旅立ちと木の舟
あの後、トレイスとの決闘が終わった後、俺は戦闘中にユリンに掛けてもらった魔法で己の体を動けるようにして、ユリンを抱きかかえてギルドまで戻った。
俺はギルドの人達にユリンの治療を先にしてほしいと頼んだが、俺の方が傷が酷かったみたいだった。
なんとか交渉させた結果、先に俺が応急処置を受け、そのあとでユリンの片足を治すことになった。
ちなみに今の状態は、俺たちはギルドの一室にベッド二つを借りている。
部屋は正方形で、右と左の壁の端にベッドが一つずつ置いてある。
ちなみに監獄ではないので窓はしっかりあるし、電気も付いている。
俺がいる左端のベッドがあるところはかなり大きな窓があって、街の大通りが見える。
そしてユリンの方だが、彼女は片足が完全に治り、少しのリハビリをしている最中だ。
経った少しの間だけでも、人間は片足で生活できるようにさせようとしてくる。
それは俺が日本にいた時は凄いことかもしれないが、この異世界では逆に迷惑かもしれないな。
俺の方は左足の穴は元に戻り、右足も真っ直ぐに戻されたが、まだまだ痛い。
中の臓器も回復魔法で何事も無かったかのように元どおりになっているらしい。
本当に、異世界は凄いと感心した。
そんなことをベッドで寝転びながら考えていると、扉が開いた。
両足で完全に歩けるようになっていたユリンだった。
確か今日がリハビリの最終日だったっけ………
「クロヤさん、リハビリ、終わりましたよ」
いきなりこちらに近づきながら声をかけられたので、俺は反応に遅れた。
「あ、終わったのか……アレから5日でこうも回復するんだな……」
「はい、無事に回復しましたよ」
彼女はにっこりと笑った。
「次はクロヤさんの番ですね」
ユリンは手を後ろにして組む……要するに手を体育の授業の時の休めの状態にすると、くるりと回転して俺に背を向け、そう言った。
「あぁ……でも俺の傷はあと骨折だけだぞ?」
初日の頃の傷と比べてみれば、だいぶマシになっただろうと思う。
「………ですから、私にその傷を治させてください」
背を向けながらユリンは言った。
「な、なんだいきなり………お前こえーよ……」
俺は少しベッドの右に寄りながら言った。
「な、なんで引いてるんですか!そんなんじゃないですよ!べ、別にいかがわしい事とかそんなんじゃ……」
俺が動く音が聞こえたのか、いきなり振り向いてユリンはあたふた言った。
「なんでいかがわしい事とか無いとか言うの?マジでそれをされそうで怖いんですけど………」
「ち、が、い、ま、す!そんなんじゃありません!本当ですって!」
誤解を解こうとして慌てているのかもしれないが、その慌てているのが逆に怪しく見えてしまう。
その様子を見ていた俺は吹き出した。
「くっ!………あははははは!」
「ど、どこが面白いんですか!」
そんな俺を見ていたユリンはそう言った。
「いや…そう言う所が……」
「理由になってませんよ!ちゃんと答えてください!」
まぁ、たしかに理由にはなって無いな……
「……そうやって面白い行動をしてるのが、面白いんだよ」
俺は微笑みながら答えた。
「………それって、馬鹿にしてるんじゃないんですか?」
ユリンにそう言われてしまった途端、俺は言葉を失い、苦笑いをした。
───────彼女の言っている通り、少し馬鹿にしていた。
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銀のネックレスを首に下げた黒髪の男は、雲を貫くようにそびえ立つ岩山を登っていた。
黒髪の男────安藤暁人は、その岩山の頂上に立っていた。
頂上には、どこにでも落ちていそうな少々太めの木の棒に、ボロボロになった赤い布切れを括り付けていた簡易的な旗が立っていた。
その布切れには、彼が元の場所でよく見ていた文字、日本語でこう書かれていた。
『舟に気を付けろ』
舟?と彼は思った。
ここは雲の上、舟なんて存在しない。
常識的に考えてそうなことはあるまい。
そう考えていたがその常識はすぐに潰された。
いきなり、ゴォウと言う、何かが風を切る音が聞こえた。
ゴォウ……と言うより、バサバサと言う、巨体を翼が持ち上げるかのような音が聞こえてきた……と言えば分かりやすいだろう。
暁人はその音が聞こえる方を振り向いた。
雲を切り裂いて、片側に4本ずつの翼、計8本の翼を、一枚目が羽ばたけば二枚目が羽ばたき、二枚目が羽ばたけば三枚目が羽ばたく、と、前から後ろへ流れるように羽ばたいている巨大な舟があった。
舟、と言うのは現在のような鉄で出来たものではなく、海賊船などでよくある木でできていた。
それを見ていた暁人は、あることを考えた。
あの舟の片方の翼を全てもぎ取れば、舟はどうなるのだろう…と。
結果は、羽ばたけなくなり、虫などと同じように地に落ちる……などと言う考えが思いつくだろう。
だが彼が見たかったのは、どのように落ちるのか………と言うことである。
バランスをなくして墜落するのか……平行なまま落ちていくのか、傾くのか、回転するのか、何人落ちて、何人が船内で死ぬか、それが気になっていた。
だから彼は、ニヤリと不気味な笑みを出しながら、銀のネックレスを首から外し大剣にした後、舟に目掛けて飛び上がった。
しばらくした後、舟は地に向かって落ち始めた。
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ユリンに右足を治してもらい、やっとお互いの治療が終わった後、己の力で損傷したダガーを一本治した翌日。
俺はこの街を出ることにした。
今は、ユリンと共に南門に立っている。
確かに俺は、ユリンを守ろうとは思っている。
だが、そのための力がまだ無いし、戦力も無い。
