『足』と白髪の少女
『テレポーテーション』で戻った後、俺とオクルスの魔獣達と一緒に舟の修復をした。
魔獣も色々と居て、猫のような魔獣にハトのような魔獣、狼みたいなものもいる。
一匹一匹が個性豊かだったので、戯れたら楽しいだろうと思った。
舟の底を治したり、翼を回復魔法で治したりして、修復は一時間で済んだ。
壊れた木材を剥がしたり、木材を慎重に曲げて行ったり、釘を打ったりと、かなりの作業があったから時間がかかるのは仕方ないことだろう。
「本当に終わってしまいましたわね……」
オクルスは修復された舟を見上げていた。
何日か掛かる舟の修理を、経った二、三時間ほどで済ませてしまったら、誰でもそんなコメントになるだろう…
「舟はちゃんと治した。これで約束通り、俺が行きたい場所に行かせて貰えるんだよな?」
「……まだです。舟は治せたとしても、飛行するかどうかはわかりませんからね」
それも確かにある。
治ったと思って飛ばなかったら、意味が無いからな。
「なら、飛ばすのか?」
「えぇ。この舟が飛行出来るのであれば、良いですけどね」
まぁ、飛ぶだろう………と思ったが、口には出さなかった。
出来ると口に出した言葉が出来なかった時は死ぬほど恥ずかしいからだ。
「……早く確認しなければいけませんね」
オクルスはそう言うと、自分の魔獣達を連れて、舟の中に入った。
ちなみに入り方は自分の鳥の魔獣を使って登って行った。
他の魔獣は木を伝って入って行った。
全員……と呼べば良いかわからないが、魔獣が全て舟の中に入ると、舟が翼を羽ばたき始めた。
……………あの、俺はどうしたらいいの?
「おい、俺はどうすれば良いんだ?」
俺はオクルスに質問した。
「貴方は飛行出来るのでしょう?ならそれで乗って下さい」
彼女は俺を真顔で見下ろしながら言った。
………どうして腹が立ってしまうんだろう…
いや誰でも腹が立つか?
うん、絶対そうだ。
などと考えた後、俺は『フライング』を使い、舟の甲板の上に飛び乗った。
舟は翼をバサバサと羽ばたかせ、少しづつ浮こうとしていく。
だが、舟はまったく浮かなかった。
「………浮いてませんね…」
オクルスは溜息を吐いた後、続けてこう言った。
「失敗……という事でよろしいでしょうか?」
いや、それは絶対にあり得ない。
傷付いていた翼は回復魔法で元通りにしたし、材料もこの舟に使われているのと同じ物を集めた。
なら、原因は別にある。
俺はそう考えて、舟の翼周りを見て回った。
左にある翼から順番に1枚目、2枚目、3枚目……という感じで見ていくと、4枚目の翼が木の枝に引っかかっていた。
一本や二本なら枝を折って飛ぶことができるが、10本ほど絡まっていて、折れにくくなっていた。
俺は『フライング』で浮かび上がり、引っかかっている翼に向かって、枝を5本折った。
すると、引っかかっていた翼は残りの枝を折り、翼を羽ばたかせた。
舟は、空へ向けて浮かび始めた。
それを眺めていた俺は、舟の甲板の上まで登った。
舟は浮き続けていくと、雲の中へ入った。
水蒸気で出来た白い塊は、俺の視界を奪った。
だが、それはほんの一瞬だけだった。
舟が雲を突き抜けると、そこはなんとも美しい光景が広がっていた。
雲は所々にあったが、西に傾いた太陽は、山に一部を隠されていたが、暖かい光を放っていた。
下を見れば、森や小さな草原などの緑が太陽の光で覆われている地面が広がっていた。
………美しいとか、綺麗とか…そういう言葉しか、出てこなかった。
俺は、自分の右手の手首から先を人間の物に変えた。
舟が進むたびに風が肌にあたり、心地良かった。
「どうやら、舟は浮かんだようですね」
背後から声が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、瞳を閉じていたが、微笑んでいるオクルスが俺に向けて歩んできた。
「あぁ……まぁそれのおかげで、こんなにも美しい景色を見れるとは思ってなかったよ……」
「美しい光景ですか………私も見てみたいですね……」
そう言えば、オクルスは目が見えなかったんだよな……
……待てよ、蘇生魔法を応用すれば、体の一部の変更が出来るかも知れない。
(『全てを知る者』、今俺が考えた事は可能か?)
