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023話 アスカとクラスメイト

 翌朝――。みんなと朝食を囲んでいた僕は、目の前に並んだ見た事のない料理の数々に感動していた。いや、昨日もここで夕食をとったのだが、その時はみんなからの質問に答えるのに必死で、ご飯の見た目も味もいまいち分からなかった。

 

 夕食を終えた後で、みんなが寝るのを待ち夜の内にカムイと入れ替わろうと思ったが、気づけば誰よりも早く寝て朝になっていた。さらには朝食の準備も進んでいて、その旨そうな匂いの誘惑に勝てず食卓についてしまい、今に至る。


 目の前の皿の料理を一口食べると、もう箸が止まらなかった。この世界では箸を使う習慣はないそうだが、小屋ではみんな慣れた箸を使っていた。


「うん、うまい! これもうまい!」

 次から次に箸をつけていく。その様子をクラスメイト達も食事しながら見ている。


「アスカちゃん、相変わらずよく食べるねー」

 つむぎと席を隣にして一緒に食べるのも久しぶりだ。つむぎの隣でアマネも僕を見ていたが、その視線は僕の手元に向いているようだった。


(なぎ)()って左利きなんだね」

 アマネが僕の箸を持つ手を見て言う。アマネって僕の事、苗字で呼んでたっけ。クラスメイトから苗字で呼ばれる事はあまりないから新鮮だ。


「そうだけど……? 別に珍しくもないだろう?」

「そうだね」と、アマネもすぐに興味をなくしたようだ。その視線は次に小屋の隅の人物に向いた。


「で、カナ先生はどうして一人だけ、そんな端っこで食べてるの?」

 見れば、カナ先生が部屋の隅で一人で食事していた。隅にいるだけでなく、壁の方を向いているのがまた奇妙だ。


「えっ!? せ、生徒は生徒同士、仲良く食べた方がいいかな……って。私は邪魔かな……なんて」

 先生はこちらを少ししか振り返らず、肩越しに言う。多分、ユウキを避けて、さらに自分の存在に触れられたくないのだろう。ならば、もう少し自然にした方がいいと思うが……。あれでは逆に気になってしまう。

 すると、そこで――。


「全然邪魔じゃないぜ! フゥー!」

 ユウキが先生に声をかける。


「ひいっ!?」

 不意に飛んできた、自分が最も苦手とする人物の声に先生は悲鳴のような声を上げる。先生がユウキを苦手としている事は、知っている生徒もいれば知らない生徒もいる。


「一緒に食べようぜ! フゥー!」

 ユウキはそれを知らないし、気づかない。だから悪意はまったくないのだが……。


「頭痛が痛い頭痛が痛い頭痛が痛い……」

 例の発作が出てしまったようだ。……カナ先生も相変わらずだな。



「カムイちゃん、どこ行っちゃったのかな?」

 ふと思い出したように、つむぎが言う。昨日から何度か同じセリフを言っているが、その度に僕は少なからず動揺してしまう。


「昨日も言った通り、カムイは別行動だ。心配ない」

 そう言えば、つむぎは一旦は納得する。つむぎだけならその一言でやり過ごせる。だが、その言葉を不審に思う者もいた。


「ちょっと失礼しますー。アスカ君、何か隠してませんー?」

 自称、鳳聖(ほうせい)学園一の敏腕リポーター「リポタン」の愛称でお馴染みの写真部、豊堂(ほうどう)だ。

「そ、そんな事はない」


「昨日から私達の質問をかわすような返答ばかりで、何もハッキリした事をおっしゃっていませんよねー。大体、カムイ君の別行動って具体的に何ですかー? 納得のいく説明をお願いしますー」

 目の前の席から手を伸ばしてマイクのように僕に向ける。その僕の頬に一筋の汗が流れた。


 豊堂は学園でも名前の知られている生徒の所へ行っては、こうやって「取材」をし、新聞にしていた。今は記事になったりする事はないが、豊堂は人の言葉の隙を突いて切り込んでくる。言葉は慎重に選ばないといけない。


「おい、豊堂。そんな無神経な取材はやめろと言っただろう。もっと相手に配慮するべきだ」

 新聞部の雷太もいたのか。この二人はライバルのようなものだ。


「あなたこそ、私に配慮するべきではー? いつも偉そうな事ばかりおっしゃってますよねー?」

「十分、配慮している。お前に対する風刺の言葉ならいくらでも浮かんでくるからな。それを柔和な表現で短く編集して発言してるんだ」


 またいつもの口論が始まった。みんなも「はいはい、また始まったか」みたいな感じで見ている。しかし、カムイも言ってたが、雷太がこんな風に豊堂の相手を引き受けてくれるのは助かる。僕やカムイといった生徒会のメンバーはいい取材の的だからな。


