少女の王子様
建物の影で真っ暗になっている裏路地に、私は息を荒くしながら倒れ込んでいました。
背中からは鮮血が流れ出ていて、火を付けられたように熱くなっていました。
「………れ、『レジスト』…」
私がそう言うと、右手に持っていた杖の先についている魔石は黄緑色の光を放ち、私はその光に包まれた。
途端、体に感じていた脱力感は無くなるのと同時に、体の中に回っていた毒を解毒することができた。
私は杖を支えにしながら立ち上がると、裏路地の奥へと逃げるように、背中から血を滴りながら、ゆっくりと歩き始めていきました────
************************
夜の街の中、俺は『ビジョン』で見れるようになっていたユリンの血痕を追いかけながら走っていた。
そして、少し気づいたことがあった。
今ユリンは重傷を負っている。
証拠になることはいくつかあるが一番わかりやすいものといえば、『血痕が壁に近い位置に落ちている』ということである。
俺が走っている付近に付着した時間は約3分前、つまりこの血痕を追いかけていけばユリンが居るところまで行けると言うことである。
だが、目の前にある曲がり角を曲がった途端、壁近くに落ちていた血痕は消えていた。
………なぜ血痕が消えているんだ?
ここで止血でもしたのか?
(……ユリンの状態は今どうなってる?)
『現在ユリティルスは背中から出血しています。恐らく転移魔法を使いこの街のどこかへ移動したと考えられます』
となるとここから離れた裏路地だな……
走って探したとするならだいぶ時間がかかるな………
よし、空を飛んで探すか。
「『フライング』」
俺がそう魔法を使う途端、体が羽根のように軽くなった。
(全てを知る者、俺に『ミラージュファントム』をかけて周りから見えないようにしてくれ。今すぐにだ)
『空から捜索すると言うことですね。了解しました、すぐに行います………終了しました』
これなら周りの目を気にせずに空から捜索出来るな。
俺が見つけるまで無事でいてくれよ……ユリン………
そう願いながら俺は、空へと飛んだ──────
************************
杖を支えにしながら歩いてかなりの時間が経ちました。
一歩……また一歩と歩くたびに、足がフラついてしまいます。
どうやら……体力があまり残っていないみたいです。
奴らが来る前に、早くここから離れなければ………
そう思った時に、「おやおや、一体何処に行かれるおつもりですか?ユリティルス様」
と言う男性の声が聞こえてきました。
後ろを振り返ると、私を追いかけている人物と、約10人程の彼の部下が立っていました。
その人物はレインコートのフード外していて、整えられた焦げ茶色の髪と痩せた顔がクッキリと現れていました。
「リンズさん………一体なんの真似ですか?」
私はその人物────リンズに質問しました。
「なんの真似?そんなもの決まっています」
リンズはこちらに歩み寄ってくると、私の腹部に蹴りを叩き込みました。
「がっ!?」
いきなり蹴られた私は、腹部を抑え込み、そのまま地面にしゃがみ込みました。
「あなたを始末するんですよ。そう、あなたのお父様のご命令でね」
そう言いながら、リンズの顔はニヤケていた。
「おい!この周辺に人が入らないように結界を貼れ!」
リンズは後ろにいる部下に怒鳴りつけるように命令しました。
いきなり怒鳴りつけられた部下達は、慌てながら結界を貼りに行きました。
「こうしないと本来の目的が言えないからな……」
彼は不気味に笑いながら本性を現すと、私の髪を掴み、乱暴に持ち上げました。
「さて、質問しよう……俺がお前を殺したら、俺はあの領地の領主となる。その時には金が必要なんだよ………クレイン家の隠し財産は何処にある!答えろ!」
この男の目的は、私たちのクレイン家の領地の獲得と、何処かに隠されている隠し財産です。
「知り………ませんよ……」
私はこの男に睨みつけながら答えました。
リンズは舌打ちをした後、私の髪を引っ張り、壁に叩きつけました。
その時に、私の鼻の骨は折れ、大量の血が出てきました。
男は私の胸ぐらを掴むと、壁に押し付けて怒鳴りながら聞いてきました。
「ホラを吹くな!お前は知っているんだろう?答えろ!!」
「ホラなんて……吹いてませんよ……」
それを聞いて、リンズが貴様ァ……と言いかけた瞬間、私はそれに………と言い話を続けました。
「人の話を聞いていないあなたの方が………悪いんじゃないんですか?」
リンズは私をものすごい顔で睨みつけた後、右手を握りしめると、私の顔を殴りつけました。
「俺はリンズだぞ!?貴族風情の貴様に何がわかる!!勝てるとでも思っているのか!?11対1の状況で、勝てると思っているのか貴様は!!調子に乗るなぁぁぁ!!!!」
彼はそう叫びながら、私の顔を何回も殴りつけました。
リンズが息を荒げる頃には、私の顔は痣や血で汚れていました。
「どうした……何か言ってみろ!!」
彼は胸ぐらを掴み上げ、私を睨みながら怒鳴りました。
ですがその時の私は殴られてばかりだったので、喋る気力も残っていませんでした。
でも、その時はなぜか喋ることが出来ました。
「愚か………………ですね……」
「お前……今なんて言った?」
私の声が聞こえたのか、リンズが聞き返してきました。
「愚かですね………」
「お前が俺に文句を言える元気があったことは認めよう………だがこの状態で助かるのか?」
確かに、この状態だとほぼ生きて帰れませんから詰みです。
でも、私はこう答えました。
「助かり………ますよ……」
「ほう……その保証が何処にある?」
たしかに、保証はありません───でも、
「あります…………よ…」
「じゃあそれはなんだ?」
そんなものは────決まっているじゃないですか。
「私の…………私の王子様が………助けてくれますよ……」
そう言った途端、リンズの後方に、私が見たことある大剣が突き刺さりました。
剣が刺さった音を聞き、振り向いた彼は驚いていました。
「な……に?……なぜ大剣がこんなところに刺さっているんだ!!」
彼は胸ぐらに掴んでいた手を離していたので、私はそのまま地面に落ちました。
壁にもたれこみ、剣が刺さった方を見ました。
その時、私は自然と口元に笑みを作っていて、目元が熱くなっていました。
「ほら…………来たじゃないですか………」
私は声を震わせながら言いました。
私が再び見た目線の先には─────昨日酒場で一緒に飲んだ、あの人が立っていました。
「私のことを助けてくれる………王子様が………」
その時、私の意識は突然プツリと途切れてしまいました。
************************
周りを見回すと、全身黒で構成された人間が11人いて、そのうちの一人はフードを外していた。
ふと、壁にもたれかかったまま涙を流したまま瞳を閉じていたユリンを見た。
(………ユリンは生きているか?)
『現在彼女は、大量出血により意識を失っているだけです。早い治療をすれば、命に別状はありません』
そうか………安心した。
………これなら少しだけ姿を現してもいいかもしれないな
「何者だ、お前は?」
俺は黙って、周りにいる人間を見回した。
「……………よくも俺の仲間のユリンを傷つけてくれたな…」
そう呟くと、俺は黒い炎で体を包んだ。
そして、人の姿からスケルトンに変えて──こう言った。
「…………覚悟は出来ているんだろうな?」




