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153 冷たい石の遺跡

 その少女は、ほとんど何も知らない。

 彼女が知っている確かな事と言えば、自分の名前と、自分が冷たい石の部屋から、外の世界に出た記憶がない、という程度だ。だから彼女は、自分が誰からノーヴという名前を与えられたのかも知らないし、外の世界がこの冷たい石の部屋を包含しているのか、冷たい石の部屋が外の世界を包含しているのかも、知らない。


 ノーヴは、何も食べない。そもそもノーヴ自身、食べるという概念を深く理解できない。

 ノーヴに食事をした経験があるかどうかは、誰にもわからない。過去に食事をした事があったとしても、彼女自身がそれを忘れている。それに彼女は、食べなくて困った事がない。従って、ノーヴは人間でないのかも知れない。

 ただ彼女は、人間でいう所の、少女の形をしている。


 ノーヴは常に一人ぼっちだ。

 しかし彼女自身、一人ぼっちという概念がよく解らない。だから気にもしないし、そもそも気にするべきなのかどうかも、わからない。


 ノーヴは遠い昔に、誰かから与えられた使命があったような気がした。だが、恒久的に続く時間の中に、そういったものは埋没していった。だから今更彼女が色々な事を思い出そうとしても、無理であるかも知れない。とはいえ、ノーヴ自身もそんな事は気にしていないから、どっちだって良いのだった。

 ノーヴは、自身の中に渦巻いているであろう感情の正体が掴めなかった。一体それは何なのだろうかと、ずっと考えている。勿論、いつから考えていたかは知らない。唯一言えるとすれば、途方もない時間を使っただろうという事だ。


 真っ暗な空間の中で、考えては冷たい石の祭壇に座って、自身から出ているであろう淡い光を床越しに見つめる、という作業を繰り返す。

 作業なのかどうかは彼女自身もわからないが、作業という言葉を、どうやら自身は知っていたようだった。




 ノーヴの耳に、突然音が滑り込んできた。

 いや、滑り込むというよりは、刺さるような音だったかもしれない。とにかく彼女には、そのようにしか表現できない。だから、その音の正体が一体何なのかは、ノーヴには見当もつかないし、わからなかった。


 彼を見るまでは。

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