苦痛
左足の太ももを撃ち抜かれ、地面に倒れ込んでいた俺は後ろを見ていた。
そこには涙目になっているユリンが地面に倒れ込んでいて、持っている杖の先を黄色に光らせていた。
「ち、違います!私は何も……!」
ユリンは必死に否定していた。
しかし、側から見たら、ユリンが俺に攻撃をしたようにしか見えない。
俺もそう思った。
だが、実際は違った。
「上手く行ったみたいだな」
トレイスが俺に歩み寄りながら言ってきた。
「えぇ、本当に」
突然後ろから声がした。
振り返ると、ユリンの影の中から一体のゴブリンが現れた。
アイツ………『影隠れ』と『影操り』を持ってるのか…………
俺は腰につけてあるバッグの中から回復薬を取り出そうとした。
「おっと動くな。動いたら……わかったなるよな?」
影に隠れていたゴブリンはそう言うと、ユリンを強引に立たせて首元に刃を突き立てた。
人質の時にあるいつも通りのアレか………
俺はバッグから手を出した。
トレイスは、自分の足元に落ちていた鉈を右手で拾い上げた。
「ほう……言うことは聞くみたいだな……じゃあまずは歩けなくするか!」
トレイスはそう言った途端、俺の右足を踏みつけた。
踏まれた足からはバキバキと嫌な音が鳴り始めた。
それと同時に、なんとも言えない激痛が体の中に響いて来た。
「がッ………あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その激痛に襲われた俺は、叫び声を上げた。
トレイスが足を退けると、曲がらない部分が曲がった俺の右足が露わになった。
自然と自分の息が荒くなってしまう。
額から脂汗が噴き出してくる。
「どうだ?足を踏まれた痛みは?」
トレイスはニッと不気味にニヤケながら俺を見下ろして来た。
「あぁ……痛いさ……ヤバイくらいにな…」
俺はトレイスを睨み上げた。
「それと同じだよ、俺の右目の痛みは」
それにしても、とトレイスは間を空けると、再び言った。
「まさか人間に目を一つ潰されるなんてな………治したいところだが、記念に取っておいてやるよ」
「ハハッ………そりゃ、どうも……」
俺は汗を流しながら答えた。
「本当に………凄い奴だな!!」
トレイスはそう言うと、俺の体を……上半身を踏み付けた。
体から背骨が折れる音と、臓器が潰される音が体の中に響く。
「がッ……ゴハァッ!!」
口から血が吐き出される。
自分の顎が赤色に染まり、口の中が血の味で満たされる。
「フハハハハ!!無様な姿だな!」
「て、テメェ………」
俺は口から血を流しながらトレイスを睨みつけた。
その目を見たトレイスは、踏む力を強くした。
背骨と共に肋骨が折れ、肺や肝臓に深々と突き刺さる。
「あッ…ガァッ!」
口から血を吐き出し、肺の中に血が流れ込む。
息が苦しくなっていく。
足を退けると、奴は俺の体を蹴り飛ばした。
吹き飛ばされた俺は2m程吹き飛ばされ、仰向けになるように倒れた。
自然と息が荒くなり、身体中が悲鳴をあげる。
トレイスは俺の髪を掴むと、俺の体を持ち上げた。
俺の両足は力なくぶら下がり、右足はギザギザに曲がり、左足は血で染まっていた。
まるで小さい子供が、手足が動くぬいぐるみの頭を掴んで持ち上げている状態だった。
その様子を見ていたトレイスが口を開いた。
「見るも無残な姿になったな………よし、お前にちょっとした良いことを教えてやろう」
「良いこと……………だと?」
「あぁそうだ。で、交渉だがあの娘を見捨てたらどうなんだ?お前の命だけは助けてやるよ」
「見捨てるだと?………何言ってやがる……そんなの出来るわけねぇだろうが…………」
俺はニヤケながら言った。
トレイスは舌打ちをすると、俺の頭を掴んで地面に叩きつけた。
叩きつけられた時に顔の所々が切れたのと同時に、俺の鼻の骨が折れて血が流れ出した。
「何故………奴を見捨てないんだ?」
「すまねぇな………俺はアイツの仲間なんでな……見捨てるのは出来ないんだ」
そう言った途端、後ろから空気が切れる音が聞こえた。
「あぁ?」
トレイスが後ろを向いた。
「『エアーハンマー』!」
その瞬間、聞き覚えのある声が聞こえて、トレイスが遥か彼方に吹き飛ばされた。
「なっ!?」
俺が地面にうつ伏せになるように落ちた。
声がした方を見ると、ユリンが杖を支えにして立っていた。
「『アーリーヒール』!」
ユリンがそう唱えると、俺の右足はバキバキと音を立てながら元に戻り、体の中の痛みと、右足の痛みが消え失せた。
「クロヤさん!これは一時的な回復です!ですから、時間が経ったらまた痛みが生じると思います。それと、多分私は狙われると思います!ですから───」
そう言うと、ユリンの後ろにトレイスが鬼のような顔付きで睨みつけていた。
彼女はそれに気付いていた。
しかし彼女は────ユリンはそれに怖じけずに俺に言った。
「─────ですから私を、守ってください!!」
その瞬間、右手に持っている鉈を振り上げた。
全てがスローモーションに見えた。
本来なら間に合わないように思えてしまう。
だが、間に合う!
間に合わせてみる!
俺は右手を背中に背負っている大剣を掴むと瞬時に駆け出し、トレイスの方を向きながらユリンの後ろに回り込んだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
俺は大声をあげながら、大剣を瞬時に引き抜くと、トレイスの鉈に向けて振った。
鉈の刃と大剣の刃がぶつかり合うと、火花が散った。
「なんでだ………なんでオメェは立ち上がれるんだ!!」
「残念なことに俺はユリンの仲間であって、コイツの王子様に指名されてるんだよ、お姫様助ける………だから立ち上がれるんだよな!!」
俺は大剣で奴を押し飛ばした。
「それに俺は………まだまだ戦えるんでな!」
「いいだろう人間…やってやろうじゃねぇか…」
トレイスはニヤリと笑った。
そろそろ終わるだろう………コイツとの……トレイスとのこんな嫌な戦いが。




