表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ちはやぶる』  作者: 八神 真哉
8/91

第八話  老臣

女房を下がらせ、忠信自ら蔀戸を上げる。


床に座ると庭からホオジロのさえずりが聞こえてきた。


池の畔の木々も岸辺の草むらも色づいている。


「それは、なぜなのですか?」


ささらが姫の問いに忠信は頭を下げた。


声は抑えられていたが姫の怒りが伝わってくる。


忠信は、すっかりと白くなった頭をあげた。


齢が五十を超えたあたりから頬がこけ、たくわえた髭も白くなってきた。


「料理を口にする前に鳥や魚についばませているのは……」


「それがなにを意味しているかは、訊かずともわかります。わからないのは、なぜ、そのような用心をしなければならないのかということです。あの者は、それほどの罪を犯したのですか?」


常であれば、人の話をさえぎる姫ではない。


怒りのほどが察せられた。


「イダテンは何ひとつ罪を犯してはおりません。常に、宗我部の手の者が仕掛け、それを避けるのみ。ゆえに用心深くなっているのでしょう……もとはといえば国親がイダテンの母に袖にされての逆恨み」


「……にもかかわらず、誰ひとり手を差し伸べようとしないのは、なぜですか?」


姫の率直な疑問に忠信は言葉を失った。


理由は単純である。


鬼の子だからだ。宗我部が怖ろしいからだ。


手を差し伸べようものなら間違いなくその人間に災いが降りかかるからだ。


だが、姫に、そう答えることは出来ない。


その責が誰にあるかを気づくだろう。


賢い姫である――あるいは気がついて言っているのか。


額に浮かんだ汗をぬぐうこともできず、老いた頭で懸命に言い訳を考えた。



     *  


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