止まらない狂い
俺は片足を失ったユリンを肩で抱え、脂汗をかきながらトレイスを睨みつけていた。
どうする………どうすればいい………
俺は逃げるのか?
いや、逃げる意味なんてない。
トレイスを倒して、ユリンも助ける。
俺は建物の瓦礫にユリンを持たれかけさせると、トレイスの方へ向かった。
「そこで待っておけ……俺が倒してくる……」
「な、なに言ってるんですか?…………良いから私を置いて逃げてください!言った筈ですよ?危なくなったら逃げろって!!」
俺は不意にイラっとした。
仲間を置いていけだと?何馬鹿なこと言ってやがる………
「……何ふざけたこと言ってんだよ!!誰が仲間を置いていけるんだ!?変なことグチグチ言うんじゃねぇよ!!」
俺は後ろに向け、睨みつけながら言った。
それを聞いたユリンは、え?と言う顔をしていた。
俺はそれを見たが、無視してトレイスの方を向いた。
「おいトレイス、少し頼みがあるんだが、聞いてくれないか?」
「……なんだ?」
「俺と一対一で戦ってほしい。俺が勝ったら、特に何もいらない。でも俺が負けたら、俺は殺しても良い。だが彼女だけは殺すな」
「交渉か?」
「あぁ交渉だ。安心しろ、つまらない戦いにはしない」
「良いだろう、約束してやるさ」
トレイスはニヤけて言った。
策略は無い……だが、コイツは倒してやる……
俺は右手に双剣を持ち、左手にダガーを逆手で持った。
トレイスは前に俺が折った鉈を肩に乗せた。
「じゃあ、やろうか……」
「あぁ、やってやるよ……」
俺は睨みつけ、トレイスに向けて駆け出した。
トレイスは鉈を近付いてきた俺に振り下ろしてきた。
俺はダガーと双剣で振り下ろされてきた鉈を受け止めた。
途端、強い風が辺りに吹いた。
俺とトレイスは睨み合っていた。
「お前、強いな……」
「それは褒め言葉か?」
「あぁ……褒め言葉さ!」
そう言うとトレイスは振り下ろす力を加えだした。
地面に亀裂が走り、足がめり込んでいく。
俺は武器を押し上げて、鉈を弾く。
その隙を見て、俺は後ろに下がって、ダガーと双剣を直し、膝にあるカタールを引き抜き、連結させてフリスビーの様にしてトレイスに投げつける。
トレイスはそれを左手で掴むと、こちらに投げつけてきた。
プロ野球選手が本気で投げたボールと同じ感じだった。
俺は双剣で飛んで来たカタールを弾き飛ばした。
後ろで地面に突き刺さる音が聞こえる。
正面を見ると、トレイスがこちらに近付いて、鉈で右から横薙ぎをする動作をしていた。
双剣で受け止めると、奴はそのまま勢いを付けて横に振った。
俺の体はそのまま吹き飛ばされ、半壊した石の家の壁に叩きつけられた。
壁は音を立てて崩れ、体は地面に落ちた。
立ち上がってみると、何かの汚れで左目が少しだけ見えにくくなっていた。
左目の汚れを拭き取ると、その手は赤く染まっていた。
どうやら頭の一部が切れて血が出ている様だ。
前に戦った時と比べて力が強すぎる………やはり一筋縄では上手くいかない……………賭けに出るか。
「なぁトレイス……片目が見えなくなったらどうなるか知ってるか?」
「あぁ?なんだそりゃあ?注意でも引いてるのか?」
どうやらわかってたみたいだな。
でも、奴は俺が本当に考えてることを分かってない。
「良いから答えてみろ……」
「はいはい分かったよ、目が見えなくなるんだろ?」
トレイスは呆れながら答えた。
今、奴は俺に意識を向けていない。
ならこの一瞬で奴に攻撃を与えれる。
俺は双剣を右目に向けて投げつけた。
トレイスは左手で飛んできた剣を弾いたが、その後ろに合ったもう一本の剣に反応できずに、右目に剣が突き刺さった。
「グアァァァァァ!!!!!」
奴は右目を抑えて悲鳴を上げた。
何故トレイスの目に剣が刺さったのか、それには理由がある。
『隠し弾』、読み方はブラインドと言う。
撃った弾の後ろに同じ軌道、同じ速度でもう一発の弾を撃つ。
そうする事により、相手から見れば弾が一発だけ飛んできているように見える。
反応速度が高い相手なら、それを弾き飛ばす。
完全に避けきれる、と思い込んでいると弾が飛んでくるので反応しきれなくなる………と言う事だ。
トレイスは目に刺さった剣を抜こうとして、手を伸ばした。
もし奴が目の剣を抜いたら、『自動再生』で元どおりになってしまう。
俺は即座にトレイスの顔に飛び乗り、突き刺さった剣を奥へとめり込ませた。
これで剣は取れなくなる。
顔を蹴って後ろに飛ぶと、地面に刺さったカタールを二本抜き、トレイスに斬りかかった。
奴の体の肉を縦に斬り、横に薙ぎ払い、斬り上げ、突き刺し、斬り下ろす。
それをランダムで続けて、奴の体を滅多斬りにしていく。
傷一つが速く再生したとしても、無数にあるのなら再生時間は長くなる。
俺は両手に持つカタールで攻撃をし続けた。
途中、トレイスが鉈を振り下ろしてきたので、右手の指を全て切り落とし、腕を蹴り胴体に近づいて斬る。
体を蹴って後ろに下がり、再び地面を蹴って近づ─────こうとした。
その時の俺は、狂ったことはもう起きないと思い込んでいた。
でも、それは起こってしまった。
地面を蹴ろうとした途端、足に激痛が走った。
何かが足を貫いた様だった。
足を見ると、左足の太ももに穴が空いていた。
例えるなら、後ろから足を撃ち抜かれた感じだった。
俺は地面を蹴れずに、そのまま滑り込むようにして地面に倒れ込んだ。
両手に持っていたカタールが手から落ちる。
開けられた穴から鮮血が吹き出し、己のズボンと地面の乾いた土を赤く染めていく。
立ち上がろうとしたら、傷口が痛みを放ち、立ち上がれなかった。
「なんで………お前が………」
俺は激痛に耐えながら後ろを見た。
そこには──────涙目になりながら戸惑って、地面に倒れ込んでいるいるユリンがいた。




