『(色々と)狩り(刈り)入れ時』
※今回は長いです
グミと飴を50個程納品した僕は、足りなくなった素材を手に入れるために再び森の中に入っていた。
特に骨とスライムの素材の消費量がかなりヤバい。
骨の武器素材の他に回復薬とグミの素材としても優秀なために、ごっそりと減ってたりするからだ。
果物等の食糧や薬の原料である薬草はまだ良い方なので、僕としては或る程度無視しても構わない。
構わないのだが、需要と供給が釣り合わなくなってしまうので仕方が無く採取せざるを得ない。
…………お茶っ葉にしたらどうなるんだろうね?
本題からそれてしまったが、後は蜂、蟻を狩っていく。
武具の素材としては優秀なので、狩っておいて損は無いだろう。
蜂に関しては“巣”をまるごと利用できるのでこれはこれで良い。
先程から『龍之威圧』を発動させるから、普通に作業は楽だったりする。
時々【女王蜂】が現れたりするのだが、『龍之威圧』で一緒に気絶してしまうために狩るのも非常に楽である。
序でに言うと、女王は出現率が(極端に、ではないが)低いけど、倒してから巣を無傷で手に入れると必ず“ロイヤルゼリー”が手に入る。
これはこれで薬の素材になるので取っておいて損は無い。
「さて、と」
ストレージを確認してみる。
採取で手に入るアイテムよりも、モンスター素材が多いな。
出会って直ぐに狩ってるからか。
普段なら捨てる筈のモンスターの骨の使い道が確保できたのは、大きい。
骨ひとつでも『細工』、『鍛冶』、『料理』、『錬金』、『合成』のスキルに貢献できるのだからね。
ストレージからオレジナ飴を取り出して、コロコロと口の中で転がしながら移動していると、誰かがモンスターと戦っているのが見えた。
ふむ、緑アイコンだからPPCで間違いは無い。
問題はモンスターである。
○【グラススパイダーLv5】
此処に来てやっとお出ましか。
どうやら戦ってる男性PPCはかなり苦戦しているみたいだ。
あ、今ので武器である剣が壊れたみたい。
うーん…受け止めたは良いけど、噛み砕かれて御臨終…て、悲惨すぎるって!
慌てて駆けだして少しだけ龍化する。
鱗が生えた腕を差し出して、噛ませる。
圧迫されて痛い…けど、蜘蛛の牙程度に龍の鱗は貫けない…貫ける筈が無い。
種族アビリティー『龍之威圧』を発動させ、怯んだ所で『龍魔法(無)』のスキルアビリティー『龍之吐息』で吹っ飛ばした。
目の前の木にぶち当たった所で、ダメージが0になり、消えていく。
へぇ…初めて使ったケド、なかなかの威力ですなぁ。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああスマン。助かった」
「同郷の好、という事にしておいてください。まぁあそこで見殺しは流石に後味悪いですし」
「そうかい」
ストレージから“例の刀”を取り出して、助けた男性PPCに渡す。
「取敢えずこの森を抜けましょう。それと、無いよりはマシですけど、街に着いたら返して下さいね?」
「そう、だな」
「それと、この武器の情報に関しては他言無用です。情報家に売ったり掲示板に書いたりしたら軽蔑します」
「お、おう」
この事については現時点では戦闘職のプレイヤーを逆上せ上げかねない。
元々これは趣味…もとい必要に迫られたから作ったのであって、誰かのために作った覚えは無い訳だし。
甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
助けたプレイヤーの名前はディバインというらしい。
スキルのレベリングのためにモンスターを狩っていたら運悪く出くわしてしまったらしく、対応が遅れて逃げるに逃げられなくなってしまったんだとか。
「しかし…蜘蛛を一蹴するとは、流石だな」
「僕にとっては念願の蜘蛛戦があんな形で成就するなんて思いもよりませんでしたが」
「そいつぁ…確かに複雑だな」
「全くです」
「しかし、コモンは何でこの森に?」
「そりゃ、素材の宝庫ですからね」
「素材、か。まぁ、確かにな」
暫く進んで、安全な場所に出る。
即ち果実の成る木の存在するポイントだ。
「此処は?」
「ほんのちょっぴり、幸せになれる場所です」
ナナバの実をもいで、ディバインさんに渡した。
「今は実装されて無いみたいですけど…今、小腹が空いてる気分でしょ?」
「む…確かにそう、言われれば…」
「食べて損は無いと思います、折角味覚も再現されているんですから」
