最終話 終わりと始まりは呼応する
「意識が戻ったようだね、功咬剛君」
…あれ…………ここどこだ?
「見ての通りここは病室だ。君は救助されたんだよ。聖署の方に感謝するんだね?」
「…俺は、生きてたんですね…」
それが驚きで、実感が湧いてこなかった。
今でも思い出せる。なんとかシゲを遠くに逃がして後、凛の近くで、凛と同じように、、死にたかったわけじゃないけれど、、、最後にヤケクソで魔法を唱えて、、、、それからどうなった?
意識が朦朧としていた所為でよく覚えていないようだ。はっきり覚えていることも当然あるのだが
「凛……」もう届かないけれど、誰に言ったわけでもないけれど、呟いた。
凛は死んだ。目の前で。死ぬ間際の言葉なんて残すこともなく。
「僕の知り合いはどれくらい死んだんでしょうか?なんて、分からないですよね。みんなどうしてるかな、僕が助かったならクラスメイトは生きてる人が多いに決まってますよね。ああ、せめてシゲが生きてるといいな、でもお見舞いに来てないみたいだしもしかしたら、…、、」
医者は黙っていた。黙ろうと思ったわけではなく、慰める言葉がすぐに出てこなかったのだった。そしてタイミングを見て口を開く。「まあ…色々あったとは思うが、一応現状の把握というか、今日の"大災害"について説明しておくね。聞きたくないなら聞かなくて全然結構だ。」
「聞きます。教えてください。」
辺りは少し騒がしい夜22時。昼間の地獄の面影はあまり残っていないようだ。
「簡単に言うと、『今日昼13時頃、東京都内部で害悪種が大量発生するという異常現象が発生。太平洋上での出現しか観測されていなかった以上、この時点で異常現象と呼べるが、それだけでなく新種が姿を現すことになった。東京は混乱に包まれたものの、聖署や神聖庁によって害悪種は鎮圧。被害者は100人程度出てしまったようだ。幸い再び害悪種が都内で発生することはなく、救助活動が今もまだ続いている。』こんなところかね?」
「…そうですか。、、なんとなく把握できました。」
どうやら今日の出来事は"大災害"という呼ばれ方で報道されたみたいだ。太平洋上以外で、それも大量発生、しかも新種だなんて"大災害"どころじゃない天災だ。一番驚いたのは「幸い再び害悪種が都内で発生することはなく」の部分だったりするのだが。当然理由なんて分からなかった。
医者がこんな夜までいた理由は別にあったようで
「実は君に合いたいという人がいてね?構わないかな?」
友人だろうか?…なぜだか分からないけれど、功咬はそうは思えなかった。断る雰囲気でもなさそうだ。
「はあ、構いませんけど。」
ドアを開ける音。そこには20代前半の男が立っていた。見覚えはない。なんというか、貴族のような気配がした。エリート魔法使いとでもいうような…
「やあ、功咬剛君。僕は"神聖庁"で働いている者で、名を杉田という。まあ僕の名前なんてどうでも良い。重要なのはエリート魔法使い集まる魔法使い達の頂点、神聖庁の職員が君に会いに病室まで押し寄せた。こう言えばなんとなく想像ついたりするのかな?」
ある、いやない。ありえない。仮に俺の考えることだったとしたら条件を満たしていないというか、釣り合っていない。
「君を神聖庁へ招待する。まあ強制連行すると言い換えても間違いではない。」
「…………」どういうことだ?
「君はもしかして気づいていないのかい?誰が君の学校の体育館を炎で消し炭にしたと思ってる。君だよ、「ギガ・メル・ブロード《超魔法クラスの炎系全体魔法》」でも使ったようだったね。まさか中3での才能判定システムにこんな誤算があるとは、いやはや驚きだ。」
「ちょっと待って下さいよ。超魔法クラス?何を言ってるのかさっぱりですが。僕は「リトル・メル《初歩魔法クラスの通常魔法》」しか放てませんよ?」
「…………本当、かい?」
頷く。しばらくの沈黙の後、語り出す。
「真剣に聞いてくれ。君の言うことは事実かもしれない。だが状況証拠で考えた結果、君は超魔法使いと比べても引けを取らないレベルの魔法を使用した。その体育館での戦いだ。君は世界級魔法使いとしての素質が十分にある逸材といっていい。」
冗談としか思えない。超魔法と言えば初歩魔法、普通魔法、強魔法、超魔法、最強魔法という区分での超魔法だ。並の人間では使えない領域。でも確かにあの時、体育館の最後の時、初歩魔法で切り抜けられて助かったとは思えないのも事実だ。
まったく…今日だけで馬鹿みたいに不可思議なことが起こりすぎだ。頭が追いつかない。
「もう一度言う。君を神聖庁へ招待する。」
信じられたわけではない。でも嬉しいのも事実だ。神聖庁への入学とは全高校生徒の憧れなのだから。今は信じてみることにするか。
それに、神聖庁には"あいつ"も…
「分かりました。神聖庁での指導、宜しくお願いします。」
今は疑問が浮かぶばかりで神聖庁を想像する暇もなく、ただ今日の悲劇を思い出す。
鈴白凛が生きてたこと、鈴白凛と過ごした短い日々。絶対に忘れない。
「しばらくは休養しておいて。退院したら早速編入だから。」
普通の高校生としての人生はお終い。自分がいつから変わってしまったのか、なぜ変わってしまったのか、そんなことは知らない。
今はただ、凛のことを思い出しながら眠ることしかできなかった。
"大災害"のとある夜。
序章完結です。遅くなってすみません、そして序章なのに長くてすみませんorz
文章力がまだまだですが、見守って下さる方がいるのなら、第1章も頑張りたいと思います。