『はい、可能です』
(よし、やってみるか)
俺は『全てを知る者』と会話を終えると、オクルスに聞いた。
「なら?この美しい光景を見てみるか?」
「え?」
オクルスは驚きの声を上げた。
目が見えないのに、いきなり見てみるかと言われたらなぁ………
しばらくすると、彼女は結論を出した。
「………見てみたいですね…」
「よし、なら俺の側に来い。見せてやろう」
オクルスはそれを聞くと、俺の側まで歩いて来た。
歳は格段に違うが、女子が自分の側に来るのは、少しだけ嬉しい気もあったりする。
でも今はそんなことよりも彼女の目を治すのが最優先だ。
「『メホラミエイト』」
俺は彼女の目元に左手を当ててそう唱えると、俺の手が暖かい黄色の光を放った。
今使ったのは、『魔法合成』で自作した魔法、『メホラミエイト』だ。
簡単に言えば、そこにあるものの状態を改善する魔法。
ちなみにこれを作るのに、『ステイトリカバリー』と、『状態変化』を消費したのは、かなりの痛手だった。
光が無くなると、俺は左手を退かした。
「目を開けてみろ」
俺はオクルスにそういった。
オクルスはゆっくりと両目を開け、目の前に広がる光景をみた。
ルビーのように赤い瞳は、瞼を開けた後、目を見開いた。
「…………綺麗…」
彼女は、ポツリと呟いた。
「綺麗……と言うよりも、美しい……といった感じだな」
そう言って、ふと俺の横を見てみると、オクルスは目から涙を流していた。
「………目が見えるようになったのが、泣くほど嬉しいのか?」
「え?い、いえ……泣いてなんか……」
彼女はそう言いながら目を拭っていた。
だが、しばらく目を拭ったした後、口を開いた。
「嬉しいですわ………この世界に生まれてからずっと、白と黒の世界しか見てませんから……」
そう言い切ると、俺の方を向いて、続けて言った。
「この舟と、私の目を治していただき、ありがとうございます……」
オクルスはそう言うと、両手でスカートの裾を掴んで少し持ち上げ、頭を下げた。
初めて会った時と、同じ挨拶であった。
礼なんて要らないのに、なんでこうなるんだろうな………
「………それにしてもこの体では、心地好さそうな風を受けることすら出来ないかもな…」
「自分の体を変えることは出来るのでしょう?」
オクルスは俺に少し意地悪な笑みを浮かべて俺を見た。
バレていたか………
俺はそう思うと、自分の体を黒い炎で包んだ。
体から黒い炎が消えると、向こうにいた頃の人間の体になった。
ちなみに何故、暁人に名前がバレたのかを後々考えると、あの時の顔を自分に少し似せていたと言う。
ちなみにこの状態での姿は、至って普通の黒い毛の髪型、よくある男性のブレザーに、白い半袖のワイシャツ、黒いスーツのズボンと、簡単に言えば制服姿の高校生だ。
ちなみにブレザーのボタンは外して、前を開けている。
舟が進むたびに、風でブレザーが揺れる。
「案外、普通な姿なんですね」
オクルスは、俺を見つめながらそう言った。
案外って言うのは悲しいな………
しばらく俺と彼女は黙ったが、オクルスが先に口を開いた。
「そういえば、まだ行き先を言ってませんでしたね」
「あ、確かに………何処なんだ?」
「都ですよ。温泉で有名な」
「温泉で有名?………聞いたことがないな…」
「なら、行った方が良いですわ。かなり良い思い出になります」
温泉………そういえばこの世界に来てから風呂という物には入ってなかったな……
スケルトンの姿だったら、体臭とかは無いんだけど……まぁ、旅行という感じで行けば良いだろう。
「よし、ならそこに行こうか。それとこの姿を変えたい」
俺はオクルスにそう言うと、甲板の上を歩き、舟の中へと入っていった。
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オクルスは、舟の中へと入っていく人の姿をしたマグナを見つめていた。
その目は、ただ眺めているだけではなく、何か懐かしいものを眺めていたようだった。
彼が部屋に入ったのを見ると、彼女は膝を地面につき、自分の腕で体を抱きしめ「ふ、ふふ……」と笑いながら顔を下に向けたまま口を開いた。
「懐かしい……あの顔に、あの声に、あのシルエット………ほんとうに懐かしい…」
「懐かしい、懐かしい」と、ブツブツ呟いた後、彼女は自分の髪の色を白から黒に、瞳の色を赤から黒へ変化した。
顔立ちも変えていき、エルフにある特徴的な尖った耳は、徐々に丸みを帯び、本来の耳の形になった。
そして、彼女は────オクルスは顔を上げた。
そこにあったのは、先程まであった白銀の髪の少女ではなく、木島黒柳と同じ歳の、日本人の顔立ちをして、顔を赤く染め、息を荒く吐き出す少女の顔があった。
彼女の名は海堂 佳奈────中学三年の時、黒柳に片思いをしていた少女である。




