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8話 音楽室




今週はテスト期間の為、部活はお休みとなる。

何故部活が休みになるかと言うと、それはお勉強をして欲しいからであって、遊ぶ為にお休みにしてくれている訳ではない。

そんな事は学生なら当然知っている事で、世の中の半数以上の人も分かっている事なのだけど、学生は分かっている上で当たり前の様に遊ぼうとするのも周知の事実でもある。



ココ桜ノ宮の学生も、授業が終わった放課後にも関わらず、賑やかにおしゃべりに夢中の生徒が多い。おしゃべりをしていれば当然喉が渇くし小腹も空いて来る訳で、それじゃあカフェに行こうと言う流れになるのは当然の成り行きだ。

私もその流れに賛成派であり、友人達と一緒にクラスを出ようと鞄を手にして立ち上がったが、サイドバッグが無い事に気が付いた。



「音楽室に忘れて来たー!」



友人達から笑われながら見送られた私は音楽室へ向かい、海外のブランドのロゴが大きく入った小振りのバッグを探しに向かった。(そこは、ほら、お嬢様だから)






放課後の音楽室は良く見るドラマやアニメの様に、薄い茶色の夕暮れ色に彩られて危ない色気を醸し出している。

こういう雰囲気の場所に長居は無用と、まずは頭だけを覗かせてキョロキョロと偵察してみる。


でーんと置かれたグランドピアノが大層普通サイズに見える広い音楽室の椅子の上に目的のバッグは置いてあった。


しかし、そのバッグを枕にして寝ている御仁がおられる。



「あの~」と、声を掛けてみるけど返事がない。



そーっとバッグに手を伸ばして、ぱっと取り出そうと思ったけど上手く行かなかった。


「・・・何だ」


「バック、返して下さい」



言われた御仁は一瞬何の事か分からなかった様子だったが、間もなくして頭を上げてくれたお蔭で、その隙間から引き出す事が出来てホッとした。

手にしたバッグが温かいのは少々気分が悪いけど、上級生に係わるのはもっと嫌だから口に出さないで戻ろうと思った。



はて?



バッグに頭を乗せてただけで、これほど暖かくなるものだろうか。(そう感じる位暖かいんだよ!)

疑問に思ったものだから、並べた椅子の上でまだ寝ている御仁の頭を触ってみたら、えらい事に熱いではないですか!


「先輩、保健室に行った方が良いですよ」


「・・・五月蠅い」



うーん。困ったな。

このまま放置はマズイよねー。私の顔、バレてるし。後から嫌味言われるのも嫌だけど、何よりこのまま知らんふりする事が一番嫌だったりする。




音楽室から比較的近い保健室まで行って見たけど保険医の先生は生憎と不在だった。

冷やす物は無いかと保健室の中を探した結果、冷蔵庫の冷凍室に入っていた小さな保冷剤(ケーキ買うと入れてくれるヤツが3個みーっけ)を1つ頂いてまた音楽室へ戻る事にした。



戻って見たけど相変わらず先輩は寝てるし、椅子固そうだし、保険室から一緒に持って来たタオルに保冷剤を入れて頭の下に入れてあげた。



「何しに来たんだ」


「頭冷やしに来たんですよ」




それきり先輩は目を瞑って本気で寝てしまった感じがする。



・・・ねえねえ、こういう時って、ヒロインが現れて介抱するもんじゃ無かったでしたっけ?



そう思ったから、グランドピアノの陰に隠れて誰か来るんじゃないかと、ドキドキしながら30分位待っていたけど誰も来なかった。(おかしいなー)




そんな事をしていたら、友人達からの「何やってるの?」「遅いよー!」メールが届いて、こんな事している場合じゃ無かったと慌てて科学教室へと猛ダッシュする事にした。





「袴田先生!森ノ宮先輩!音楽室で西園寺先輩が倒れてます!」


科学教室にはこの二人が居たので、少々大袈裟に言って急いで向かって頂く事にしました。




私が慌てて生徒玄関で靴を履きかえていたら、下條さんが階段を上がって音楽室方面へ行く所が見えました。




もしかして、私は早まった事をしたのでしょうか。





カフェに着いて友人達と一緒にケーキを堪能している時『ピーポー』とけたたましい救急車のサイレンが通り過ぎて行くのを横目で見ながら、友人達と一緒に「何だろうねえー」等と空っとぼけた顔していた事は彼等には絶対に知られては行けない秘密事項である。





数日後。



まさかの生徒会室への呼び出しがありました。



生徒会室には生徒会長只1人。



「先日はありがとう」


「うえっ、あの、退院おめでとうございます」


普段仏頂面のイケメンが、物凄く優しい笑顔を作ったら、それはそれは大変な破壊力を持ってしまいます。



まさか!?まさか、変な気を起こしたの?西園寺君!?



「お礼をしたいんだけど」


「お、お礼は、いりません、ですよ」


西園寺君と少々距離が有った筈なんだけど、じわりじわりと近づいて来る気配に後退します。



考え直せ!西園寺君!君にはもっとカラフルな人が似合うよ!



「学園から徒歩5分のカフェで、ケーキセットでも御馳走しよう」


「はいっ?」


目の前まで近づいて来た西園寺君の顔が、チシャ猫の様にニヤリと不気味な笑顔を張り付けた。



「俺を介抱するより、ケーキの方が良かったんだろ?」



こいつにバラしたのはだーれー!?

極秘事項だって言ったじゃんか!!




奥の方から笑いながら出て来た生徒会役員の皆様プラス袴田先生は、私の反応に大いにウケてくれました。



あの後、私が呼びに行った後直ぐに、袴田先生が音楽室に向かいながら救急車を呼んだ事。

音楽室で保冷剤を枕に気持ちよさそうに寝ている西園寺君を見て呆れた事。

取り合えず救急車に乗せて、西園寺家掛かり付けの大学病院へ行ってもらった事。

森ノ宮先輩が帰る道すがら、カフェで友達とケーキを食べている私を見つけた事。



以上の事により、西園寺君が私に意地悪をしてくれる事になったそうです。




どんだけ暇なの、この人達!




ぶーたれている私に薫様だけは優しく労わってくれる。なんて優しい人なんだ!


「みんな、酷いわ~。こんなに可愛い子を苛めるなんて」


「薫先輩!」(救世主に見えます)


「元は清隆が悪いんじゃない」


「そうですよねー」(もっと言ってやれー♪)


「可愛い小鹿ちゃん♪私が慰めてあげるわ~(ハート)」


「はへっ?・・・・・」



男性陣の視線が・・・『マズイ』と言ってるような。





待って、待って、よーく考えて見れば、薫様も攻略キャラ、でした。(!)





えーーーーーーーーーーーーーーーっ!





百合のパターンもあるんですか!?


石の様に固まった私の頬に、薫様の柔らかい唇が「チュッ」と音を立てて触れました。


これが一番の仕返しだったのかも知れません。



わーん!っっっ


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