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今日も世界は素晴らしい!
なんて気持ちのいい朝なんだ!!
「おはよう母さん!今日も美味しい朝ごはんをありがとう!いただきます!!」
「はいはいおはよう。朝からうるさい」
俺は朝から元気だしごきげんだしテンションMAX!
まあ、全く寝てないけどな!
寝てない故の、止まることを知らない深夜テンションなのだろう。
「いってきまーす」
俺は勢い良く家を飛び出した。
普段はサボりたくて仕方がない学校だって、かなこちゃんの事を考えていたらすぐに着いた。
「おはよう圭!今日もいい天気ですね!!」
「はよー。てか、朝からテンション高っ」
ナンパが上手くいかなかった時は、なにも悪くもない圭に対して八つ当たりとも言えるような憎しみが湧いていたが、今は違う。
昨日圭を誘わなくて、心から良かったと思う。
ありがとう、圭。
「聞け。昨日ナンパ成功した女の子とお茶してご飯食べてメアドも交換した!かなこちゃんっていう子!」
すると圭は、ぽかーんとして目を丸くした後言った。
「…遂に妄想と現実の区別さえ付けれなくなったのか?」
「酷い!!!!」
コイツ……俺をゴキブリを見るような目で見てくるんだけど。
きっと圭は、俺が今まで女の子と付き合ったことないからバカにしてるんだろう…。
許すまじ…!!
「現実だわ!しかも夢島学園の子だからな」
「うわっ。妄想もここまで来たら引くの通り越して尊敬すら覚えるわ」
ここまで信じてもらえないとは……。
「だってさ優翔、考えてみろよ?
お前って、童顔で可愛らしい系の顔してるのに、いかにも若気のいたりって感じな全く似合ってない金髪だぞ?
まだ学校の女子ならお前の性格知ってるし、遊ぶのは分かるわ。
でもナンパされた女子の気持ちになってみろ。明らかに似合わない金髪をした中坊にナンパされてるんだぞ?痛々し過ぎだろ?そんなやつがナンパ成功するはずが無い。
わかった?」
こんなにも長文でボロクソ言われた……。
なぁ、俺ってそんなに金髪似合ってないの?
「でも、じっ、事実だし」
「うん。お前がそんな風になるまで気付いてやれなかった俺が悪かった。ごめんな」
演技でもマジでも、そんなに悲しい顔されても俺はどうしたらいいか分かんねぇからやめてくれ…。
◇
キーンコーンカーンコーン……
やっと6時間目もHRも終わった…。
俺はとっくの昔に授業の内容を理解出来なくなってる。
そんな暇過ぎる時間をサボらず寝ずに過ごすというのは、授業を普通に受けるよりもよっぽど疲れる。たぶん。
さっさと遊びに行きたい…
今日は、圭とA組のやつらとカラオケに行く予定だ。
「けーい、早く行こうぜー!」
真っ先に教室から出ようと駆け出そうとした、その時だった。
「とーつかぁ。お前、今日も補習だよなぁ?」
「…ソウデシタッケ」
担任の石居に肩をガシッっと掴まれた。
痛い。指めり込んでるから。しかもすごい笑顔だし。
石居は数学教師で一見理系だが、柔道部顧問のド体育会系なのだ。ちょう力強いんですけど。
コイツは俺が何かしたら、鬼のような速さですぐ母親に報告する=俺は石居に逆らえない。
中2で石居が担任になってからは、
俺が悪事を働く→石居が母親に報告→死亡フラグ
という最悪ルートになっている。
(後から知った話なのだが、中1の俺の素行の悪さに困った母親が、すぐ報告してもらえるように石居に頼んでいたらしい。あの母親め。)
…おとなしく補習受けよ。
◇
全く分からん。
何がどうなってこうなるんだよ…。
まず、図形の合同ってなんだっけ?
