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LEVEL3


 一通り吐き終わった所で妙な脱力感が残る中、俺と金髪幼女は井戸の中に顔を突っ込んでいた。異臭は無いが自分が出し終わった異物を眺めるなんて奇妙な行動は続けたくない。

 雲が漆黒に染まり始め外出する人が減り始める中、俺は隣の少女に目を向けた。すると偶然にも目が合い、睨み付けてくる可愛らしい顔を拝む事が出来た。命の恩人を何度も振り回して顔に自分の血まで付けてしまう始末、下手すればまた牢屋送りになるかもしれない。冒険者になる酒場的な場所にも行きたいのだが、ここは早めに街から出た方がいいかもしれない。それに住民には俺がロリコンだと誤解されている。快適に過ごせる場所なんて殆ど無い。


「……部族みたいな顔になってるぞ」

「あなたのせいですよ……」

「事の発端を……ってまぁいいか。というか何であの時泣いたんだよ?」

「……お姉ちゃんじゃなかったから」


 少女の発言から推測して大体の目的は把握できた。恐らく姉を探すべく遠くから自分の足でこの街まで来たと思える。義母を探して三千里という昔のアニメを脳内で彷彿させた所でプレイヤー特有のお遣いイベントを回避するため井戸から顔を上げて再び込み上がってくる吐き気を我慢しながら立ち上がった。お姉ちゃんと一緒にこの街に来て(はぐれたという考えもあったがこの時間になっても合流してないという事から排除した。

 24時間営業だと信じて冒険者になるための場所を探そうと一歩前に足を出そうとすると少女が止めてくる。


「え、どうした?」

「た、助けたんですから手伝ってください!」

「あぁー……確かに助けてもらったけど……俺も急いでるし……」


 主人公の行動的には可愛い幼女の姉を一緒に探して見つけた方が良い。苦労の末に見つけた姉が絶世の美少女でお礼として一緒に戦ってくれる、というリア充までの簡単な道のりが待っているのだが、それは主人公の話。いきなりロリコン扱いされて牢屋に放り込まれる前まで来た俺が主人公補正を受けているはずが無い。

 自己嫌悪している中、幼女が常識外れな返答を受けた事により頬を膨らませて怒り始めた。


「人としてどうなんですか!? 助けてもらったら恩を返すために手伝うでしょ!」


 自分から言う事では無いな。まぁ納得してないならありのまま告げてやるか。


「俺は物語の主人公じゃないんだ! 簡単に言うと異世界に来て困っている主人公に一番最初に出会って気さくに話して相棒となり、物語の後半には自らの命を犠牲にして主人公を助ける。そんな陽気なサブキャラ的なポジションなんだよ! というかそのキャラになりたい!」

「何言ってるんですか、馬鹿なんですか? 喚いてないで手伝ってください」


 苛立ちが頂点に登り詰めているのか、少女らしからぬ毒舌で一蹴されてしまった。蛇が小動物を狙う際の目付きになった少女を見て俺は一瞬何かを閃きそうになったが、電球が光る直前でモヤが掛かって分からなくなった。

 中学生のような理由を述べたが一ミリも共感してもらえなかった事に多少のショックを受けつつも負けじと次の言い訳を突き付けた。


「手伝い気持ちはあるんだが、それよりも冒険者になりたい気持ちが勝ってしまうんだ。手伝えない事の罪悪感はあるんだけど―――――」

「私が勘違いしてました。あなたに対する態度の取り方を……」

「え……?」


 井戸の水を上げて顔を洗ってる少女を見て少し困惑した。この世界の人達は美意識というものが無いのだろうか。

 だが今はそこを気にしてはいけない。

 服を叩いて砂埃を払った後、少女は目を細めて口を開く。


「黙れ。いいから手伝え」

「……はい」


 急に鳥肌が立った俺は彼女の命令に動物的本能を覚醒させて即答した。RPGの強制イベントのように選択肢が二つあるにも関わらず片方は何度選んでも物語が進まないシステムを体感した気分だった。一瞬だけ見せた少女の殺気は将来恐ろしい事になると肌身を持って実感した。

 女は男より強し、俺より一回り小さい子でも持っているポテンシャルが違い過ぎた。

 

「よし! じゃあ行きましょう」


 その時に見せた少女の満面の笑みの奥に隠された鬼の姿を考えると引きつった苦笑いしか出来なかった。上下関係が見事に構築された所で俺と少女は街中へと向かって歩を進めた。















 街中は照明や建物の灯りなどで遠くまで見通せるほど明るかった。だが簡易的に作られていた店は全て無くなっており、フォークの絵が描かれた立て札が掛けられているレストランや外からでも見える斧や鎧が並べられた武器屋など建物の中にある店は開いていた。

 俺も気付かない間にこの街で有名人となっており、すれ違う人達から凝視されている。流血は異物が溶け込んだ水で少し洗ったので目立ちはしない。なので恐らく昼間の事件だろう。

 少女の隣を歩きながら冒険者が流れていく場所を観察しているが外見で分かる冒険者が居ないため、探すのが困難になっている。

 

