第一話 再開しない最下位、そして再会
「す、すげぇな…」功咬剛はびびっている。威圧感に負け始めている。奴は凄まじい威圧感を功咬に与えている。誰かと戦っているような表現だが、実際には"ある建物"を見ているだけだ。
そう。今日から通うことになった、神聖庁である。
今は11月の始め。"大災害"からもう1週間ほどが過ぎた。"大災害"で功咬剛に起きた出来事は1つや2つではない。その1つ_もしかすると最も大きい出来事かもしれない一件の所為で、現在"こんなところ"まで来ているのだが。
「よし!行くしかねえよな。」
気合いを入れる。たかが建物の威圧感に負けるようでどうする。忘れたとは言わせねえ、俺にはあの日から"決意"したことがあるだろ!
功咬剛は歩きだす。そして神聖庁の中へと足を踏み入れる。
「やはり、凄まじい魔力だ。」適当に言ってみた。
神聖庁は「庁」と付く通り、国の機関の一つである。その中でも「魔法関連」を統制するのがここ、
「神聖庁」だ。
主に国内の魔法教育の管理、害悪種との交戦、聖署の指揮などが仕事だ。聖署だけで対応出来ないと判断すれば聖署の応援にも駆けつける。そしてもう一つ、【特待生】の招待、つまりは
「エリート魔法使いの育成」
そして私こと功咬剛は、まさかのまさかで【特待生】に選ばれたのでした。
受付っぽい人に聞く「あの、【特待生】の教室はどちらでしょうか?」
杉田さんに_あの日、病室で渡されたIDカードのようなものを見せる。
「ああ、編入生の方ですか。噂になってましたよ、ついてきてください。」
やっぱり噂になってる様子。そりゃそうだ。
なにせ功咬剛こと私は一般高校に先月まで楽しく通う高校1年生だったから。【特待生】なんぞ到底届かない無縁の生活だったのに。"大災害"から俺の魔法は狂ってしまったらしい、らしいというか試してわかった。狂っている。「初歩魔法しか使えないのに超魔法並みの火力がでちゃう超魔法使い」とか聞いたこともない。こんな状態で【特待生】としてやってけるのか不安すぎる。
そんなことをぼんやり考えながら受付の人についていくと、一番奥の壁の前で止まった。あれ?意外に行き止まり早いなあ。外からの神聖庁は相当デカかったような気がしたんだけど。
「ここにIDカードをかざしてください。」
「え?あ、はい。」
なんで壁にIDカードをかざすんだ、と思ったのも束の間、
「壁を通り抜けてください。」「は⁈」
あ、いけねえ。口調が乱れた、って…え?
「"【特待生】の壁"、行ってらっしゃーい。」
受付の人が功咬の背中を押す、というか押し込む。
「わッ‼︎………痛ってて、、え⁈」
説明しよう。壁の向こうに部屋があったのだ。いや、部屋ではない。学校があったのだ。なに?
つまり、さっきの壁は魔法か何かで【特待生】だけ入れる空間への入口。やけに外から見た神聖庁より中の方が小さく感じたのは半分くらい【特待生】の養成機関だったから、というわけか。
人が少ないと思ったのだが学校が普通くらいには大きいな。実験場とかあるんだろうか。その後ろにかなり大きい運動場ぽい空間も広がってるみたいだ。
「とりあえず入るか。」
そう思い、学校の中へ。すると
「入学おめでとう!!!!!!!」「わわッ⁉︎」
びっくりしたわ!それにしても凄い声のデカさだった。1人しかいないのに、魔法なんだろうな。さすが神聖庁。
「びっくりしたかな⁉︎いやあ実は昨日、『超小型メガホン!これであなたの友達もドッキリ間違いなし!』っていう広告に惹かれちゃってね!ははははは。」
魔法じゃなかった…誰だこのおっさん。
「あの…教官の方ですよね。今日からご指導お願いします。」
「え?私は校長だから教えないよ!ははははは!君面白いね。メガホンあげよっか⁈そうだ!ようこそ我が"神聖校"へ!」
まさかの校長だったああああ!!ドッキリ大好きなんですね、分かりましたから。あれ?この人どこかで…
「あの…校長先生、もしかして神聖庁の最高長官の」「そうです!坂之上です!坂之上哲二です!"てっちゃん"とか呼んでもいいと思った?ダメです!残念!校長って呼んでね!」
だそうです。テンション高い理由を教えて下さい。
「校長、今日からこちらでお世話になります。
編入生の功咬剛と申します。世界級魔法使いを目指して精一杯頑張っていくつもりです。」
「うむうむ!頑張りなさい!まずは君の教室へ案内しよう、あ、待てよ。まずはちょっと職員室へ寄って行こう。ちょっとでいいから!」
職員室?まあ確かに挨拶したほうがいいよな。この40くらいの方が校長とは、神聖庁の最高長官とは驚いたもんだ。もうちょっと年寄りの白髪のイメージをしていた。まあテンション高いけどいい人そうだし、職員室に寄っていくのも校長として自分の為に…
「みっちゃん!おはよう!」「あ…っと、てっちゃん!おはようございます!」
ん?
今職員室についた瞬間女の先生に挨拶した校長さん。かなり親しいのか「みっちゃん」とか呼んだな。ていうか「てっちゃん」って呼んじゃいけないんじゃ?
「いつ見ても可愛いねえ!仕事手伝おうか?」「いえいえ大丈夫です。あの、後ろの子はもしかして?」
「ああ…そう!紹介します!編入生の【特待生】、
功咬剛君です!」
『ああ…』とか言われたような気がしたが、とりあえず僕も自己紹介。数人しかいない職員室の先生からも「よろしく」の声。人が少ない気がするのは授業中なのかな?
「じゃあ教室連れて行くよ!みっちゃんバイバイ!」
「て、てっちゃん校長さようなら。」
違和感を覚えつつ職員室を出る。すると校長
「みっちゃん可愛いよな!『明るい人が好み』って言ってたから今はこんなキャラで喋ることにしてるんだ!」
え⁉︎キャラだったのか校長!もうそれ"明るい"というより"キチガイ"みたいですけど⁉︎…まさかと思い質問する。
「"てっちゃん"って呼んでましたけど、いいんですか?」
「僕が呼ばせてるんだよ!僕の好みの人しか『てっちゃん』は使ってはいけないよ!」
やっぱり…ちょっと躊躇ってたもんあの先生。
なぜこの人が神聖庁の最高長官なんだ…
「さて!教室に案内しよう!ついてきて!」
やっとだよ…そんなことを思いつつ、自分のクラスのことを考える。馴染めるかな?なんかプライド高い人が多そうで怖いなあとか考えると緊張してきた。
2階に到着。廊下から教室が3つ見えてきた。
「君は1-Aの教室だよ!10:00から授業開始だけど、ちょっと待ってくれてるはずだから!いきなさい!」
現在は10:12。プライド高い奴の時間を食っている。不穏な空気が漂っていそうでヤバイが、行くしかない。
「失礼します。」
うわ、予想通り。
クラスの人数は30人ほど。ほとんどの奴が睨んでくる。3人くらいは笑顔で迎えてくれる。そんなことを考えながら見渡すと、
見つけた
そいつだけは、驚きの目で僕を見ていた。まあ連絡しなかったからなあ、とか考えながら視線を逸らす。
そいつは、中学時代のシゲと同じく親友…いや…それ以上だった…暫く連絡もとっていなかった元…親友。
相園美咲だった。