014話 クラスメイト達
「じゃあ、これからどうするか方針を立てる作戦会議だ」
俺が小屋に戻ると、みんなもう席についていた。食事をした時に使った椅子に三〇人ほどが腰掛けている。椅子が足りない分は小屋の物を再利用して作った。だから椅子の形や高さがバラバラだ。食事の時には長テーブルもあったが、今は邪魔なので片づけている。
「俺が議長やるけど、いいか? リーダー」
ユウキは議長とかできるタイプじゃないが、一応リーダーにお伺いを立てておく。
「おう、ガチで任せるぜ! 副リーダー。フゥー!」
しかし、こうやって改めてみんなの顔を見ると色んなヤツがいるな。そういえば、みんなが何で異世界に来たいと思ったのか、その理由はまだ聞いてなかったな。ちょっと気になっていたんだ。
という訳で、みんながなぜ異世界に来たのか聞いてみよう。
Q1.あなたはなぜ異世界に来たいと思いましたか。
Q2.実際、来てみてどうですか。
料理部の部長
A1.「異世界の料理を食べてみたくて……」
A2.「後悔してるよ。まさか自分が魔獣に食べられそうになるなんて……」
釣り名人
A1.「普通の釣りはもう飽きた。異世界の魚を釣りたいと思ってな」
A2.「しかし異世界という餌に釣られたのは俺の方だった」
お前、うまい事言うな。
文芸部員
A1.「私が今書いてる小説の参考になると思ったから……」
A2.「参考以前にプロローグでエタってました……」
エタるの早すぎない? ちなみにエタるとは小説が永遠に完成しない事だ。
新聞部員
A1.「もし異世界が本当にあるのなら、その事実を伝えるのがジャーナリズムだからな」
A2.「事実を伝えたくっても、帰れないと意味がない……」
写真部員
A1.「皆さんの写真を撮る事がカメラマンたる私の役目ですから! 異世界だろうがついていきますよ!」
A2.「皆さん後悔してるみたいですね。じゃ私も後悔する事にします」
コイツ、メンタル強いな……。
ユウキ
A1.「俺はもちろん勇者になる為なんだぜ!」
お前には聞いてない。
A2.「さあ、これからスライムだけを倒してレベルマックスになってやるぜ! フゥー!」
コイツはほっとこう。
相変わらずテンションの高いユウキの隣で、その表情と眼鏡を曇らせているヤツがいた。声をかけると、独り言のように呟きはじめた。
「もうダメだ……。僕達は一生、元の世界には帰れないんだ……」
ソイツはこの場の誰よりも、どんよりと暗いオーラを漂わせている。独り言はまるで恨み節のようにも聞こえた。呟きはさらに続く。
「それどころか、誰も頼れる人のいない世界で僕達ただの高校生が生きていける可能性は低い……。僕がはじき出した計算によると、この世界における僕達の生存確率は三七・四二%だ……」
どういう計算で出したのか知らないが、不吉な数字だ。しかし、今これほど暗鬱な顔をしているヤツがどうして異世界に来たんだろう。
「雨水はどうして来たんだ?」
そう尋ねると、今度はハッキリこちらを見て答えた。
「僕は来たくなかったんだ! それなのに、ユウキ君が……!」
聞けば――みんながスマホから出た光に呑まれる寸前、唐突に「一緒に行こうぜ!」とユウキが雨水の手を掴んだ。するとユウキのスマホの光に巻き込まれて、そのまま異世界へ来てしまったらしい。
俺も異世界へ飛ぶ時、目の前の木刀に思わず手を伸ばした。その木刀みたいな感じで来ちまったのか。雨水は学校でも、しょっちゅうユウキの巻き添えを食って可哀想な目に遭ってたが、これはその中でも一番ヒドいヤツだな……。さっきの雨水の言葉が恨み節のように聞こえた理由がよく分かった。
そしてその後ろに目を向けると、ピリピリとした空気を出している女子の姿があった。
「委員長もいるなんて意外だな、異世界に興味あったのか?」
曇った眼鏡の雨水に対して、こちらは眼鏡の淵を鋭く光らせている。
「愚問です。異世界なんて興味ありません」
毅然と言い放つ委員長。しかしモニョモニョと言葉を続けた。
「ただ……知的好奇心や学術的探究心が抑えきれず……」
要は興味あったんだな。そう指摘すると顔を赤くして怒りだした。いつもキリッとして厳格な雰囲気を醸し出してるが、ちょっとした事でこうやってぷりぷり怒るのが委員長の面白い……いや、親しみの持てるところだ。
みんなから話を聞くと、色んな理由でこの世界に来た事が分かった。だが「帰りたい」という事はみんな共通していた。
「近くにコンビニあった方がいいし」
「ネットがないなんて考えられない」
――ただ一人を除いて。
「勇者様はどうする?」
リーダーで自称勇者のユウキだけがこの中で唯一、異世界で生きていく事に胸を躍らせていた。
「みんな帰るなら俺も帰るんだぜ……フゥー……」
勇者もみんながいないと寂しいらしい。
これで「帰る」という方針が決まった。当たり前の事のようだが、これをみんなの「総意」として明示しておく事は重要だ。ここから「では、具体的にどうするか」という議題に移る事になる。
だが、ここで口を挟む者がいた。
「帰る? 一体どうやって?」
立ち上がり、そう発言したのは雨水。
「カムイ、キミは僕より頭が良くてみんなから頼りにされてるけど。じゃあ、元の世界に帰る方法、思いついたか? それとも、あの女神にそれを聞きだせたか?」
それは……どちらもまだだ。
「こんな時こそ問題を解決してくれよ、いつもみたいに……!」
鬱屈したものを吐きだすように叫ぶ雨水。それが俺を責めているように聞こえたのか――。
「ちょっと、そんな言い方ないでしょ!」
委員長が雨水を咎めるように言う。だが、雨水は俺を責めてはいなかった。泣きそうな、すがるような眼をしていた。人一倍繊細だから、その分強いストレスを感じている。それが分かっているから別に気にはしない。それより、場の空気が険悪なものになる事の方が避けたい。
それにしても――「いつもみたいに」か。俺が一人で解決できた事なんて、たかが知れてる。いつも仲間の協力がある。だから今回もみんなの力が必要だと俺は思っている。
雨水は目を伏せて、今度は静かに口を開いた。
「……僕達はもう二度と学校に帰れない。家族の元へも。それに……僕達ただの高校生がこんな世界で生きていける訳ない」
その言葉は、重く小屋の中に響いた。
「帰る方法も探せば見つかるんじゃ……。みんなで世界を旅したりして――」
誰かの前向きな発言は、部屋の空気に押し潰されたかのように消え入りそうな声だった。
「そうだね、世界のどこかには手がかりぐらいあるかもしれない。でもこの街のすぐ外には魔獣がうろついてるんだ」
対して、雨水は乾いた笑い交じりに淡々と言う。そしてついにはその皮肉の笑みも消えた。
「外に出たら魔獣に殺される。街の中にいたって元の世界になんて帰れやしない。僕達はもう終わりだよ。魔獣がいる――。黒い球体が世界を喰っている――。こんな危険で殺伐とした世界で僕達は一生を終えるんだ」
雨水の言葉はみんなの心に重くのしかかったのだろう、もう誰からも何の声も上がらなかった。誰もが押し黙り、陰鬱な空気がその場を支配した。