「んー……居ねぇな……」

「え、お姉ちゃんが?」

「いや、ぼうけ……んんッ! 特徴とか無いのか? 流石にお姉ちゃんってだけ言われてもなぁ……」

「お姉ちゃんは私より背が高く、凛々しくて強いんです!」


 特徴になってないと突っ込みを入れようとしたが茶化すように返してしまえば魔法の類を使えるこの少女に何をされるか分かったもんじゃない。

 言葉選びを吟味しながら歩いていると唐突に少女が声を上げた。指を差している方向に目を向けるとそこには木の板に隙間無く紙が貼り付けられていた。


「あっ!」

「どうしたんだ? ってあれ……掲示板?」

「ギルド募集の紙です。最近お姉ちゃんは友達とギルドを立ち上げたと手紙に書いていたのでもしかしたら……!」


 ギルド、耳に心地良い言葉が聞こえた俺はこの世にも冒険者以外にもギルドという集団パーティが存在している事が分かるや自然と笑みが零れた。初心者としてギルドに入り、初めは皆の足を引っ張ってしまうが強くなっていずれは背中を任せて魔物と戦う。そしてその喜びを全員で分かち合う。

 妄想が膨らんでいき、棒立ちになりながら天を見上げてにやけ顔を続けていると少女が声を荒げながら俺の元まで走ってきた。


「あ、ありましたー! お姉ちゃんのギルド!」

「本当か!? 見せてくれ」


 少女から渡されたピンク色の用紙に違和感を感じながら内容を拝見した。そこには詳しい募集条件などは書かれておらず、ギルドメンバーの名前と主な活動が書かれていた。


「ギルドメンバー、アリス、イシス、ロクロ。活動方針は新規メンバーから食料を拝借する……これはギルドなのか……?」


 正直者が何の躊躇いも無く自信満々に書いた事が字体を見て分かる。でもこの紙を見てギルドに入りたいと懇願する人は絶対に一人も居ないだろう。余程のお人好しでもギルドメンバー3人の食料を毎日調達して渡すなんて事を繰り返してたら過労死は不可避だ。

 この3人の中に少女の姉がいる。そう断言したので俺は出会うまで付いていくしか無いのだが強行手段を取ってでも行かない方がいいと天使が囁いている。何とか対策を考えようとしたが何の力も手にしてない俺が足掻こうが手の平で転がされるのが目に見えていた。

 一通り読んで妙な危機感を感じながら少女に紙を返した。


「場所はギルド本部……分かるのか?」

「うん……!」


 紙を抱き締めながら発した少女の笑顔に俺も先程まで感じていた不安を捨てた。


「……じゃあ行きますか」


 こんな簡単に見つかるなら俺が手伝う必要なんて無かったんじゃないか。そう思える。でも俺がこの少女に声を掛けなかったら少女はこの掲示板を見つけられなかったかもしれない。俺の中にはまだ主人公としての力が残っているのだろうか。変に考えるのは止めて次に起きる出来事を楽しみながら予想した。

 その時は周りの目など気にならなかった。

















「ここが……ギルド……」


 宿屋の隣に位置している木造の建物の前まで来た俺は想像通りのギルドに感動を覚えていた。中からは酒を飲んでいるのか、冒険者達が騒ぎ立てている。酔っぱらった冒険者の腰には片手剣が備えられており、肉眼で見た本物の武器にサインを貰いたい衝動に駆られた。

 早く中に入ってみたい。そして画面の外でしか味わえなかった冒険者との交流を楽しみたい。先に小走りで入っていった少女に続いて俺は閉まりかけた扉を開いて中へと入った。

 そして入って早々見た景色は真ん中に並べられたジョッキに入ったビールを飲み合っている女の子が二人いた。偶然にもその二人に俺は曖昧だった見覚えがあった。


「22杯目! 所詮地上の神は全てを統べる女神には勝てないのよ!」

「こっちも22杯。喋る事より飲む事に集中したら? 吐き出して負けた記憶をもう忘れたの?」

「あわわっ……」

「お、お姉ちゃん!」


 威嚇し合っている銀髪少女と貧乳ポニーテールの前であの少女が貧乳ポニーテールに向かって叫んだ。すると外野で飲んでいた男達、そして中央で飲んでいた二人と止めに入ろうとしていた弱気な少女も黙り込んで少女に視線を向けた。勝負している二人は全く酔っている様子は無く涙を流している少女を見るやジョッキを叩き付けるように置き、ポニーテールの少女が目にも止まらぬ速さで少女に抱き付いた。


「カンナ、久しぶり……! 元気だった?」

「ロクロの妹ちゃん!? 可愛い~!」

「お姉ちゃぁぁぁぁん!」


 牢屋に捕まる前に出会ったのがこの3人。忘れる訳が無い、何せこの3人は驚愕するほどの美少女なんだからな。

 改めて見ると本当に可愛い。知ろうと努力はしてないが3人それぞれの名前も大体分かった。記憶を掘り出して答えを作り出すのは俺の得意分野だ。一言一句とまでは覚えてないが酔いが回って自分を女神だと偽っている女の子は俺が捕まる前にアリスと言われていた。ギルド用紙にも書かれている点からして間違いない。

 金髪幼女、カンナちゃんの姉は今その偽女神がロクロと呼んでいた。泥酔している様子も無いから名前を間違える失態は犯さないだろう。そして唯一酒を飲んでない気弱そうな女の子がイシスちゃん。ここは消去法だ。

 一度は探偵にでもなろうと思った時期もあったが妹から説得という名の拷問を受けた末に諦めた。

 周りの目を気にせず泣いているカンナを見て一安心した。

 だが気を抜くとやはり事件は起こる。一人の冒険者が俺を指差して唐突に叫びだした。


「ろ、ロリコンだぁ!」

「あ……」




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