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154 Hello World.

 小さな集落の付近に、滔々と流れる大きな川がある。その上流から吹いてきた温暖な風は、木で作られた家々の隙間を潜り抜けて、人々に自然がもたらす潤いを意識させた。やがて程よく湿った風は、村の周囲を囲んでいるやや深い森の中を縫い進んで、外れにある、少しだけ高くなった丘へとたどり着く。


 温い風を受けた少女は、鼻にくすぐったさを感じて、目を開けた。

 緩慢な動作で立ち上がった彼女は、空を見る。そこは、青かった。

 静かに首を前へと倒した彼女は、大地を見る。そこは、緑に茶色が混ざっていた。

 徐々にはっきりしてきた頭を労わるように手を添え、彼女は左右を見る。そこには、様々な形を持ったオブジェクトが立ち並んでいた。

 それらに触れ、植物であると理解した。また、遠方を見下ろす事で、自分が高い位置にいるのだと、理解した。眼差しの先には、人々が暮らす場所へ、日の光が大きな柱となって降り注いでいた。その欠片を川が拾って、表面を、幾度も瞬きさせていた。


 少女の中には、拙いが、様々な知識があった。だから、どうして自分がここにいるのかを、彼女は知っている。


 彼女は何ともなく、自分の体を見る。しかし、彼女の持っていた知識とは、食い違っていた。

 彼女は、紫色の光を放っていなかった。

 やがて、彼女の思考は追いついた。自分は人間になったのだと。


 少女以外、誰もいない筈の、丘の上。だが、すぐ近くに気配を感じた彼女は、そちらを見る。数十ヤード離れた場所に、何者かが見えた。


 その人物の事を、少女は知っていた。

 その人物は、特に変わった所がない場所をキョロキョロと見回して、どうやら困惑の色を浮かべた。

 だから彼女は、何も知らないであろう人物に、どうして何もないのかを教えてあげようと思う。

 その人物から、”別れ”や”生と死”や”尊い者”や”恐怖”、そして、”恋”と”愛”を教わったように。


 それは、人間になった少女の、新しい仕事だ。それを初めて知った彼女は、今度こそ自分の目的を見失わないと、決心した。

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