完璧なパンの裏側
ご飯を一から作る………というのは俺からすれば初めてのことである。
簡単に言えば手作りだ。
でも手作りとは一体なんだろうか?
例えばバレンタインの時によくある手作りチョコ。
チョコを溶かして型を作り、トッピングを付けたら手作りと言われる。
だがカカオ豆から作ってもいないものを手作りと呼んで良いものなのか。
パンだって同じだ。
小麦粉やら何やらを混ぜた後に色々とすればパンは出来る。
手作りと言ってもおかしく無い。
でも一から、小麦粉の生産や小麦の栽培をしていないのに、それを手作りと呼んで良いのか?と言われて仕舞えば、何も言い返せなくなると俺は思う。
──────俺はさっきから何を考えてるんだ?
自分でパン作るだけなのになんでこんなことになってんの?
というよりこの舟の中にパンとかのご飯の作り置きが無いのってどうなってんの?
いや、まずそれがある自体が少しおかしいな………
……まぁ、材料はあるみたいだし、何かは作れるだろう……多分。
その後、しばらく台所を漁った。
冷蔵庫の中や冷凍庫、引き出しの中や戸棚などを詳しく探した。
五分程探して発見できたのは、小麦粉や謎の粉、食塩や砂糖に乳製品(牛乳やバターなどだ)、水と卵と木で出来たボウルだった。
……………これで何したら良いの?
まぁ、取り敢えず全部混ぜたらなんとかなるだろう……
俺は小麦粉や謎の粉、乳製品などを全部ボウルにぶち込んだ。
どうしたらいいのかわからないので、そのまま手でこね始める。
初めのうちは液体やら固体やらでグシャグシャになっていたが、こね続けていると、段々と周りの水分が無くなり、一つの固体になった。
表面はボロボロで、こね続けてボロくなった粘土のようになっていた。
………多分これでいいだろう。
と思っていると、一つの黄色い物体が残っていた。
そう、バターである。
確かバターって高温じゃ無いと溶けないんだっけ?
じゃあなんで俺は液体の中にバターを入れたの?
………今は考えないでおこう。
俺はバターを火の魔法、『フィアンマ』を使い、液体にした。
その後、固形物をまな板の上に置くと、手を使ってこね始めた。
多分これで合っているはずだ。
しばらくこね続けながら、バターを混ぜてさらにこねていくと、ガタガタだった表面は綺麗になった。
といっても、まだ形はおかしいが……
感触的にも、柔らかい…多分パンだろう。
俺は仕上げにパンを四当分にして丸め、『フィアンマ』を使い、パンを燃やす。
これで完成するだろう…
結果だけを言う、失敗した。
まず卵は混ぜるものじゃなかった。
パンの焼く前に塗るやつだった。
こねるのは良かったけど小麦粉をまな板にまぶして無かった。
あれが無いと上手くいかないらしい。
パンを寝かせていなかった。
それのせいで形は丸いけど、膨らまずそのままの形状になってる。
多分このパンの中身はふっくらとかサクサクとかそんな次元じゃ無いと思う。
火加減を間違えた。
お陰でパンは真っ黒だ。
…これどうしよう………
使えるといったらキャッチボールのボールくらいだよ?
俺はそう思いながら、頭を抱えた。
などしていると、いきなり食堂と入り口から声が聞こえた。
「あら、一体何をお作りになっているのですか?」
顔を上げると、見慣れた姿の少女がいた。
オクルスだった…今度は大丈夫だな…
「パンを作ってただけだけが?」
「パン?ご冗談を。黒いボールにしか見えないのですが?」
と、彼女はクスクスと笑いながら言った。
まぁ仕方ない……こんなことになっちゃったんだし……
「黒いボールでもパンはパンだ。…味は良く無いと思うが……」
今返した言葉が、俺が出せる最大限の言葉だと思う。
これ以上の言葉は何も出てこないからな。
「なら……私が作って差し上げましょうか?」
と、オクルスは少し微笑みながら俺にそう聞いてきた。
「構わないのか?」
「えぇ、貴方は食事を得られると同時に、私も少々腕を上げれるので」
彼女はそう言いつつ、俺の前に移動してきた。
その時、彼女の白い髪が横になびき、誘うかのように動く。
甘い香水のような香りが鼻の奥を刺激してくる。
が、俺が思ったのはそれだけだ。
……それにしても、なんで女性の髪はこんなにも香りがするんだろう?
果物の果汁でも髪に塗ってるのかな?
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やった……やった、やったぁ!
木島くんが私の手作りパンを食べてくれるなんて嬉しい!
それに彼に女子力を見せることができるなんて……なんて嬉しいのかしら……
でも今は、彼のためにパンを作らなきゃ……
いくつかの工程をした後、美味しそうな食パンが出来た。
本当ならクロワッサンとか、色々なものを作りたかったけど、やっぱりオーソドックスなものが一番だと思い、これにした。
私はパンが乗ったお皿を持ち、木島くんが座っているテーブルに向けて歩み寄った後、彼の席の前にお皿を置いた。
「食パンか……随分とシンプルだな」
「シンプルな物にこそ価値があるのでは?」
私は木島くんが言った意見に、反論を出す。
「……確かに一理あるな…まぁ良い、俺も食べようと思っていたのはパンだからな。別にどんなものでもよかったんだがな……」
と、彼は言いながら、食パンの一切れ縦に持ち、紙を小さく破くかのようにパンを千切った。
そしてそのまま、口の中へと一欠片を運んで行く。
……どんな感想が来るのかな。
「………普通に美味いな…」
やっっっっったぁぁぁぁぁ!!!!!
と叫びそうになったけど、心の中だけにとどめておき、それと一緒にガッツポーズをした。
もちろん心の中で。
「と、そういえば聞き忘れていたな。目的地まではあとどれ程掛かる?」
ふと現実に引き戻された感覚になった。
そういえば彼には詳しく言ってなかった気が……言わなくちゃ……
「そうですわね……今日を除けばあと1日でしょう」
「1日か……早いな」
彼は興味が無いようにそう答えた。
でも、無理もないと思う。
彼からすればどうでも良いイベントかもしれない。
でも私からすれば──────一世一代の重要な事が起きるんですよ。
私は顔を木島くんに見えないように隠した。
多分、今の私の顔は、不気味な仮面のような笑みだろう。