今、この教室には俺しか居ない。
補習中、気付いたら寝ていた。
起きたら机の上にプリントが置いてあり、黒板に
『机の上のプリントをして職員室に提出してから帰るように。石居』
と書いてあった。
そして、誰も居なくなっていた。というわけだ。
それを今、必死で解いているのだが…
「あああああ分からん!!」
さっぱりだ。
まず、今回の補習自体、春休みの課題テストの補習、つまりテストを解き直す補習なのだ。
つまり、悪い点をとった俺は解らないうえに、解説をしていたであろう時間ずっと爆睡していた。
だって昨日一睡もしてないんだもん。言い訳だけど。
「あー。帰りたい…」
きっと、プリント出さなかったらすぐ母親に伝わる。
絶対、今日から明後日辺りまでメシ抜きとかになる。
それだけは避けたい!!
自分で3食のメシを買えるほど金持ってねぇよ…。
だけど、
「だから合同って何……」
あぁ、もう5時半だし。
圭なんて、石居に捕まった俺を見て大笑いしながら、
『じゃあ俺は、ブハッ、A組のやつらとカラオケ行ってくるわ!ばいばーい!』
と言って去っていった。
今に始まったことじゃないけど、酷い奴だ。
圭はすげー要領がいい。
だから、どれだけ授業を真面目に受けていなくても、テスト前に教科書を徹夜して読み込んだら大体内容を理解出来るらしい。
羨ましすぎる。
今回のテストだって、たしか全教科平均点以上取っていた。
「カラオケ、俺も行きたかったなぁ…」
そういや、アイツも点数良かったらしい。
『今回のクラス最高点は96点だ。』
『うわっ!?弓槻が最高点だし!またかよー』
『勝手に見るなよ恥ずかしい!』
そんな、何気なく聞こえてきたクラスメイトの会話を思い出した。
ガラッ
「あれ……?優翔」
「……………叶か」
そのアイツが来た。叶だ。
「なんでここに、ってか部活は?」
たしか、叶の所属する剣道部は6時半ぐらいまで活動しているはずだ。
「先生が今日用事あるから早めに終わったんだよ。で、忘れ物取りに来て…
ゆ、優翔こそなんでまだいんの?補習?」
叶なんかと話す必要なんて無い。
俺は質問に答えず、解けないがプリントの方に目を向ける。
分からないようにそろりと叶を見てみると、無視されてのをむっとしたようにした後、黒板と俺のプリントを見て、状況を把握したようだ。
「全然終わってないじゃん。
このままじゃ帰れないだろ」
「うっせぇ」
お前には関係ないだろ。
「ちょっと待って」
すると叶は、俺の机の前の席の椅子をこっち側に向け、向き合ってきた。
「これはさ、この合同条件を使ってさ…」
「待て。合同って何?」
「そこから!?」
◇
叶は、俺の学力の無さに悪戦苦闘しながらも、解き方を教えてきた。
「こことここの角度が一緒だろ?だからこの条件を使って証明できるんだよ」
「…なるほど」
なんとなく、叶の方を見た。
そういや、叶も左利き、か。
左利き……かなこちゃんもだなぁ。また早く会いたい!!
たしか圭も左利きだ。
珍しいのに、俺の周りに3人も居るなんて、なんかすごいな。
「……終わったぁ!」
「よっしゃ!!!」
とてつもなく悔しいけど、叶の教え方はすごくわかり易かった。
叶が来なかったらプリント終わってなかっただろうし。
てか、叶の忘れ物って何だったんだろ。
◇
教室を出て、職員室までプリントを提出しに行った。
俺には教室に鍵をしめて、職員室まで持っていくという発想すら無かったから、叶がしめたみたいで、叶も一緒だった。
「………」
「………」
俺たちは隣に住んでいる。
だから、帰り道も全く一緒なのだが、ひたすら無言。
そりゃあそうだ。
俺たちはずっとあの時から気まずいままなのだから。
「なんか、こうして帰るのも久しぶりだな」
物寂しそうに叶は言った。
何なんだよ。
お前が、俺を見下して、突き放したから、俺だって。
また無言になって、もう家というところまで着いた。
「…じゃあね」
バタン
俺の返事を待たず、叶は家に入っていった。
なんだよさっきから。
なんであんなに悲しそうな顔すんだよ。
お前から俺を突き放したくせに。