表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ちはやぶる』  作者: 八神 真哉
18/91

第十八話  十人張り

「信じられぬ」


三郎がイダテンの矢を手にとって、しげしげと見つめている。


「……とても矢師には見せられぬのう。これで的中するところを見たら腕に覚えのある職人は自分の仕事に誇りを持てまい」


弓を貸してくれというので手渡した。


「わしは、この屋敷にある弓はすべて引いたことがあるでな……なに、引かせてくれぬ場合はこっそりとな」


三郎は、弦を引こうとして、目を見張った。


「これはいかぬ。びくともせぬ。間違いなく、この屋敷で一番の強弓じゃ。五人張り……いや、十人張りやもしれぬ。できも良い。さぞかし名のある者が作ったのであろう――しかも、ぶ厚い上に、ずいぶんと小ぶりじゃ。特別に作らせたに違いない。だれが作ったのじゃ?」


「知らん。おれが生まれる前に父が用意したと聞いた」


「おお、宗我部兄弟に一泡吹かせた鬼であろう……あやつらの敵なら、われらの味方ということじゃ」


父のことを鬼と呼びはしたが、さげすんだ様子はなかった。


続いて何か面白いことを思いついたかのように、


「のう、イダテン。もうじき多祁理宮で奉納祭があるのじゃ。そこで競弓がある。わしらとともに、それにでぬか? 最後まで勝ち抜けば、米一俵がでるのじゃ。むろん白い米じゃ。赤米や色のついた米ではないぞ」


人の祭りに、人ではない者を出そうというのか。


「何を浮かぬ顔をしておる。心配するな、一人占めにはせんぞ……おお、たしかに米が出るのは大人の試合に限られるがのう。童の試合に大人が出るのは卑怯じゃが、その反対なら文句は出まい」


「人の祭りであろう」


きっぱりと断ったつもりだったが、三郎は笑顔で応えた。


「忠信様は受けるであろう」


先ほども聞いた名だ。あの老臣が確かそのような名だった。


「忠信様は侍所の頭じゃ。姫様の警護もしておるが、ほかにもいくつかのことを任されておる。この祭りはいつも忠信様が仕切られる……実は、忠信様は、わしらのじい様なのじゃ」


イダテンの物言いたげな目を見て三郎が先回りをする。


「阿岐権守様や姫様に近い務めゆえ、なれなれしくするなと厳しく言われておるのじゃ……おお、言いたかったのはそのようなことではない。腕に自信のある忠信様のことじゃ。童に挑まれて逃げるはずがない」


    *


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