たとえ全てを超越する力があったとしても、一人だけで戦ってしまえば、いつかは潰される。
なら、そのための戦力が必要になる。
その力は、今じゃ役に立たないかもしれない。
でも備えておけば、もしもの時に役立つ。
だから、ここを出ることにした。
ちなみにユリンには、体を鍛えるという事で出ていくことにした。
「本当に……行ってしまうんですね……」
ユリンは少し心配そうな顔で言ってきた。
「あぁ、もう決めたんだ。変える気は無いよ」
ちなみに俺とユリンはあの後、この街を救ってくれたという事で、ブロンズランクからラピスラズリランクまで上り詰めた。
ちなみにギルドからブロンズからラピスラズリまでのランクに行ける許可が降りない限り、正式にランクアップはしない。
俺はそれを受けずに、街を出ることにした。
その事情をギルドの係りの方に聞くと、どうやら3ヶ月まで待ってくれるらしい。
「でも、なんでランクアップしなかったのですか?」
「簡単なことだよ。お前と一緒にオリハルコンまで登りつめたいんだよ」
彼女はそれを聞くと、ため息を出した。
「そんな理由でですか………ほんとに、あなたはすごいですよ……」
ユリンは微笑みながら言った。
「ハハ、凄いだろ………じゃあ、行ってくるよ」
「はい…頑張って下さいよ」
俺はその言葉を聞くと、ユリンに背を向けて、歩き出した。
「あ、ちょっと待ってください!」
何歩か歩き、門を出るところでユリンに呼び止められた。
「必ず……帰ってきてくださいね?」
彼女は、俺の事を心配してくれている。
なら、彼女が心配を掛けないような言葉を言おう。
「あぁ、戻ってくるよ。必ず」
俺は振り向いて、ニッと笑った。
そして俺は、門の外へと出て、森の中を歩んでいった。
街を出てから約二時間が経過した。
ただただ森が広がっていて、だんだんと飽きていた。
そんな時、いきなり辺りが暗くなった。
明らかに暗くなるような感じが無かったので、少し怪しいと思った。
何かが風を切る音が聞こえてきた。
その方向を見ると、巨大な木製の舟がこちらに向けて落ちてきた。
空いた口が塞がらなかった。
なんでこんなところに舟が落ちてきてるのか。
てかどうして舟があるのか。
ツッコミどころが無数にあったが、取り敢えず回避しようとして逃げ出した。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一人で勝手に涙目になりながら全力疾走で逃げた。
だが向こうが落ちてくるのが速かったので、かなり近くのところで舟が地面に激突して、大量の土と何本かの木々が辺りに飛び散った。
間一髪のところでぎりぎり回避したが、飛び散った石ころと木の枝が体にぶつかった。
体を守るようにしてガードしていた。
無数の土と石ころと木の枝が飛んでいるその中で、一人の少女が飛ばされていた。
俺は自分の身を守るのをやめて、スケルトンの体になり、少女を抱き、飛び交うものから守った。
ちなみになぜスケルトンになったのかと言うのは、本来の体より、この体の方が早く動けるからだ。
俺は、抱きかかえた少女の体を見た。
白い肌に良くありそうなゴスロリの格好に、肩まで伸びた白銀の髪と、かなり豊富な胸。
瞳は閉じていたので何色かは分からなかった。
そして服の一部が破れていて、純白のような肌が見えていた。
下着なども見えていて本来なら少しエロいが、傷が所々にあったのでそんな風には思えなかった。
……まぁ、黒くて少し派手な下着だったと言うことは覚えているが…………
そんな事より、まずは回復が最優先だな。
「『サーナーティオ』」
俺は左手を少女にかざして、傷を癒し始めた。
しばらくそれを続けていると、少女の手が少し動いた。
「………目覚めたか?」
俺は回復魔法を中断して、少女に問いかけた。
「………ここは?」
少女は俺に問いかけてきたが、目は開いてなかった。
声が聞こえてくる方を向いていた。
「……さぁな。俺も知らないが、多分森だろう………」
と、返事をした。
すると少女は、いきなりこう言い出した。
「あなた………ここの世界のものじゃありませんね?」
なん………だと?
「波長の乱れ………どうやら当たっているようですね」
少女は俺から離れ、地面に立った。
そして、俺から少し遠ざかるように下がった。
目が見えていないのに、まるで見いているかのような動きをしていた。
「波長とかそんなものは知らないが、お前は……何者なんだ?」
俺は少々目の前の少女に警戒していた。
目が見えていないのに歩けている………明らかにおかしい。
こいつもまさか………俺と暁人みたいな同じ………
「ご安心ください、異世界の方。私もあなたと同じ、異世界からやってきたものですから」
彼女は、俺ににっこりと微笑んで言った。
やはり………俺のかんは当たっていたようだった。
あとがきではお久しぶりです五里川です。
さてさて、ついに令和になりましたね!
実のことを言いますと今日の1時ごろに出したあの作品は、平成最後の投稿にしようとしたのですが、時間配分を間違えて出すことができませんでした………悲しい。
では話を切り替えさせていただきますが、このお話で、一旦ユリンにはお休みさせていただきます。
マグナが街を去った後、舟が地に落ちてきて新たな人物に出会う。
今後、マグナと白い髪の少女は一体どうなってしまうのでしょうか。
私も想像しながらニヤニヤとにやけています。
それと皆様も少し気になっていると思われますが……………あの舟、なんで落ちてきたんでしょうね……
かなり気になります。
では、話すことが少々無くなってきましたのでお開きにさせていただきます。
平成の最後まで、この作品を読んでくださってありがとうございます。
令和も、この作品をどうぞよろしくお願いします。
では、五里川でした。




