操り人形と男の名前
目の前にいる茶色髪の男をどう殺すか考えていた時、男が口を開いた。
「お、おい貴様……俺と一騎討ちをしろ!」
「一騎討ち?唐突すぎないか?しかもお前の周りには誰も居ないんだぞ?」
明らかに不自然だな。
罠の可能性もあるが…………ちょうどいい。
どう殺すか考えてなかったからな。
撲殺か、絞殺、斬殺でいいだろう。
そう思いながら俺は自分の首をゴキッと鳴らした。
「さぁ、来い」
俺はそう言った。
だが、奴は動かなかった。
………仲間が来るのを待っているのか?
「どうしたスケルトン?来ないのか?」
茶色髪はニヤつきながらそう言った。
なるほど挑発か………乗ってやるよ。
俺は一瞬で茶色髪の腹部を殴り、壁に叩きつけた。
男は壁に叩きつけられ「がっ!?」という声を上げた後、地面に倒れこんだ。
その後、何故か動かなくなった。
………まさか死んだのか?
男の首に指を当ててみた。
脈拍はある、と言うことは気絶しているな。
いや、コイツは放って置こう。
そんなことよりもまずはユリンの方が先だ。
俺はユリンに近づくと回復魔法を使い、彼女の傷を癒した─────
彼女の傷を癒した後、睡眠魔法をかけて置いた。
俺の今の姿が見られたら、後々厄介なことになるかもしれないからだ。
その時、男の方から呻き声聞こえた。
「わ、私は……一体何を……」
「目が覚めたようだな」
男は俺の方を見ると驚いた。
「す、スケルトン!?何故こんなところに?」
………口調がおかしいな。
「おふざけはその辺にしておけ。さもなければお前の骨をへし折るぞ?」
「へ、へし折る?何故ですか!?私は何もしていませんよ!」
「戯れ言を言うな!お前はアレか?記憶を無くしたフリをすれば生き残れると思っているのか!?」
俺はそう言うと、男の胸ぐらを掴み上げた。
「今ならまだ許せる。本当の事を言え!!」
「本当の事だ、信じてくれ!私は何も覚えていない!この場所も知らないんだ!」
コイツ……………まだ嘘をつく気か………
俺は男を地面に叩きつけると、左腕を踏み付けて、骨をへし折った。
男は悲鳴を上げ、折れた左腕の手首を抑えていた
。
「次は右腕だぞ?」
俺は男の右腕を無理に引き離そうとすると
『お待ちください。彼は何一つ嘘をついておりません』と、全てを知る者がいきなり話しかけ来た。
…こんな時に何を言っているんだ『全てを知る者』は………
『ふざけてはいません。先程目の前の男性の過去を調べた所、先程まで何者かに操られていました』
は?おいそれって……さっきまでのアイツは操られていたって事なのか?
(それは本当か!?)
『本当です』
ということは、俺は今、何も罪の無い人間の腕を折ったのか?
俺は掴んでいた男の右腕を離すと、男は左手首を抑えながら俺から離れた。
「………すまない、すぐに腕を治す」
そう言い折れた男の腕を掴み、回復魔法をかけて治した。
それから少し話を聞いた。
名はリンズと言い、クレイン家に使える執権のような存在だった。
彼はある日の夜、いつも通りに活動をしている最中、自分の部下の一人に謎の呪文を聞かされて、その後の記憶が無いらしい。
「私は、ただクレイン様やそのご家族に使える為にしていたが………まさかこんな事になるとは……」
リンズはそう言いながら、自分の頭を抑えた。
よほど後悔しているらしい。
となればそいつが原因でリンズもユリンもこんな目にあった……って事だな。
とりあえず、そいつの名前だけでも知っておきたいな。
「その魔法をかけた人物の名は覚えているか?」
「いや、すまない………なんせ2日前に来た新人だったから…」
新人の名前はあまり覚えれない………確かにそうだな。
俺が小学校の時に引っ越してきたやつの名前も、初めは覚えられてなかったからな…
「そうか…いや、大丈夫だ。それと腕の件だが………済まなかった」
俺はそう言って頭を下げた。
確かにリンズの腕は完全に治せた。
だが俺が腕を折ってしまったのは間違いない。
治せたから無し………なんてことは絶対にしちゃいけないことだ。
「………いや、治ったので問題はない…」
「…そうか……」
リンズは、危険な人物ではないということはわかったが…彼をどうすればいいか、だな。
だがこっちが先々決めて、彼にも予定があるのなら、俺が考えたのが全て水の泡になる。
まずは彼に聞かなければ。
「リンズは、この先どうするつもりなんだ?」
「何も考えていないが……」
考えていないか……俺の知ってる転職先なんて無いしな……ん?
