狂い出す歯車
一人でゴブリンのところに突っ込み、双剣やダガーを使って倒していると、他のゴブリンと違って、体つきが大きな者がいた。
かなりデカかった。
どれぐらいかと言うと、本来のゴブリンが小学四年生男子と同じ身長だとする。
小学四年生男子の10歳11ヶ月の平均身長は141.7cm
その身長が180cmほどになったと思ってくれれば分かりやすいと思う。
もっと簡単に言うなら寺田心くんとジャイアント馬場さんを比べたらわかると思う。
……………いや、この例えだと特定の人にしかわからないな……
とにかく他のゴブリンと比べて、身長が大きい奴がいた。
もちろんそんなやつは放っては置けないので、攻撃を仕掛けることにした。
俺は大型のゴブリンの背後に回り込み、地面を蹴って首に近づき、ダガーで神経を切断して動けなくする──────────はずだった。
目の前の大型ゴブリンはいきなり首を180度回転させると、俺の顔を見てニヤリと笑った。
途端、ゴブリンは消えて、俺の背後に回り込むと、右手に持っていた大型の鉈を振り上げて、物凄い速度で振り下ろした。
一瞬反応は遅れたが、ダガーで鉈を受け止めた。
俺が作った武器は大体が様々な鉱物を使用して作られている。
壊れるのは向こうの武器のはずだった。
そう、はずだったのだ。
俺は左手に持っていたダガーで受け止めた。
少しの間は上から加わる力で動けなかったが、上手くいけば回避できると考えていた。
だが、俺が受け止めていたダガーはグニャリと形状を変えると、粘土をちぎるみたいに剣先が消し飛んだ。
すぐさま右に飛んで避けたことで、己の体には傷一つつかなかった。
だが、俺のダガーは一本使い物にならなくなってしまった。
壊れたダガーを見ると、粘土をちぎったように壊れている。
どうやら弾性限界で壊れてしまったみたいだ。
弾性限界とは、応力を加えることにより生じたひずみが、除荷すれば元の寸法に戻る応力の限界値というもの。
簡単に言えば物が元に戻ろうとする力が限界を迎え、壊れてしまったと言うことだ。
こうなってしまうと、刃物は役立たなくなる。
俺は左手にあるダガーを投げ捨てると、右手にあるダガーを大型ゴブリンに投げつけた。
ゴブリンは左手で投げたダガーを握り、放り投げた。
おかしい……おかしすぎる……
何故こんなにもゴブリンが強くなってるんだ?
(『全てを知る者』、何故こんなにもゴブリンが強くなってる?)
俺は大型ゴブリンの攻撃を避けながら『全てを知る者』に聞いた。
『お答えします。モンスター達は戦闘を行い、生き残った種族の一部は、戦ったものに似た力を得ることになります』
(ほ、本当か!?)
『えぇ、そうです』
そんなの想像してないわ……
さてどうする?
今のアイツはマグナ・モルス・ルーナーティクスに似た力を持っている。
今の俺と比べると、向こうの方が確実に強い。
でもやつは自動回復を持っていないし、頭もそれほど良くない。
切ったらそこから血を流す。
じゃあどうする?
工夫するしかないだろ!
俺は後ろに方向転換すると、膝にあるカタールと、腰にある双剣を一本ずつ抜いた。
今の俺は右手に双剣、左手にカタールを握っている。
大型ゴブリンに向かって駆け出すと、奴は反応して鉈を振り上げた。
振り下ろされた鉈を回避すると、鉈を踏み台にして、一気に近づいた。
それに対応できなかったゴブリンは、一瞬だけ止まった。
俺はその一瞬を逃さなかった。
左手に持っているカタールを奴の頭に突き刺した。
続いて俺は、右手にある双剣を頭に素早く突き刺した。
ほぼ同時だ。
ゴブリンは絶叫した。
振り落とされそうになるが、武器を握って振り落とされないようにした。
俺は頭に刺さっている武器を横に薙ぎ払った。
大型ゴブリンの頭は輪切りのように切れた。
頭の一部が切断された体は、後ろに倒れこんだ。
俺はカタールと双剣に付着した血を振り落とすと、鞘に収めた。
俺はゴブリンに投げ飛ばされたダガーを拾い上げた。
まだゴブリンは残っている……と思い、後ろを振り返った。
でもそこにあったのはゴブリン達の死骸だった。
焼け焦げた者、バラバラになっている者、首から上がない者など、色々といた。
その中に、よく見た姿があった。
「ほんと……貴方は世話をかけますね…………」
よく見た魔法使い、ユリンが居た。
「あなただけに当てないように工夫するの、大変でしたよ?」
「そ、そうか…済まなかった…」
「いえ、謝らなくてもいいんですけど……」
そんなことをユリンに言われた。
「………ありがとな…」
俺はユリンに感謝した。
「お礼なんていりませんよ、仲間ですから」
ユリンはこちらを向いて、ニッコリと笑った。
………良い仲間だな…と思えた。
「よし、ゴブリンは片付けた!次のウェーブに備えて、準備しておこう!」
誰かがそう言った。
にしてもウェーブか……
確か……波を意味してる言葉だよな……
ゲームでも、第1ウェーブとか色々と─────ちょっと待て。
今までの流れは、防衛戦とかをするゲームに似てる……
そして防衛戦のゲームは、襲ってくる方向はランダム……
って事は……
俺は少し嫌な予感をした。
まさかな…と思った。
でも、やはり崩れる時はとことん崩れるのだなと思えた。
突然、音魔法『イーコス』による放送が聞こえてきた。
『緊急事態です!南側の門に、ゴブリンの集団が現れました!防衛に回っている冒険者の何人かは、急ぎ向かってください!』
嫌な予感は、当たった。
俺はすぐさま、南側の門に向かい走り出した。




