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歩き出すために(前)

リーカンの事件から七年が経った。

今年俺は十三歳になる。

忌まわしい七年前の事件から俺を助けてくれたベアード・ラッズの元で暮らし、フリッズ・リーカンからジェイ・ラッズと名を変え、きこりとして生きている。

この森には何でもあった。

木の実や山菜、川の魚に動物。

食べ物に不自由したことはない。

ベアードが教えてくれる学業というものは苦手だが戦闘訓練は中々役に立っている。

訓練は俺がもっとも楽しみにしているものになった。

いつかはベアードを抜く。

それが俺の目標だ。

ベアードは強い。

以前、山賊が襲ってきたが片手ひとつで斧を振り回し、山賊を追っ払ったことがあった。

山の熊も斧一つで倒してしまうほどだ。

ベアードの訓練は主に打ち込みをすることと受けること。

打ち込みは木刀をただひたすらにベアードがもっている木刀に打ち込み、逆にベアードからの重い打ち込みを受け続けるというものだった。

だが最近は動きも入れながら実戦式というかたちで訓練を行っているらしい。

そして今、俺はベアードと戦闘訓練中だ。

ベアードと俺の間にはお互いの木刀が届かない程度の間合いが存在する。

俺にとっては大きい間合いなのだが、ベアードにとっては無いものも同然だが。

一歩踏み込みベアードの間合いの中に入る。

そして木刀を振る。


『よし!今度こそはいった!』


だが木刀に人が当たったという感触は無く、硬いものに当たった感触があった。

ベアードはとっさに木刀を地面につきたて俺の攻撃を防いだ。

ドン。

背中に激痛が走り俺の体は吹き飛ばされた。

近くにある川に落ちた。


「ぶはっ!冷て〜〜!今度こそ入ったと思ったんだけどな・・・。」


「がはは!まだまだ甘いの〜。この老いぼれの動きについてこれないとは。」


ベアードは笑いながら俺をみている。

やはりベアードにはまだまだ勝てそうも無い。

俺は濡れた上着を脱ぎながら川からあがった。


「今日はここまでにするか。」


「まだいける!」


「急いても強くなれる訳ではないぞ。もっと相手を見て己をみないといけんぞ。」


「それでも今いけるとこまではいきたいんだ!!」


俺の真剣な眼差しに気づいたのかベアードはさらに稽古をつけてくれることになった。

木刀を握り直しベアードを睨む。


『いいか?まず相手の眼を見ろ。そして圧倒しろ。相手が臆せばお前はその勝負に勝てる。』


ベアードが俺に教えてくれた戦闘の基本だ。

絶対に相手の気迫に負けてはいけない。

そう教えられてから俺はまず相手の眼を睨みつけることを実践するようになった。

そして瞬間。

木刀を振りながら一歩踏み込んだ。

一歩踏み込んでから振るのでは遅い。

遅すぎたんだ。

その時間を短縮するためにこの動作を取ったのだが、いつもより簡単にベアードに吹き飛ばされてしまった。


「考え実践することはいいことだが、今のお前にはそんな技術は無い。第一重心が不安定になり力も入らんぞ。」


「そうか!クソ!!いけると思ったんだけどな。」


「たまには魔法を使わんか?」


俺もベアードも稽古で魔法を使うことはあまりない。

二人とも魔法が使えないわけではないのだが。

俺の血は水属性の魔法に関しては世界でも五本の指に数えられるほどだとおふくろが言っていたのを覚えている。

魔法は四大元素『火』『空』『水』『地』に分けられ、さらに人間の命運『棒』『剣』『杯』『護符』として分けられ、属性の魔力と命運とでその人間の潜在能力がきまる。

『火』であるならば命運『棒』をもつ者が最強とされ、『空』ならば『剣』、『水』ならば『杯』、『地』ならば『護符』をもつ者がもっとも才でるものとされている。

リーカンの一族はほとんどの者が『水』の魔力をもち、直系のものだけが命運を『杯』とされ水系の最強の魔法使いとして存在していた。

というわけで俺にも水系最強の血が流れているというわけだ。

ベアードが何系の魔法を使うかは知らない。

前にベアードにその話をしたことがあったが結局教えてくれることはなかった。

『魔法』と『奇跡』についてだが俺は基本的には高質量の『水』の魔法と低質量の『地』の魔法しか使えない。

しかし『奇跡』の力を使えば一時的に『空』の魔法と『火』の魔法を使うこともできるようになる。

変化させられる時間は削った自分の命の分だけだが。

他人の魔力、命運そして自分の命運は変えることはできない。

そして回復魔法は与えるものではなく侵蝕していくものだ。

これらの『奇跡』の知識は教えられたものではない。

リーカン一族の魂に刻まれたものとでもいうべきか。

『奇跡』については産まれたその瞬間から知っていたんだと思う。


「俺が使ったらベアードも使うのか?」


俺は苦笑気味に聞いた。

まあ答えは解っていたんだが。


「使わん!!」


「やっぱな。じゃあ俺も使わねえ〜。」


俺としてはベアードの魔法を見てみたいわけで、ベアードは俺の魔法を見てみたい。

だがベアードは一向に魔法を使ってこようとしないから俺もベアードに魔法を見せないようにしている。

まあ交換条件みたいなものだな。

使え、使わないと言い合ってるうちに日が沈んできた。

俺たちは稽古を切り上げ小屋に戻ることにした。


「ジェイ。お前今年から帝都の学校に通え。」


薄暗くなった森を歩きながらベアードは言った。


「なんで?」


ベアードは空を見上げながら答える。


「世界を知らないからだ。」


「?」


「前にお前が話してくれたことがあったろ。『こんなくだらない世界のために俺の一族は犠牲になっていった』っと。」


それは俺がベアードと何気ない会話をしていたときに発した言葉だった。

昔ベアードに助けてもらったあの日からずっと想い続けたもの。

変えることのできない過去の後悔。


「言ったね。でもこの話はベアードに関係ないんだ。この運命は他の人間には絶対にわからない。そして解ってほしいとも思わない。」


「やっぱりな・・・。やはり外の世界を見て来い。それがお前の為だ。」


俺はベアードの言葉にムッとした。

外の世界なんか知らなくて良い。

俺はこのままきこりとして一生を終える。

それをベアードに伝えようとしたとき一人の少女が現れた。

話や考えごとをしていたため気づかぬうちに小屋の近くにいた。

その小屋の前に少女が立っていた。

白銀の髪を肩まで伸ばし、その髪をひとつに結った少女。

少女がこちらに気づき言った。


「ベアードさん。こいつか?うちの学校に入学させたいってやつは?」

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