始まり
昔々、1つの国を統べる神様に双子の兄妹がいました。
双子の兄妹のオシリスとイシスは幼い頃から行動を共にし、困ったときは助け合い、辛いときは励まし合って、国を統べる父の後を継ぐために互いを高め合っていました。
オシリスは猛く、また周囲を引っ張り、武道を極めし男性に。
イシスは優しく、周囲に配慮のでき、医療を志す女性に成長しました。
そんな2人の子どもの成長を見守っていた父親は喜びを感じつつも、後継者をどちらにするかを悩んでいました。
そして双子が25歳の誕生日を迎える前日、父親はオシリスとイシスに話があると2人を呼びます。
父親はそこで次の後継者としてイシスを指名します。
それに納得行かず猛抗議するオシリス。
しかし父親は全く聞く耳を持ちません。
激昂したオシリスは、父親に襲いかかり、力ずくで倒し、遂にはその手で父親を殺してしまいました。
一方その場で兄を止められなかったイシスは蘇生法を使ってすぐさま父親を生き返らせます。
この際2人は、初めて人を殺める能力と人を蘇生させる能力を手に入れたのです。
後継者が決まるはずだった次の日。
双子は決別し、それぞれの理想とする国を作り上げましたと…
「えー…、ここまでが我が国アセトの誕生の歴史で御座いまして、アセトとその国民は、建国以来イシス様の平和的思想を守り続け、他国との争いを一度もしたことの無い。言わば、世の中で最も平和な国なのです!」
目の前には、我が国アセトの誕生の秘話を熱弁する初老の男性。
俺は机の上に古びた書物を広げて、今日も俺専用の歴史の授業を受けていた。
「ですから、ナイル様にはご先祖様と同様にこの平和的思想を胸に掲げて続け…」
黙って男から書物に視線を落とした。
わかってるよ…。
もう何回も何回も繰り返し聞かされた内容だもの。
俺の役割はこの国の出来た経緯を知って、イシスの平和的思想を守り続ける。
そして数々の先祖達と同様に国民の平和の象徴として立派に国を治め、次の後継ぎまでに使命を全うし、バトンを渡す。
だろ?
何故なら俺はこの国、アセトの王だから。
けどなんだろう…。
頭では自分の使命を理解してるし、誇りを持ってる。
けどなんだかなぁ…。
「ナイル様!私の話を聞いていますか!?」
授業に集中してないのがバレて、大きな声でその男性に注意された。
ハッっとして、猫背になった身体の姿勢をピシッと正し、申し訳無さそうに顔を上げる。
「悪かったよ、ヴァルト。少し集中力切れちゃって。でも話はしっかり聞いてたよ。俺はしっかり自分の使命を全うするんだ。」
「そうですか、それなら良いのですが…。ダラダラと講義しても仕方ないですからね。今日の授業はここまでにしましょうか…」
「やった!」
自分でも実感する。曇っていた顔が一気に晴れた。
ここまで露骨に表情に出てしまうとヴァルトに悪いが、正直退屈はしていた。
書物を丸めて、ササッと本棚にしまう。
「ヴァルト!ちょっと外に出てくる!夕飯までには帰ってくるから!」
自室にある上着を取り、歯を磨く。
外に出られる時間を何よりも大切にしている。
使命や思想を忘れられるし、人と気軽に話せる大事な機会だ。
城に居れば、王という役割がある以上100%自由にはなれない。
「ナイル様!お気をつけて~!」
とヴァルトの声が聞こえる。
振り向いて片手を挙げて返事をして、俺は軽い足取りで城の外へ駆け出していった。