初の戦闘
岩のような角を生やした翼竜に睨まれた俺は、その翼竜を睨みつけていた。
逃げられないような状態だ、このぐらいしか出来ることはない。
しかもこれはゲームでは無い。モン〇ンみたいに回避できるわけでも無いし、武器も無いからガードすら出来ない。
丸腰の状態で腹を空かせて凶暴になっているライオンに挑むようなものだ。
死んでもおかしく無いだろう………
するとその翼竜は、翼のに生えた小さな指を地面に付け、角を俺に向け、右足を二、三回ほど後ろに引いた。
まるで闘牛が目の前の獲物を刺し殺すために、勢いを付けているかのように………
突っ込んでくるのか?と、考えた途端、その翼竜が猛スピードでこちらに走って来た。
1秒も経たないうちに、俺と角の距離は、一メートルほどに縮まっていた。
俺は危機感を感じて、右に飛ぶようにして回避した。受け身の取り方とかは全くわからなかったから、地面に着いた時には、3回ほど地面を転がった後に、ようやく立ち上がった。
無様だけど、死ぬよりは恥を晒した方がまだマシだ。
角を生やした翼竜は、俺が横に避けたとしても、真っ直ぐに走っていた。
が、奴には知性があった。
左に生えている翼の指を地面に刺し、そこをコンパスの針の部分のようにして、反時計回りに回って来た。
そして俺のいる方に向くと、左翼の爪を地面から離し、再び俺の方に突っ込んで来た。
コイツは、確実に俺を殺そうとしている。
俺はその突撃から守るために、顔をガードするように、両腕を前にクロスした。
尖った角が俺の上腕に当たり、後ろに吹き飛ばされる。
両足と両腕をを地面に付け、飛ばされた勢いを強引に止める。
顔を上げると、翼竜がこちらに向かって突っ込んで来た。
確実に回避出来ない状態だった。
出来ることといえば、ワザと後ろに飛び、勢いを極力殺すことぐらいだろう。
いや、他にもある。
俺は右手で地面に積もっていた砂を掴むと、翼竜の顔に目掛けて投げつけた。
目には入らないと思うけど、ちょっとした目眩しぐらいにはなるだろう。
投げつけた砂は翼竜の目に入り、叫び声を上げた。
どんな声で、なんて叫んでいたのかは全く分からない。けれど、痛みで叫んでいるのはわかる。
翼竜は走る勢いをその場で殺し、顔を振り始めた。
少しくらいなら足止めできる。でも、攻撃手段は何も無いぞ?スキルも戦闘で使えるものも無い。
クソッ、どうしたらいい…
『周囲の地形を再確認出来ましたが………貴方は一体何をしているのですか?』
『全てを知る者』がいきなり話しかけて来た。
見たらわかるだろ!戦闘中なんだよ!
しかも攻撃用のスキルも無い、本当に不運だ!
そう心の中で嘆いていると、『全てを知る者』が声を放って来た。
『貴方は攻撃系のスキルは所持していませんが、私ですら知らないスキルを所持しているようです』
はい?どういうことだ?
『スキル名は「奪い去る者」。詳細は不明ですが、敵の記憶も、肉も、血も、魂をも全て奪い去ることが出来るようです。スキルを使うには、目標に触れていなければ無意味らしいです』
超接近戦用かよ。ロングソードとか槍とかの次元じゃ無い。
攻撃範囲は真っ直ぐに伸ばした自分の腕だけだ。
けれど、武器あるのと無いのとを比べたら、ある方が、一番マシだ!
目の前の翼竜は砂を払うことが出来たのか、俺の事を再び睨みつけて来た。
歯が剥き出しの口の歯の間から、黒い煙が吹き出る。
巨大な一本の角を、俺の方に向ける。
目の前の翼竜が、『この一撃で必ず仕留める』と宣言しているように見えた。
さっきの俺だったら逃げることしか出来ない。
けれど今は武器がある。
アイツから肉も、血も、臓物も骨も、何もかも全部奪い去れば、確実に息の根を止めれる。
互いに睨み合う。
そして両者の足が少し動いたのが、試合開始のゴングの代わりになった。
翼竜が全速力でこちらに向かってくる。
俺も負けじと、翼竜に向かって全力で走る。
距離が段々と短くなっていく。
そして翼竜の角が届きそうな所で、俺は両手を下に振り下ろした。
とび箱を飛ぶ時のように、手を角の先端に乗せる。
けど、俺は飛ばずに右足を角に乗せ、地面を蹴るようにして、前に出た。
左足も同じように角の根元付近に乗せ、前に出る。
両手を使い、尻尾に向けて生えている外殻に指を引っ掛け、前に行こうとした勢いを殺す。
そして左手で外殻にしがみ付きながら、右手を手刀のように構えると、外殻の間にめり込ませた。
肉にめり込んでいく感覚が、指を伝わる。
翼竜が痛みを感じたのか、叫び声を上げた。
俺の事を振り落とそうと飛び跳ねたり、尻尾を振り、遠心力で飛ばそうとする。
左手は勢いに耐えられずに剥がれた。けれど右手は外殻の間に挟まってる。そうそう外されることは無い。
俺はその体制のまま、『奪い去る者』を発動させる。
発動させてすぐ、とてつもない頭痛に襲われた。
ちょっとした頭痛とか、そんなレベルじゃない。頭に指をめり込まれて、強引に骨ごと引き裂かれるような痛みだった。
原因は多分、翼竜の膨大な量の記憶が、一気に頭の中になだれ込んできたからだと思う。
人が受けていいレベルではない程の頭痛を受けながら、俺はスキルを使い続けた。
今ここでスキルを使わなかったら、確実に死ぬ。
死ぬのと、生き地獄を受ける事を比べたら、こっちのほうがまだいい。それに何回も使ってたら、慣れるだろう。
しばらくすると、翼竜の抵抗が徐々に弱くなって来た。
後少しで終わるのだろう。と思った途端、翼竜は急に動かなくなった。
そして右腕を引き抜くと、翼竜は骨は残らず、白色にも、黒色にも見える灰に変わり、ザーッという音を立てていそうに崩れて、砂の中に紛れた。
もうどれが砂でどれが灰なのか、わからないだろう。
人生初の戦闘は………終わった。
俺はそのまま、このドーム状の巨大な穴を出るために、再び壁に指をめり込ませ、よじ登り始めた。