 胸をホッと撫でおろし、早く隙を見てカムイと入れ替わらないといけないな、とそんな事を考えていたその時――。


「ねえ、アスカ君! ちょっと食べすぎじゃない!?」

 眼鏡の(ふち)を光らせながら、委員長がすごい剣幕で僕に詰め寄ってきた。

「貯蓄してた食糧までなくなってるじゃない!」

 え、そうだったのか? 確かに何度かおかわりしたが……。


「あっ! ごめん……。気づかずにおかわりあげちゃった。気持ちのいい食べっぷりだったから……」

 どうやらつむぎが貯蓄していた分を、そうとは知らず出してしまったらしい。


「悪いのはつむぎじゃなくて、薙冴でしょ」

 その言葉に委員長も頷く。

「過食です。あなたは相変わらず。ここは元いた世界と違って、私達が働いて得た分の食糧しかないんですよ!」


「す、すまなかった」僕は素直に謝る。

 ここは異世界だと分かっていたつもりが、普段の感覚が抜けていなかった。

「食べた分、働いてもらいますから!」


 一刻も早くカムイと入れ替わる。そう思っていたが、この責任は取らなければならない。食事を終えた僕が「はい」と委員長から手渡されたのは手芸用の布と針だった。よし、ここできっちり仕事をして食べすぎた分を返す。


「あっ! ダ、ダメだよ。アスカちゃんに手芸なんて……!」

 食事の後片付けをしていたつむぎがこちらに気づいて、なぜか止めるような言葉を投げた。僕は構わず布に針を刺す。すると……どういう訳か、一針刺しただけで布の真ん中に大きな穴が開いた。


「アスカちゃんは超絶不器用なんだから……」

 つむぎが溜息と共にそう呟く。


「つむぎ、別に僕は不器用じゃない。まだ慣れていないだけだ」

 僕は自分を不器用だと思った事は一度もない。今はこんな調子だが、何事も練習すれば上達する。手芸もきっとできる。その意気込みで挑むものの、布に針を刺す度、大きな穴が開く。僕は上手くいくまで何回でもやるつもりでいた。だが――。


「や、やめてください! 布がなくなっちゃいますー!」

 手芸班の班長、門司(もじ)さんに言われると、僕はその手を止めるしかなかった。しかし、手を止めたところで一つのアイデアが浮かんできた。


「ユウキ、手伝ってくれ」

 これから班行動の時間らしい。そのアイデアを実現するには助手が一人必要だった。ユウキは手芸班だが、真面目に仕事をしないから連れていくには丁度いい。みんなは食事に満足したように班ごとの行動に移っていく。だが僕はあれでもまだ食べ足りていなかった。思い浮かんだアイデアは「食後のデザートが欲しいな」という気持ちと「お金を稼ぐ」という目的が頭の中で結びついて出たものだった。




 諸々の準備を終えると、大勢の人がたむろする街の広場でショーの開催を告げた。僕は布で目隠しをする。手に持つのは料理部の部長から借りてきた包丁。ユウキは果物を投げる役割だ。そして投げられた果物を、視覚に頼らず気配だけで空中にある内に切る。つまりは大道芸だ。


 足元にはシートを敷いてある。食べ物はシートの上に落とし、後で残さず食べる為に汚さないようにする。食べ物にありつけて、お金も稼げる。まさに一石二鳥。僕にしては名案だろう。


 ユウキの投球はコントロールが甘かったが、魔煌(マギオン)で身体能力が上がっている事もあって、どんなボール球でも切り落とす事ができた。むしろ、そのコントロールの悪さが、かえって観客を引きつけていた。僕は大小さまざまな果物があっちこっちに放られるのをただの一度も外す事なく切り落とし、観客は大いに盛り上がる。

 

 ただ、動いていたらさらに腹が減ってきた。僕は目隠しをしたまま果物を拾い上げて食べる。切った後の音を聞いていればどこに落ちたのかも分かった。ユウキは調子に乗って、食べている僕に不意打ちのように果物を投げてくる。だが問題ない。食べながら切り落とす。その様子に観客は沸き、ショーは大盛況となった。


 一旦休憩を挟み、この芸の報酬(チップ)でさらに食べ物を買った。再びショーを始めると、今度は果物に限らず色んな食べ物を投げ――食べ物によっては切らずにキャッチし――僕は昼食までこのショーで済ませた。


 最初は夕方ぐらいまでこのパフォーマンスをやるつもりでいたが、昼過ぎにはもう十分と思えるほどの収入を得る事ができたし――いつの間にか、僕が食べながらパフォーマンスするのがこのショーの醍醐味となり――僕ももうこれ以上は食べきれなかった。


 小屋に帰ると委員長が驚いた顔で迎えた。

「こんなに稼いできたの!?」

 朝に食べすぎた分の食糧を買って、さらにどっしりとお金の入った布の袋を委員長に手渡した。


 まだ昼間だが、この日の日記を書くとしたら「異世界の食べ物は美味しかった」だな。たらふく食べる事ができて満足だ。


 さて、今頃カムイはどうしているだろうか――。




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