落ちる舟
異世界からやってきたもの………
つまり、生前の記憶を持っている転生者、もしくは転移者と言うことになる。
「と言いましてと、自己紹介がなければ分かりませんね………私の名前はオクルス。オクルス・フルーメルです。以後、お見知り置きを」
彼女はそう言いながら、両手でスカートの両端を掴み、少しあげてお辞儀した。
「オクルスか……俺はマグナ。マグナ・モルス・ルーナーティクスだ」
俺は彼女とは違い、お辞儀などはやらずに言った。
「マグナですか…………いいお名前ですね」
「………そいつはどうも」
「では、いきなりですが何を聞きたいですか?」
いきなりすぎる………というよりいきなりすぎた。
だがまぁ、聞きたいことがあるから別に良いんだがな。
「そうだな……何故落ちてきたんだ?」
俺がそれを聞いた途端、彼女の顔は少し険しくなった。
「話せば長くなります。それでも聞きたいと?」
「だから聞いているんだろう?」
「………そうですね。では、お話ししましょう。ちょっとしたお話を」
それから、ちょっとした彼女の話が始まった。
安藤暁人は、目の前に見えた舟に飛び乗った。
そこには、無数の魔獣が存在していた。
狼のようなもの、角を生やしたウサギのようなもの、他にも様々な魔獣が存在していて、
魔獣で出来ていたノアの箱舟だった。
「あら、ここでは見ない変わった波長が来ましたわね……」
女性のような声が、舟の甲板の上にある部屋から聞こえてきた。
暁人はそこを、その部屋を見た。
靴が板の上を歩く音、反響する音が聞こえた。
おそらく、この甲板の下には部屋があるのだろう。
だんだんと足音が近づいてくる。
暁人は己の右手に掴んでいる大剣を握り直した。
何故握り直したのかは、彼には少々わからなかった。
そして、目の前の部屋の扉が開いた。
そこには瞳を閉じながら、こちらに歩いてくる少女がいた。
白い肌に、肩までかかる白の髪。
そしてゴスロリの服。
この姿を見たのならば、ほんの少しは警戒心を落とすだろう。
だが、彼は───暁人は警戒を緩めなかった。
それの理由は、彼女が瞳を開けていないのに動いているということだ。
「………どうやらあなたに少しだけ警戒されているみたいですね……でも、大丈夫ですよ」
「それで安心できるやつがいると思ってんのか?」
「…まぁ、いらっしゃいませんね…………」
「つまりそういうことだよ」
「なら、無理は言わないようにしなければいけませんね」
少女はそう言うと、「シャドウドック、お客さんの特徴を言ってくれないかしら?」
と、一匹の犬の魔獣───シャドウドックにそう言った。
シャドウドックは暁人を見た後、少女の耳元に顔を近づけて、口を少しだけ開けたり閉じたりをした。
「黒い髪に平面的な顔………あなたは日本人ですね」
少女は微笑んで言った。
その瞬間、暁人は謎の寒気に襲われた。
何故少女は自分が日本人だと言うことを知っているのか。
「不安と焦りの波長ですね……私はあなたの敵ではありませんよ?」
「あぁ…理解している…しかし何故だ?何故俺が日本人だとわかっているんだ?」
「簡単な事ですよ。私もあなたと同じですから」
それを聞き、暁人は目を見開いた。
「お前も………なのか?」
「はい、もう何百年も前ですがね………」
「……お前は、前世の記憶を持ったまま転生したと言うことか?」
「そう言うことになります」
と、それで会話は終わった。
暁人は始め、この舟の翼を切り落とせばどうなるのだろうと言う考えでここに乗り込んでいた。
だが、目の前の少女と話しているに連れて、そんな事はしなくても良いと考えが付いた。
その時だった。
突然舟に巨大な振動が起きた。
まるで地震が来た時の地球のようになっていた。
後ろを見ると、巨大な龍が空を飛んでいた。
見たことがないような、翼を生やした漆黒の龍。
「なんで………コイツが居るんだよ……」
暁人は目を見開いていた。
少女は鳩のような魔獣に、一体何が来たのかを聞いていた。
「龍!?有り得ません!ここに龍は飛翔していないはずでは……」
少女は驚いていると、龍は舟と並ぶように飛び始めた。
そして不気味な色をした赤い眼球で舟を睨みつけた。
龍は本来、戦闘や威嚇をする時に咆哮をする。
しかしこの龍は何もせずに舟の右側の羽の4本目を噛みちぎった。
羽からは血が飛び出し、舟のバランスは崩れ始める。
少女は危機を覚えた。
このままでは甲板に乗っている者達が危ないと考えた。
そして、少女は自分の魔獣達に指示を出し、舟の部屋の中へ入るようにと言った。
しかし、暁人は甲板に留まったままだった。
「何をしていらっしゃるのです?早く入られた方がいいと思いますが……」
少女は暁人にそう呼びかけたが、暁人はそれを聞かなかった。
「黒い龍なんだろう?あの時の敵討ちが出来るじゃねぇか!!!!!」
暁人はそう叫ぶと甲板を蹴り、龍へ飛び乗り、大剣を突き刺した。
血が吹き出し、龍が暴れ出す。
だが声は上げなかった。
そのまま龍は暴れ、舟に激突する。
木片が飛び、舟のバランスが崩れ、地へと向かっていく。
その時になんとか少女は舟の中に入ることができた。
が、龍と再びぶつかり、船内が大きく揺れる。
そして少女は壁に打ち付けられ、気を失った。




