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お題『短編』

お題『蛇』 掌編

作者: 七草かゆ

 僕の実家から当時通っていた小学校までの道の間に、小さな公園がある。正式な名前は知らないが、そこには奇妙な形をした松の木が生えていて、幹が大蛇の如く地を這っていたことから『へび公園』と呼ばれていた。

 僕がその公園を思い出す時、松の木にはいつも必ず一人の少女が腰掛けている。僕の幼馴染である彼女はそこがお気に入りだったらしく、毎日学校帰りに公園へ寄ってはそこに陣取っていた。

 その光景が目に焼き付いているようで、彼女の訃報を知らされた時も、最初に脳裏に浮かんだのはまさにそれだった。


 地元で行われる彼女の葬儀の為に、都内の大学へ進学して田舎を出ていた僕は、三年振りに実家へ帰ることになった。

 彼女の葬儀は、神式だった。それこそ蛇のように列を成し、僕を含む参列者達が皆慣れない手つきで神官から玉串を受け取って行く。手水は神社を参拝するのと同じ作法だったため問題無かったが、玉串を持つのは多分これが初めてだった。

 ――自分の番は、直ぐに回ってきた。前の人が玉串奉奠を済ませたのを見て、出来る限りそれに倣う。枝の根元を右手側に、左手で下から支え右手で上からつまむように持っていた玉串を、手の中で持ち変えて右回りに回す。根元が向こう側になるように支え持ったら、その状態で玉串の台に供え、あとは二礼二拍手一礼――この時の拍手は、音を立てずにするのが作法のようだった。


 参拝を終え祭式場を後にすると、僕はその足で『へび公園』へ向かった。何となく、あの頃の彼女がまだそこに居るような気がしたのだ。

 九年越しに訪れた公園には――しかし、松の木が何処にも無かった。代わりに、木を撤去したという旨が書かれた看板がぽつねんと佇んでいる。遣り場の無い寂しさに立ち尽くしていると、ふと、足元に落ちている物に気が付いた。拾い上げると、それはまだ新しい、蛇の脱け殻だった。


 ――嗚呼、と僕は思わず目を瞑る。

 脳裏に刻まれたあの頃の姿の彼女が、大蛇の背に跨がり、空へと昇って行く。




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