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011話 神王都セントレシア

 長かった森の道を抜け、ようやく街に辿り着いた俺達を迎えたのは、王都にふさわしい大きな門だった。開け放されたままの門の前に検問といったものはなく、そのまま中へ入る事が出来た。

 さて、この世界の人間の姿はどんなものか……。


 王都というだけあって、門の中に少し入っただけでもう賑やかだ。

 そこに行き交う人々の姿は……。


 頭があって、首があって、胴体があって、手足があって。肌はツルっとしていて、頭髪があって、直立歩行で、服を着ていて、靴を履いてて――。

 要は。

「普通だな」

 拍子抜けするぐらいに俺達と見た目が変わらなかった。肌の色には差異があるものの、白い肌の人間が多いように見える。髪の色はまさに千差万別だ。魔奏世界(マギナソルラント)の中心というだけあって、この世界の色んな人種がここに集まっているのかもしれない。トカゲやライオンの顔をした人間の姿はとりあえずここには見つけられない。ちょっとホッとした。


「言葉通じるの?」

 そう、俺達がこれからやらなくてはいけないのは、まず、この世界の通貨を手に入れる事だ。それから食事と住処の確保。何にしても言葉が通じないと始まらない。

「ユウキ、ちょっと行ってきてくれ」


 こういう時は人に対して物怖じしないユウキに任せよう。ユウキは街の通りに出ると、その道の真ん中で。

「イエェェイ! フゥー!」

 と声を上げた。


 道ゆく人は皆、ユウキを怪訝そうな目で見ながら通り過ぎていく。たとえ言葉が通じてもあんな不審なヤツには誰も近寄らないだろう。「声を上げるんじゃなくて、声をかけるんだ」そう指示を出すも、もう遅い。ユウキが近づくと皆逃げるように去っていく。いきなり異世界人にドン引きされてしまった。


 仕方ないから、次は俺が行ってみる。ユウキとは関わりのない振りをして、異世界人に初接触――少し緊張するが……。

 俺は適当に目に入った数人に話しかけ、そしてまたみんなの所へ戻る。


「ダメだ。何言ってっか全然分かんねえ」

「異世界なのに言葉が通じる訳ありませーん。当たり前でーす」


 まあ、だろうな。地球上で考えても数千もの言語がある。島国である日本は、一つ隣の国に行くだけでもう言葉が通じねー。

 これは想定内なので特に慌てる事はない。


 俺達はすでに異世界の者と会話している。他ならぬ女神の事だ。確か……「私が喋る言葉は、私の力によって、魔煌(マギオン)を介してあなた達が理解できる音に変換されてまーす」だっけ。つまり、女神は翻訳のような事もできるって事だ。


 それなら……。ここからは女神との交渉だ。

「なあ、女神……」

「私はいちいち訳してあげたりしませーん」

 俺の質問に先回りして答える女神。やっぱりか。コイツが通訳してくれたら話が早かったんだが。


「じゃあ、お前の魔煌神術(アルス・マグナ)とかいう力で、俺達がこの世界の言葉が分かるように……」

「あなた達全員に? 何で私が、後ろのモブキャラみたいな人達にまでそんな事してあげなきゃいけないんですかー?」

 モブキャラって言うのはやめろ。三〇人ぐらいいるんだ。みんなキャラ濃かったら大変だ。


 しかし……言葉が通じないだろうと想定して、用意していた二つの案も消え、残ったのは最悪のルートだけだ。

「お困りのようですねー」

 女神は俺の提案を却下しておきながら、そう言ってニヤニヤしている。やれやれ、と頭を掻く俺の顔を見てなぜかご満悦の様子。

「ああ、困ってるよ。何せ、身振り手振りで意思を伝えるしかねえ。言葉は自力で習得するとして――それも余計に時間がかかる。回りくどくてな」


 女神の力に頼らずとも意思疎通や言語理解の方法はある。ただ、時間を大きくロスする。それが女神の力で短縮できればそれに越した事はない。

「そこで、いいものがありまーす」

 ……いいもの?


「女神の翻訳アプリでーす」

 またアプリか。これも他の機能が消えるとか、広告が表示されるとかの悪質アプリじゃねーだろうな……。それにしても何でコイツ、女神のクセにアプリを用意するんだ?


「それで、どんなものなんだ?」

「この世界の人達が喋った言葉をスマートフォンの画面に表示して、それをあなた達の言葉に変換できまーす」

 おお、まさに翻訳アプリそのもの。


 早速インストールしてみる。しかしこれ、無償(タダ)でいいのか? この女神の事だ、何かを吹っ掛ける気でいるんじゃ……。


「タダでいいでーす。あなたとお友達――アスカ、でしたっけ? その友情劇が面白かったので特別でーす」

 ふうん……。友情劇が面白かったので、ねえ……。何か、この女神の柄じゃない気がするな。思うに……やはり目的があって、俺達に何かさせる気でいるようだな。今回のこのお優しい処置は、俺達がこんな事で詰まるのは女神としても避けたい、といったところか。


「アスカちゃん? アスカちゃんがどうかした?」

「い、いや。何でもない」

 幼馴染の名前が聞こえたようで、つむぎが反応する。アスカにもこの異世界の街並みを見せてやりたいが、他のヤツにアスカとの通信を知られるのはマズい。


「他の携帯でもそれをインストールできる?」

 クラスメイトの一人が自分のスマホを出して女神に尋ねる。

「この端末だけでーす」

 まあ、実際はできなくはないんだろうが――俺とアスカの友情劇が面白かった、とか言った手前、女神の翻訳アプリをインストールできるのは俺への特権らしい。

 だがアプリは一つあれば十分だ。これをみんなで共有し、共同で使えばいい。


「女神の慈悲に感謝してくださーい」

「感謝してくださーい」と言われると素直に感謝したくなくなるが、ふと、コイツはおだてるとどんな反応をするんだ? と興味が湧いた。


「女神様はすごいなあ。とてもすごい」

 しかし、おだてるなんて慣れてないので棒読みになっちまった。これはさすがに「馬鹿にするな」と怒るだろう。と思ったら……。

「ふふん」

 普通にドヤ顔した。



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