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Q.『凡龍は平凡な日常を楽しめるか』?  作者: 虹乃夢見
“普通”という事情は何時でもそこにある
14/24

(シリアス風味で)『その先に存在するもの』

 ログ・イン。

 昨日までごたごたしててあまり動けなかったからね。

 取敢えず、出来なかった武具の『強化』についてタルワール君に相談するために工房(何時もの場所)を訪れていた。

 近況報告としてはブリギットさんは布や皮革の知識を利用して足踏み式のミシンと織機をレンタルして被服やレザー製品を次々と作成。

 それがPPC・NPC問わずに人気が爆発、かなりの売り上げを叩きだして短期間で店を構えるまでに至っている。

 勿論、レンタルしたミシンと織機は一旦返却した後に、購入した。

 タルワール君の方は、『魔骨』(魔物の骨だと面倒臭いので新たに付けた)を鍛え上げる事に成功して、僕が作成した『骨刀』を購入している。

 二人が此処まで成長できたのは、単にディバインさんやBSGさん、そしてあの時掲示板に参加していたメンバーが支援してくれたお陰でもある。

 肝心の僕は…と言うと、そんなに変わらなかった。

 ただポーションや料理関連で貢献できただけの事である。

 地味っちゃあ地味だけど。

 でもまぁそのお陰か、新規に始めた『薬剤師ファーマシスト』や『錬金術師アルケミスト』、『料理人シェフ』達からは大いに喜ばれた。

君達、僕なんかよりも本職の方達に師事をしなさいな。

――――話は反れたけど、工房のカウンターでタルワール君を呼んでみる。

予めメールでアポをとっている状態なので何も問題は無い。


 「いらっしゃい」


 「相変わらずのイケメンだね」


 「それはどうも」


 「取敢えず武器を見せてくれる?」


 「おっけ」


 腰に差してた刀を外して、レンタル状態でタルワール君に渡した。


 「……コモンさんの武器を初めて手に取りましたけれども、何とも不思議ですね」


 因みに『観察眼』のスキルレベルが上がっているために今の僕にはあれがこう見える。


 ○凡剣・日常茶飯事Ⅰ【片手半剣】

 ・Raeity    :Common

 ・Grard     :☆☆☆

 ・Mastrey   :★50%

 ・Durability:∞

 ・凡能力が形となった打刀。

 『熟練度』による『強化』を重ね『覚醒』を施し、『進化』を重ねる事により内に眠る真の力が覚醒し(めざめ)ていくだろう。


 うーむ、何と言う壊れっぷりだろうか。

 最初期に確認した説明文が此処までがらりと変わっているというのには驚く他無いね。


 「普通は、『熟練度』と言う物は存在しない筈なんですけど…これはまず熟練度を最高まで上げないと強化出来ない仕組みになっています。それを繰り返して、グレードを最高まで上げるとレアリティも一緒に上がる――――そんな所でしょうか。……何にしてもこれは彼方に取って、特筆すべき事項ですね」


 成程。

 どこぞのスマホのソーシャルゲームで存在したシステムに近いのか。


 「完全な『覚醒進化』の典型的な理論でしょうか、普通に規格外過ぎますよ」


 普通にランダムで選んだ結果なんですけどね。

 もしかして僕って普通に強運体質だったりして。

 いやいやそんな事な――――いや、あり過ぎですね。

 もしかしてこれが噂の“天然チート”、なんちゃって。

 ……流石に洒落にならないか。


 「で、強化できそう?」


 「素材は無くても大丈夫そうですね。『進化』の時以外は」


 成程なぁ。

 ただ事が事だけに、素材集めで無茶振りされそうな予感がする。

 外れればいいんだけど。

 けど、それに関しては序盤は何とかなりそうかな…?


 「取り敢えず、第一段階の進化までは出来そうですね」


 「お願いします」


 僕がやると普通にぐだぐだになりそうで怖い。


 「素材の方は?」


 「何とも。…『覚醒』しない事には解りませんね」


 「そう、ですか」


 「費用は『進化』込みで、八十万ゴールドです」


 と、言いながら六千五百万Gを渡してきた。

 …あれ?

 何で大量のお金が出てくるんだ?

 しかも、こんな大金…。


 「技術料から差し引いた額ですよ?」


 技術料?


 「誤解の無い様に言っておきますが、このお金はコモンさんが提供してくれた数々の発明品の“特許料”です。勿論、正当な報酬ですから貴方には受け取る義務があります」


 あー…素材に目が行き過ぎてお金の事、普通に忘れてた。

 いや、表現で表すならすっかりって言った方が良いのかな?

 兎に角、お金の事も念頭に含めなきゃマズいって事くらいは解った。

 如何、如何。


 「織機とミシンについては、まだ上げていませんから其処等辺は御心配無く。貴方が公開しているのはポーション・グミといった回復アイテムと、蜘蛛狩りの事実だけです」


 割と掲示板は確認している方だけど、なかなか書き込む度胸が無い。

 最初に書き込んだ時点で恐くなったのが原因なんだよね。

 あれ以来、情報を公開するか否か迷ってしまう。

 それを抜かしても、一般人だからね?

