが、その豊満な柔らかさが伝わってきて、呼吸が一瞬だけ止まる。
両手で顎を持たれると、瞳を閉じた彼女の顔が近付いてくる。
そして──────
────唇に触れてきた柔らかい感触を感じた。
これがキスだと言うことに驚き、自分の目を見開いてしまった。不用意に体が動き、彼女の体勢が崩れない様にするため、抱き締めてしまう。
胸に当たっている感触が一層強くなる。心拍数が上がる。己の体が徐々に熱くなっていくのを感じる。目の前には瞳を閉じて、頬を赤く染めている街道の顔が写り込んでくる。
すると突然、口の中に彼女の舌が入り込んでくた。
流石に不味いと思い、離そうとしたが、彼女は俺に体を預けている状態なので、これで離すのは危険なので、離すことができなかった。
彼女の舌が、自分の舌に絡み付いてくる。徐々に変な気分になっていく。
しばらくしてから、彼女は唇を離し、風呂場にあるイスに座った。
「えっと……今のは?」
少し恥ずかしい思いをしながら、俺は質問した。
「き……キス………」
海堂は頬を赤らめながらそう答えた。何故キスを仕掛けてきた張本人が照れているのかは謎である。
「…じゃあなんで舌を入れて来たんだ………」
それが一番気になっていた。
一般的に知られているのは、軽く唇を合わせるのと、唇を合わした後に舌を絡めるものだろう。
軽い方は子供が軽くやる様なもので、舌を絡ませるのは大人のやつだ。
それと大人のキスは官能的な雰囲気を出してしまう。そんなのを何故して来たのかが気になったからだ。
ちなみに大人のキスどころか、キスを受けたのはこれが初めてだ。
彼女はしばらくの間考え込んだ。
そして出て来た言葉は、
「………大好きだから…」
照れながら、少し微笑んでそう言って来たので、なんとも言えない襲われた。簡単に言えば、心臓が異様に早く動いている感じだろう。
照れ顔ってこんなに効果があったのか………
何も言えなかった……というより、何と言えばいいのかわからなかった。
すると海堂は続けて
「………あの時、あの出来事があったから、木島くんのことが大好きになれたから、こんな行動ができたと思うの………だから、付き合って欲しいとは言わない。でも、時が来たら、その時は…………お願いします」
告白の様なものをして来た。
俺はしばらく黙り込んだ。3分程だろうか、俺は自分の中で結論を出し、彼女にこう伝えた。
「………お前が好きになって、キスをしたのは、日本にいた頃の木島黒柳だ。マグナ・モルス・ルーナーティクスじゃない。だから、付き合えって言うのは出来ないことだ。でも……時が来るまで、考えておくよ」
俺はそう言うと、風呂場にあるイスから立ち上がり、早足で脱衣所へ向かった。
多分今の俺は、初めての告白されたことに戸惑っていて、顔が赤くなっているのだろう。
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彼に考えておくと言われた。多分これは、遠回しに良いってことなのかな?
そう考えてしまうと、私の顔に熱がこもり、また赤くなってしまう。浴室に誰もいないのに、恥ずかしくて両手で顔を隠してしまう。
嬉しかった。
多分この喜びは、私が彼に告白をしてオッケーを貰ったからだと思う。
そんなことを考えていると、ふと思い出した。
彼はお風呂にしか入っていなかったけど、大丈夫かな?
戻ってこないということは大丈夫なのかな。もちろん私は綺麗にしたいので、タオルに石鹸で泡を付けると、体を洗うのを再開した。
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脱衣所で素早く学校の制服を着たあと、早足で廊下を歩き、障子を開け、用意されていた一人から二人用の寝室に戻った。
右には物置があり、地面には畳が敷かれていて、その上に寝るための敷布団が引かれていた。
そんな部屋の中に入ったのだが、全く寝れる様な状態ではなかった。
ドキドキしてるからか?告白されたからか?
様々な感情が混ざり合い、どの様な感情なのか分からないほどになっていた。
この部屋を見回すと、心拍数が上がった。多分ベッドを見て、良からぬことを考えてしまったのだろう。
そうしてしばらく経った。すると後ろの障子がいきなり開き、ビックリしてしまった。
後ろを振り返ると、手には初めて会った時に来ていたゴスロリを手にして、黒くて派手な下着姿をした海堂がいた。
あまりにもいきなり過ぎた事だったので凝視してしまった。
徐々に彼女の顔が、色鉛筆で塗りつぶされていくかの様に、下から上へ向けて赤くなっていく。
俺は何事もなかったかの様に正面を向いた。
「す、すまん!見る気は無かったんだよ……って言っても信じてくれないか………」
初めは誤解を解く様にしたが、何故か諦めた様になっていた。
逆に怪しまれるだけなのに何をしてるんだ……、と考えていると、足音と布が地面に落ちる音が聞こえて来た。一瞬だけ、とんでもないことを考えてしまった。
足音は俺の背後で無くなると、今度は地面に座る様な音が聞こえた。
その直後、後ろから細い手が俺の首に巻き着くようにしてまわされてきた。背中から柔らかい何かが当たるのを感じ取ってしまう。
今の俺はバックハグされている様な状態なのだろう。
「普通の人は信じないかもしれないけど、私は信じるよ」
彼女は後ろから、優しく囁くように言ってきた。気持ちも体も何もかもが色々とマズくなってくる。
「……………今の俺は…何も出来ないぞ?」
首だけを振り返らせ、冷や汗をかきながら俺は答えた。
「大丈夫。なにも必要ないですから」
変な事を想像してしまう。
どうしてなんだ?俺が今人の姿をしているからか?スケルトンになればこの感情や想像をなくすことができるのか?いや、まずは何をするかを聞かなければ……
「必要ない?………何をするんだ?」
何をするかを知るために、俺は彼女に聞くことにした。
しばらく彼女は黙り込んでいたが、意を決したのか、口を開いた。
「………一緒に寝て欲しいです」
様々な感情が一瞬にして消え去った。
いや、別に期待とかしていた訳じゃない。逆に安心していたという訳だ。
まぁ、ここだけの話、ちょっとは期待してたけど………
だがそんな事を言ったって何も変わらない。
取り敢えずはオッケーという事になり、俺と海堂は同じ布団の中で寝る事になった。
あまりにも眠たかったので、そのあとのことは、何も覚えていない。




