幸福の乙女
木島くんを見た後、私は日本にいた頃の姿のまま自室に入った。
顔に熱がこもり、荒い吐息を、口から吐き出す。
体が快楽を求めて体が疼き、下半身が濡れ始める。
私はベッドの上に横たわった。
今すぐにでも身にまとっている服や下着を全て脱ぎ捨て、指で下半身を弄りたいという衝動に襲われる。
でも、今はそれをやらない。
やったところで、この体の疼きが止まる確証は無いし、逆にこの感覚が増すだけだと思う。
なら、触らない方が良い……と考えるが、触りたいという気持ちの方が少しだけ大きかった。
抑えたい……でも抑えられない。
自分は欲に弱いのだと痛感してしまう。
…………少しだけ……しようかな?
そう考えた時には、私は下半身の下着をずらし、胸を服越しで触り始め、指で慰め始めた。
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俺が舟の甲板に戻ってくると、オクルスが居なくなっていた。
落ちるなんて事はまずあり得ない。
という事は部屋にでも入ったのだろうか……
と考えていると、一匹の狼が俺に近づいてきた。
灰色が少し黒が濃くなっている色をしていた狼だ。
野生の狼がこの舟に迷い込む事はないから、多分オクルスが飼っている魔獣のような奴らだろう。
少し邪魔だったので何処かへ行かせようとしたが、よく見ると尻尾を上げて振っていた。
俺が日本にいた頃に何処かで聞いた話だと、犬が尻尾を振るのは気持ちを表しているらしい。
上だったら嬉しくて、真ん中だったら普通で、下だったら警戒してるんだっけ?
それで今は上を向いてるから………嬉しいのか。
でもなんでだ?
俺は特に何もしていないのに、どうしてこの狼は寄ってくるんだろう…
俺は頭を撫でようとして左手を伸ばすと、狼は俺の指を噛んだ。
………どうやら骨を噛みたかったらしい。
こうしていると、この狼は俺よりも骨が良いように思えてしまう。
まぁ自分の体は全身骨だから仕方ないか……
左手の指は噛まれ続けていたが、空いている右手で頭を撫でた。
骨でゴツゴツしてたらかわいそうだと思ったので、右手首は人間の物にしている。
撫でると、触り心地の良い毛が手を包み込むような感覚に襲われた。
簡潔に言うとめっちゃ撫でたいと言う事だ。
そのまま撫で続けると、狼は可愛らしい声でクゥンと鳴いた。
狼と犬は同じって言われてるからな………ふと思ったんだが、ライオンってイヌ科だったっけネコ科だったっけ?
まぁいいか、今思い出しても何も意味無いからな。
と、目の前の狼と戯れていると、舟の後ろから扉が開く音が聞こえた。
白い髪に白い肌に赤い瞳、オクルスだった。
「マグナさん、そろそろ食事の時間ですが、ご一緒しませんか?」
「お誘いは嬉しいが、やめておくよ。スケルトンは食事が出来ないのでね」
俺はオクルスに振り返った状態で答えた。
人の姿になれば食事が出来るが、腹が減るわけでも無い。
正直言うと、人間の時の自分の姿が嫌いだ。
理由は………後々話すかもしれない。
「そうですか……残念ですね。では、私は食事をしてきますので」
オクルスはそう言うと、舟の部屋へと戻っていった。
誘いは嬉しい。
でも………今は要らない。
どうしてか知らないけど、飯を食う気が起きない。
「みぃーかーんーのはーながーさぁーいてーいるぅー、おーもいーでのーみちーい、おーかのぉーみちー、はーるかーにみーえるー、あーおいーうみー、おーふねぇーがとーおくーに、かーすんーでるぅー」
俺は外が夜になっている舟の甲板の上から外を見ながら、そんな歌を歌っていた。
確か、『みかんの花咲く丘』と言う歌だったと思う。
どうして歌ったのかはわからないけど、ふと歌詞が頭の中に浮かび上がったので歌った。
「久しぶりにその歌を聞きましたね……何という曲でしたっけ?」
外を見ている最中に、後ろから声が聞こえた。
オクルスが食事を終えて、帰って来たのだろう。
オクルスは俺に向けて歩き続けると、「お隣失礼します」と言い、俺の右隣に立った。