待て…有るじゃないか、リンズが働けそうな場所が。
「リンズ、少し良いか?」
「どうした?」
「俺はお前が働ける場所を知っている。だが…それには大きな代償が居るんだ」
「……言ってくれ」
リンズはそう言ったので、俺は彼に話した。
俺が知っている場所で働く為に、必然的な事を。
「─────いけるか?」
俺は目の前にいる彼に質問した。
しばらく黙り込んだ後、彼はこう言い放った。
「それでユリティルス様の負担が減るのなら…喜んで引き受けよう」
俺は彼の覚悟を知った。
そうか………と短い返事を返した後、俺は彼の頭を掴み魔法を発動させた────
************************
いくらほど経ったかわかりませんが、暖かい何かに抱かれている感覚を感じながら、私は目を開けました。
そこには、あの人の顔が写り込んでいて、私はお姫様抱っこされていました。
「アレ?………何が…あったんですか?」
「わからないのか?助けたんだよ」
お姫様抱っこされていた私は頭が少し付いていけませんでした。
「助け……た?」
「あぁ、助けたぞ」
私は、誰かに襲われていたはずでした………
でも、誰だったのか、顔も思い出せません…
そんなことを考えていた時、ふとあの時言った言葉を思い出して、ドキリとしてしまいました。
20歳の女性が王子様とか言っていたのを聞かれてたら………と考えてしまうと、バカにされそうで怖かったからです。
そんな事を考えていると
「言いにくい事なんだが………お前が言ってたの聞こえたぞ…」
「え?聞こえてたんですか?」
「あぁ…普通に聞こえた………」
「言わないでください!」
確か王子様って……と言いかけていたあの人の声を遮るように、私は言いました。
ここで気づきました。
怖い……というのは言い訳で、実際は恥ずかしいという事が……
「…………言わないでください…」
私は声が小さくなりながら言いました。
「いや、恥ずかしいことではないと思うんだ」
ふと言われたあの人の言葉に、私は「え?」っと、声をあげました。
************************
確かに俺はユリンが言っていたあの言葉を聞いた。
真顔で普通にしていたが、実際はめちゃくちゃ恥ずかしかった。
でも、それだけ俺のことを信頼していた………という事になる。
なら、彼女が言わないでくれと言っても、俺はこう思っているってことだけでも伝えよう。
「だって……そこまで俺のことを信用してくれてるんだな……って思えたから…」
これは変わらない事だ。
彼女がなんと言おうと、俺はそう思ったのだから。
「………そう、ですね」
少し間を空けてから、彼女は微笑んだ。
「あなたを信頼してるから、あのような事が言えますからね」
その笑っていた顔は、愛想笑いや苦笑いでもなく、ちゃんとした笑顔だった。
その時俺は、彼女には俺がスケルトンである事以外を伝えようと思った。
流石に異世界から来たとかは言えないけど、名前は言おうと思った。
「そういえば、まだ名前言ってなかったな…」
「あ、そうですね。ずっと聞きたかったんですよ。名前、何ですか?」
「……キシマ…キシマ・クロヤだ」
「キシマ…クロヤ……良い名前ですね!」
「ハハッ、そうだろ?」
俺は笑いながら答えた。
木島 黒柳─────────それは俺が、日本にいた頃の名前だ。