「そう言う事なら、頂こうか」
一口、口に運ぶ。
「――――美味、い!」
そりゃそうだ。
ナナバの実は基本的に『食材』にカテゴライズされるアイテムだ。
現実世界に存在する野生のバナナの様な味では無く、品種改良され、洗練した甘い味となっているが。
ゲーム私様とはいえ、こういった所で配慮してくれる辺り運営も良い仕事をしてくれるではないかと思う。
ナナバを始め、ミルクル、オレ=オレジナの植物が育っている。
「兎に角、此処も時が来るまで黙っていた方が良いな」
「まぁ、そうでしょうね」
ふと、疑問に思う。
「この後、どうするんですか?」
「武器が無いから狩りは出来ない。ま、これも良い機会だから街を参歩してみる事にするわ」
「そうですか。これも縁です、機会が有りましたら『アムネシア工房』を宜しくお願いします」
現在、同郷の新人職人が居るのはあそこだけだ。
ならば、此処から発信していった方が同郷の職人を目指すプレイヤーにとっても良い経験にもなれる筈。
「そうか。その時は寄らせて貰おう」
「ええ」
森を抜けて、ディバインさんと街で別れた後は、宿屋に入って一旦ログ・アウトした。
勿論、武器は返却して貰っている。
さて、そろそろお昼ご飯にしましょうかね?
甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
再びログ・インして工房に向かうと、何人かの戦闘職のプレイヤーが見知ったプレイヤーと口論している場面に出くわしてしまった。
「――――だから何度も言わせないでください! 今の貴方方に武具を鍛える気更々は無いと……コモンさん!」
「大丈夫、タルワール君?」
邪魔なプレイヤーのケツを蹴っ飛ばし、タルワール君に近付いた。
「何すんだ、テメェ!」
「それはこっちの台詞。というか寄って集って職人を苛めよう、て奴等に慈悲なんてこれっぽっちも無い」
「五月蝿い! 外野はすっ込んでろ、今交渉の真っ最中なんだよ、交渉の!」
これの何処が交渉なんだ?
「――――“脅迫”の間違いじゃあ無いのかね?」
殺気が、僕へと集う。
同時に、『龍之威圧』を乗せた殺意をぶつけてやる。
血の気が引いてるのか、途端にさぁーと青く染まっていっった。
「はて? 何をビビってらっしゃるのでしょう?」
「さて、古代バビロニアには有名な名言が有ります。『目には目を、歯には歯を』と。貴方方がこれ以上何か仕出かそうとするなら、此方も容赦はしません」
威圧を強めた。
こいつ等を見ていると沸々と怒りが湧き上がってくる。
「ば…化け物っ」
「僕から言わせれば化け物は貴方方、なんですけどねぇ?」
事実、小説でもあるように、この手で暴走を始めたプレイヤーはまさに化け物と言って良い程の酷さを誇る。
「とっととお引き取り願えませんでしょうかね? 正直、目の前に存在するだけでも非常に不愉快なのですが」
「ふ、ふざけるな!」
すぐに決闘申し込みのウインドウが開いたので、Noをクリック。
そこを非難してきたので、TPOを弁えろと脅したら忌々しげに立ち去ろうとしたので
「あ、そうそう。今のやり取りは掲示板に投稿されても構いませんよ――――そんな勇気が御有りでしたら」
と叫んでやった。
ふぅ、何とか追い返せたな。
「あ、ありがとうございます」
事情を聴いた所、電話で学校のクラスの皆と『CVO』の話で盛り上がってたそうだ。
で、ログ・インして自分が職人で或る事をうっかり自慢してしまったんで、周りの戦闘職の奴等が彼を抱き込もうと無理矢理脅しに掛ってきた、という訳だそうな。
タルワール君は今、その事を反省しているみたいなので僕からはその事については言及しない事にした。
此処で追い詰めてしまって、ただでさえ少ない貴重な職人を失わせる訳にはいかないのだ。
「あ、そうだ」
思い出して作成した武器を彼に見せた。
一通り確認し終えたタルワール君は一息吐くと、ただ一言“凄い”と感嘆の声を漏らした。
「骨から作成した、というのもそうですけども、何より効果が有る、というのは何よりも凄いです」
へぇ、良い着眼点だ。
普通は素材である『骨』に目を奪われがちだけど、この子は本質を見抜いている。
「それに…刃の色合いも美しいです。……もしかして繋ぎにスライムの核を?」
「うん。良く解ったね」
「親方がその昔、鉄の素材を先代が扱わせてくれなかったので、拾った骨で、よく刃を鍛えていたらしいと聴かされました」
流石、親方!
