桜の下の命
舞い散る桜の下。
消えゆく小さな命。
助けられないと嘆く少女。
助けてほしいと涙する少年。
空には、雨上がりの虹。
桜 の 下 の 命
「ねえ、助けてあげてよ……。」
「それはできないわ。アタシは、死神だもの。」
赤と白のコントラスト。
舞い散る桜の下で、死神と名乗る少女は俯く。
謝罪の言葉と共に。
少年の腕の中には、灰色の猫が収まっていた。
両目から血を流し、今にもこと切れそうな浅い息をしている。
どうにかして助けたい。
そう嘆く少年の前に現れたのは、赤い浴衣を着た死神だった。
「このままじゃ、死んじゃうよ……。」
「そう、死ぬわ。だってアタシは、その子を迎えに来たのだから。」
しかし少年は猫を離そうとはしない。
抱かれた腕の中で、時たま苦しそうに唸る子猫は、もう。
「……夢を、見せてあげるわ。」
少女は手に持った鞠をひとつき、地面に落とした。
鞠が地面についたその時。
少年は、青空と青い草原が美しい、橋のたもとに立っていた。
腕から猫がすり抜ける。
一度だけ振り返り、黄金色の綺麗な瞳で彼を振り返った。
『僕ならもう大丈夫だよ』と言いたげに、可愛らしい声で鳴いて。
頭の中に声が響いてくる。
「その子は、死んでも幸せな場所へ行くわ。」
子猫が走っていった先には、沢山の動物たちがいた。
足跡は虹のように光を放ち、彼が通れば橋が溶けるように消えていく。
「だから、大丈夫。安心して。」
橋を渡った向こうから、子猫が振り向き座る。
少年には、猫が何を言いたいのか、わかった。
ここで待ってるから。
ありがとう。
友達も沢山いるから、僕は大丈夫だよ。
最期に優しい人に出逢えて、幸せだった。
また、逢おうね。
少年は、桜の木を見上げた。
「ありがとう。死神さん。」
もう、彼の傍には死神も、猫の姿もない。