 トップと張り合う気なんて更々無いよ?

 僕は僕で自由にやりたいだけなんだからね?

 凡人は凡人らしく、のんびりプレイを楽しみたいだけなんですから。


 「…この事は内密に」


 「当たり前ですよ? 貴方は職人・商人にとって大切な人物なんですから」


 思いっきり重要人じゃないか!


 「一般じ…凡人に期待と云う名のお荷物を背負わせないでくださいって…」


 「勝手に背負っているのは貴方なんですけど? …まぁ良いです、彼方の事ですから」


 何で、す、と…?

そんな訳……有り有りでした。

 反論する余地が無い。

 でも、サービス初日から待遇環境の悪さに不満がどんどん溜まっていたのは確かで、それが起爆剤になって自分から行動するに到ったっていうのは否定しない。

 きっと『何時か、誰かがなんとかしてくれる…』といった投げやりな期待が嫌だったに違いない。

 人間、全て人任せは気持ち悪いと感じてる人なんて、普通に大勢いるんだから。


 「平凡な僕に期待しないでください…て言っても効果なんて無いかぁ。でも、ひとこと言わせて? ――――自分の当たり前と他人の当たり前のズレ、それを常に意識させてないと友達無くすって」


 全PCとの余計且つ無用な軋轢だけはぜひとも避けるべきだ。

 というかのんびりライフを満喫したいのに、囲まれたくない。

 あくまで僕は、トッププレイヤーの様に戦いの喧噪に明け暮れ駆け足で走って行きたくないだけ。

 鼻歌を歌いながら、ゆっくり歩きながら進みたい。

 だから気付いたらトッププレイヤー、なんてのは真っ平ゴメンだね。

 僕がやったのはあくまで後からトップに上り詰めようと此処へやって来たり努力する人達への“環境整備”でしかない。

 普通にPPCもNPCも過ごし易い様にしただけの事。

 生憎、此方の知識を何処まで使用していいのか、の匙加減までは考えて無かった。

 ま、結果として生産職のPPCがほんの少し見直されたのは良かった。

 現実世界(あちら)の技術力は確かに凄い、けど高すぎる。

 一方仮想現実世界(此方)の世界は低すぎる。

 手間と時間の掛り過ぎる人力の木工技術と鍛冶が主なのだ。

 布だって、糸を作るのにも時間が必要なのだ。

 其処の負担をほんの少し軽減させるためには、実際“どの程度の技術力”が丁度良いか考慮しなくてはいけない。

 向こうの当たり前はこのゲームの中じゃ、当たり前じゃないのだから。


 「そうですか。誠に良いお言葉、有難うございました」


 「いえいえ。『過ぎたる力は身をも滅ぼす』…これはこの世界でも当たり前ですから」


 「ぶれないですね」


 「つもりは無いけどね」


 取り敢えず、この話を切って、凡剣を渡すと、別室に籠り余った時間でポーションとグミ作成に取り掛かった。

 何時もの通り、『趣味術』のスキルで『錬金術』紛いを行いながらグミの元であるゼラチンを作成して冷ます。

 その間にポーションの作成に取り掛かるとするか。

 場所はキッチン。

 ポーション作成は、『調合』と『錬金』と『合成』と『料理』が有れば最高品質の者が普通に出来上がる。

 が、それは熟練者の話だ。

 僕は何をやろうも、オール三(平凡)な結果しか生み出せない。

 意識をすれば普通に最高品質に出来るけども、いちいち恐々とした気分で作りたくないので却下。

 同時にそちらの方は本職に任せればいい。

 まず、ララクラフト草を水で洗う。

 因みに一般的に回復薬ポーションに使用される薬草は【回復草ヒーリス】という物で、一旦乾燥させてからする。

 但し味に関してはララクラフトより酷過ぎる、とだけ言っておこう。

 閑話休題(それは一先ず)

 そして鍋に目一杯の水を入れて、火に掛けて沸騰させる。

 次に沸騰したお湯の中にララクラフト草を数秒間潜る。

 こうする事で、葉に着いた菌や有害な物質を灰汁と一緒に排出するのだ。

 そして、一センチ間隔で包丁で刻む。

 それから擂り鉢に移し替えてゴリゴリと擂り込んでゆく。

 其処から濾して出た汁と、グラススライムの体液を混ぜ合わせるとノーマルポーションの出来上がりだ。


 ○ノーマルポーション…HPを回復する。

 少々苦いが、従来の物と比べると飲み易くなっている。

 品質の関係で、店先で売られているポーションと同等の回復力しかない。

 品質C

 HP15%回復 満腹度0.1%回復


 うん、良い出来だ。

 幸いララクラフト草は腐る程有るから、じゃんじゃん使って行こう。

 百本作り終えた所で、手を休め、同時並行で作っていたグミ作りに挑む。

 と言っても格段難しい作業では無いので、ポーションジュースを含めた三種類と、それから調子に乗って飴まで作ってしまった。

 勿論フルーツ入りポーションの作成も忘れない。


 「これで良し、と」


 後はこれ(ノーマルポーション以外)をブリギットさんに売れば結構な額が手に入るだろう。

 あ、タルワール君の方はどうかな?

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