着眼点が違います!
「でもこんなに美しい刀身が出来上がる事があるんでしょうか…?」
「そういえば、焼き入れの時にスライムの体液を使った記憶しか…」
「…それです!」
――――うん?
「体液が、繋ぎに使った核と反応したんだと思います…もしかしたら、ですけど」
そうなのかね?
というか、そんなもんなのかね?
現実でも生産業に触れた事が無いから解らないのは当然として。
「取り敢えず、これ、参考品としてタルワール君に売ろうかと思ってるんだけど…駄目?」
此処で重要なのは“貸し出す”、という事では無く“売り込む”という点だ。
試作品とて、手間暇掛けて作り上げた逸品だ。
そんなものをほいほいとただであげたら製作者としてのプライドが許さない。
「…大胆に出ましたね」
「僕としてはそれだけの事を仕出かしたつもりだよ?」
「…………」
さて、此処からが本番だ。
「君が此処へ来たのはついさっき、つまり、未だに無収入という事になる。――――だから、一旦親方に買い取って貰う」
つまり、だ。
暫く工房預かりにした方が、かえって秘匿し易いのだ。
勿論、タルワール君の収入が一定の値になって彼に買い取られた頃には、職人が有る程度増えているという算段である。
その時になれば、同タイプの武器が市場に数多く出回っている可能性が高く、この武器の存在がばれた所で幾らでも言い訳が出来る。
「凡人程度が考えたから稚拙な策だけれどもさ、これならば同郷の厄人達は手を出し難い状況になる」
それに同郷の人達がNPCに手を出そうものなら、手痛いしっぺ返しが待っている。
治安を維持するNPC、つまり『憲兵』の存在が控えているからだ。
最悪、運営による『垢BAN』なる永久追放ものがどっしりと腰を据えて何時でも構えている。
「まぁ、味方のNPCを攻撃しよう、という愚行を理解していない人はそうそういないんだし」
「それに、これを親方から入手できた頃には、俺の腕もそれなりに仕上がっているって事ですから、勿論それで良いです」
流石職人を目指すだけあって、滅茶苦茶格好良い。
それ程までに、彼の瞳には強い意志が宿っているのが見て取れる。
後にタルワール君は魔骨武具を作らせたら右に出る者はいない鍛冶職人として名を馳せる事になったのは、言うまでも無い。
「さて、と」
骨刀・凡骨丸を親方に売却して、向かった先は森。
獲物は無論グラススパイダーだ。
ディバインさんとの魔物戦で蜘蛛素材は手に入っているものの、それだけでは到底納得しないし、満足だって出来やしない。
――――“糸”だ!
何としてでも、“糸”を手に入れなければ気が済まない!
蜘蛛と言ったら、上等で頑丈、そして独特なしなやかさと弾力を持った強靭な糸を置いて何よりも重要な素材は無いと信じている。
糸を吐かない蜘蛛も中には居ると思うが、大体の蜘蛛は、糸で獲物をハンティングする。
故に、蜘蛛を狩るなら糸は絶対に外してはならないのだ。
求めるは、何だ?
――――牙?
龍鱗の前には、歯も立てまいて!
――――甲殻?
龍鱗の前に、砕けぬもの等無い!
――――ならば必要なのは?
着飾る楽しさが世界を広げる、糸のみよ!
ふうぅははははははははははははははははははははっ!
来いっ!
待っていろ、蜘蛛よっ!
存分に搾り取ってやろうぞっ!
Name :コモン
Sex :男性
Race :凡龍【人化形態】
HP :100%
MP :100%
Weapon :凡剣・日常茶飯事Ⅰ(21%)
Head :凡龍兜・頭吉1
Bady :凡龍鎧・義胸1
RArm :凡籠手・右京1
LArm :凡籠手・左京1
Leg :凡龍脚・脛雄1
Acce :凡龍環・厳首1
Title :【平々凡々】
Skill :『武闘術』Lv12 『平凡化』Lv5 『行動制限解除』Lv11 『発見眼』Lv10 『鍵人』Lv1 『趣味術』Lv16 『龍言語』Lv1 『龍魔法(無)』Lv4