第三話 動かなきゃ始まらない
先生の人数は必要最低限といった程度だ。もともと警護役で聖署から移動してきた先生達と魔法の才能がなくて就職してきた先生達の2つに分かれるわけで、この状況が示すことはもちろん
緊急事態だった。
「なにがどうなってやがんだ⁉︎」「わたしたちどうなるの⁉︎」「出せよ!ここにいても死ぬんだろ⁉︎」「……東京に生まれるんじゃなかった。」
クラスメイトの叫びを、功咬は眺めていた。落ち着いているわけじゃない。むしろ喋るための気力が湧いてこない、そんな感じに近かった。
ほんの数時間前まで、あの緊急速報が入るまで、ほとんどの人が心の奥では思っていたと思う【まあ大丈夫だろ。】と。それだけ世界は平和を取り戻したように見えていたんだ。
巨大な蜘蛛みたいな真っ黒な生物が窓から見える…何か黒い馬みたいな生物が空を飛んでる……あれ、駐輪場になんか黒い「…る!剛ってば!」「ハッ⁉︎……凛か」
「大丈夫?顔色悪いよ?」「…おまえもな」「…」
恐怖しかなかった。初めてこの目に害悪種を焼き付けてしまった。それは大人も同じかもしれない。窓から数体見えるあの猿のような黒い生物以外、害悪種は存在しないはずだったから。
落ち着くために話しかけてみる。
「なあシゲ、こんなところに留まってていいと思うか?」
茂は落ち着いているように見えた。
「どうだろうな…ま、下でやってる先生方が確実に守ってくれるってんなら、安全かもしんねえけどな。」
反語のようだと思った。「そんな保証ないだろ」と。
「でも外に出る方が危険だ。今までの害悪種ならまだ分かんねえけど今出たら確実に死ぬ。それはお前にだって分かるだろ。」「まあな……どうしたもんかね。」
そんな時だった。「ねえ剛!あ、あれ見て‼︎」
先生たちが下で戦っていた。俺たちを守るために。俺たちは見てしまった、"最悪の状況"を。
1人、先生が死んだ。
「あ、………」凛が膝から崩れ落ちた。
もう1人、先生が死んだ。そして、
害悪種たちが侵入した。
「皆さん落ち着いて!大丈夫だから」
先生こそ、手が震えてますよ…
誰も落ち着いてなどいられなかった。奴らはくる。皆が下を向いていた。逃げ場も無ければ時間もない。こんな状況でどうしろというんだ。
いや、選択肢は一つだろ。
「動こうぜ」
功咬が言った。「先生は"俺たちのために"死んだんだ。聖署の連中を待ってるだけじゃダメだ。時間を稼ぐにしろ倒すにしろ、害悪種と鉢合わせになるのは確実だ。」
みんなが聴いている。功咬は続ける
「だったら先手を取った方が有利だろ!俺たちに出来ることで戦おうぜ。俺だって戦いたいわけじゃない、怖いよ。でも俺は才能ないから、俺だけじゃ何もできないから!だから!…みんなで絶対助かろうぜ!神頼みしても助からねえんだ、絶対に。…もう一度聞くぞ。」
気持ちのこもった言葉で
「動こうぜ」
皆が前を、向いていた。
戦う意思のある奴がどれだけいるか分からないが、他の学年まで説得している余裕などない。
俺たちは今屋上にいる。ここには魔具の貯蔵庫があるからだ。
魔具とは魔力を込めた道具のことで、自らの魔力を増幅させる魔増機や"その人の才能に頼らず"普通魔法が行使できる使い捨ての魔召機などがある。どれも高価で、非常用として学校では置くことが多い。ちなみに天然物と量産物が存在したりもする。
俺たちは攻撃班と支援班に分けることにした。残念ながらここはエリート魔法使い養成学校ではないため、全員が魔法を使えるわけでもない。初歩魔法程度しか使えないものは、魔具を軸に普通魔法が使える者のサポートに回った方がいいと判断した。
いつまでも聖署が来ないわけじゃない。だからこそ、これは短期集中型の戦いだ。あるもの全てを消費してでも害悪種に勝つ!
支援班の魔具が透視で壁の向こうに害悪種を捉える。支援班から魔増機をもらった攻撃班は魔法の詠唱の準備に入る。支援班の一部も魔召機を手に取る。
戦況が、動く
次は確実にバトルをorz
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