祈り
神様はいる。
そう信じ私は祈った。
理由は特になかった。ただ居るというだけで尊敬した。
世界の全てのことは神様が決めている。
山の緑も、川の青も、無色の空気も、全て神様が操っている。
しかし私は神を恨むようになった。
毎日祈っているこの私の周りで不幸が起こるようになった。
こんなにも祈っているのに。
そして生活の貧しさからの母の飢え死にで、私の中から神は消えた。
ただの理不尽な八つ当たり。
それから私の生活は狂った。信仰をやめた私は盗むということを覚えた。生活は前より不自由はしなくなった。そして盗むということに快楽を覚えはじめた。
その頃からだろうか。私は時々神について考えるようになった。神は正しい者に幸福を与え、愚か者には罰を与える。
私は確実に愚か者だ。だが未だ罰はくだっていない。
神は本当に存在するのか。そういう疑問が浮上する。
まさかいないのか。
その疑問を抱いたまま数ヶ月が経った。
胸のもやもやは依然はれない。
すると目の前に少女が立っていた。
少女の顔に感情はなく、腕には何かを抱えていた。
薄暗い闇の中で、その少女の存在だけがはっきりとしていた。
嫌な予感がした。
少女は黙って私の元まで歩いてきて、手に持っていた物を差し出した。
それを見た瞬間、私の呼吸は止まった。
骨だった。
しかもかなり古い。
私は無意識にそれを受け取っていた。
圧倒的な存在感。古ぼけた骨は朽ちながらもしっかりと形をとどめ、まるで磨けば元に戻りそうだった。
私はそれが何なのか一目でわかった。こんな骨が人間のはずがない。いや、生き物であるはずがない。
神
その言葉がよぎると同時に少女の口から言葉が発せられた。
神はすでに死んでいます、と。
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
神は死んでいた。これを見る限り、私の生まれる前から。
ならば私の祈りは天には届いていなかった。
この恨みの意味は。
全てが無駄だった。
私は骨を抱いたまま暗闇に消えていった。
役目を終えた少女は、その哀れな後ろ姿を見つめ、静かに消えた。