「『みかんの花咲く丘』と言うタイトルだった気がする……」
「あぁ……確かそんな歌でしたね……そういえば、その歌声をどこかで聞いたことがあるんですよ……」
「聞いたことがあるのか……一体誰の声だったんだ?」
俺がオクルスに目を右に向けて聞くと、彼女は少し頬を赤く染めて、目を逸らした。
「………私が恋心を抱いていた方の声に、似ております…」
恋心か……この人は青春してたんだなぁーと思ってしまった。
俺は日本の中では16年間生きて来たけど、誰にも恋心を抱いてなかったからな…
……誰か気になるし、ちょっとだけ聞いてみるか。
「ほう……名前は教えれるのか?」
俺がオクルスにそう質問すると、彼女の肩がピクリと震えた。
しばらく立った後、彼女はこちらを向いた。
その時に彼女の顔を見た俺は、寒気を感じた。
例えるならば、携帯電話を持って行ってはいけない学校の授業中に、自分の携帯電話から着信音が鳴った時のようなものだった。
彼女の口は三日月のような口に、頬を赤く染めながら笑みを浮かべ、俺に質問した。
「………本当にお聞きになるのですか?」
このパターンは聞かない方が身のためだな……
「いや、やめておくよ。それを聞いたら、少々自分を呪ってしまうかもしれないからな」
「賢明な判断ですわね………」
彼女はこちらから顔をそらし、再び俺の方を向いた。
その時の顔は、いつも通りの顔だった。
さっきの顔は、仮面のように思えてしまった。
……俺はもしかしたら、彼女の何かヤバい領域に入りかけたのかもな………
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さっきのは…危なかった………
木島くんに「あなたの声に似ている」って言うかどうか迷ったけど、さっきの顔をして正解だったのかもしれない。
もし………彼がそれを聞いたら、私のことを変な目で見るかもしれない……そう考えると、怖くなってしまう………
そう考えてると、左隣にいた木島くんがいきなり座りだした。
「あら?どうしてお座りになるのですか?」
「立っているのが辛くなってな」
そう見ていると、私も座りたいと思って来ました。
………いいのかな?
「…………お隣に座っても、よろしいでしょうか?」
「いきなりだな、どうしてだ?」
「簡単です、座りたくなったので」
「ほう………簡単な理由だな…別に構わないぞ」
木島くんはそう答えると、また夜空を眺め始めた。
私は彼の隣に座った。
片思いしている人の隣に座れるのは、あまり無い……そう思ってしまうと、少しだけドキドキしてしまう………
自然と顔が少し赤くなる。
少し時間が経った後、私は木島くんにもたれかかっていた。
「いきなりどうした?」
彼が聞いて来た。
理由は幾らでも有るけど、今ある1番の理由は、多分これだと思う。
「えっと………落ち着くから……ですわね」
「俺の体が骨なのにか?」
「えぇ、それでも落ち着きますので……」
私はそういうと、木島くんの右腕に手を通し、腕に抱きつくような体制になった。
人の腕みたいに、柔らかさとかは無いけど、それでも彼の腕に抱きつけるのは、とても嬉しかった。
「………抱きついて何になるんだ?」
彼は横目で腕に抱きつく私を見ながら質問して来た。
「抱き枕みたいなものですわ。お気に召さらず」
「それを聞いて気にしない奴が居るか?俺は居ないと思うが………まぁ良いだろう……」
木島くんはそう答えると、また夜空を眺め始めた。
私もそれを見て、空を眺めた。
長い間見てなかった夜の空。
そして好きな人と一緒に眺められるという嬉しさ。
私は多分、どれだけ神様に感謝をしたとしても、まだ足りないだろう。
私は今、この人生の中で、1番の幸福を感じています。
投稿が遅れました五里川です。
この話を見てくださった方はわかると思いますが、始めのところに少々性的描写があったと思います。
理由は………多分ありません。
はい、それだけですね……
あ、それと他にも色々と変更したところがありますので見てくだされば幸いです。




