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7話 部活




部活動の自由な見学期間が終わって数日経つ。

クラスの8割方の生徒は部活も決まって、授業が終わると急いで教室から姿を消して行く。

教室に残る人数も7・8人位で、その生徒達も塾や習い事等に向かう為に時間調整をしてから教室を出る。



「ぶーかーつうー。どっちにしよー。」



『入部届』を机の上に置いて、独り悩み始めて2日になる。(放課後限定)


自分の趣味的には中学でも入ってたバドバドミントンが良いんだけど、体験入部してみたラクロスもかなり面白そうだった。広いグラウンドを思い切り走り回るのは結構ハードだけど爽快感が物凄くあった。




「んー、別の部活にしよかな。例えば・・・文化系?」



茶道、は下條さんが居るから却下ね。

華道、は副会長の東雲君が居るから却下。

文化部、は薫様が居るし、これも却下。

料理部、・・・お腹を空かせた暁君が頻繁に来るって自慢してたから却下。

後、何有ったっけ・・・あ、英語部、は花蓮が英語のダニエル先生に連れて行かれたから却下だわ。



カラフルさんには関わりたくないから、文化系は考えるまでも無かったかもね。



そうなると、やっぱりバドかラクロスかなー。





「お、さくらもち、まだ居たのか」




むん。さくらもちと呼ぶのは担任の袴田先生だけだ。

流石にクラスメイトの誰一人としてそう呼ぶものは居ない。

でもね、さくらさんって呼ばれる様になったのはちょっぴり嬉しいかな。だって、何時までも「道明寺さん」なんて苗字で呼ばれるのは得意じゃないもん。



「今帰りまーす」


家に帰ってから、じっくりと考えようと思って鞄を手に立ち上がった。




「それは丁度いいねえ。少しだけ、手伝ってくれる?」

「何が丁度いいんですか、先生」

「左手、余ってるでしょ?」

「左手?」



何の事は無い、一人では持てない程の大きな荷物(大きさの割には軽くて取って付き)の片方を持ってくれる助手が欲しかっただけだった。

(もうちょっと普通に頼めないのかな~、この先生)





科学教室は校舎の2階の外れにあって、教室の他に準備室も隣接してある。

廊下からどちらの教室にも入れるし、教室の中奥にある扉からも準備室へ行く事も出来る。


先生は後者の扉の前に二人で持って来た荷物を置くと、「助かりました。お礼に珈琲を入れてあげますよ」と言って、アルコールランプに火を点けた。



「先生、何するんですか?」



先生はにこっと笑うと、アルコールランプの上に三脚を置き、その上にビーカーを乗せて水を注ぎ入れた。

何処から持って来たのか、コーヒーカップとインスタントコーヒーを取り出して準備をしている。




「そうそう、一応科学室を利用したって事になるから、この用紙にクラスと名前を記入しておいてね」と、一枚の紙を渡された。


「えー、こんな事位で書かなきゃいけないんですかー、もう、面倒臭いですねー」

ぶつぶつと文句を言いつつも、先生には逆らう訳にも行かないし、しぶしぶと書いて渡しておいた。


「サンキュー」


(はて?先生の目がキラキラと輝いてるんですけど?なんで?)







〈 ガタガタ ガタガタ ガン バターン! 〉





隣の準備室とを繋ぐ扉が勢いよく開きました。


その扉の前に置いてあった箱が、勢いに負けて反対側に吹っ飛びました。




「サトちゃん!僕たちを閉じ込めるつもり!?」

「へっ?」

「お前ら、また来てたのか」

「はいっ?」



準備室から顔を出したのは黄色い頭の暁君。



「あれ、お客さん?」

「違うぞ、新入部員だ」

「えっ?」



先生は、さっき私が書いた紙をひらひらとさせている。

「ちょ、ちょっと、先生―!?」

「ようこそ、科学部へ」




準備室の扉の前には黄色に続いて、緑、青、赤までが現れた。




「この子は道明寺さくらさん、通称さくらもちで宜しくねー!」





さっき、ちょっと思ったんだ。

先生が妙に普通の先生っぽいなあーって。

まさかとは思うけど、なんか策略してたら嫌だなーって。





もしかして、私の非常ベルは鳴っていたのかしら。


(あーーー、どうしようーーー、さくら最大のピンチ!)






東雲君が私の顔をじっと見て言った一言。

「あ、この子、入学式の日に俺達見て笑ってた子だ」

(あ、バレてた)


森ノ宮君も何かを思い出して一言。

「あー、撫子と一緒に来た子」

(もう呼び捨てかい)


西園寺君は眉間に皺を寄せて嫌そうに一言。

「花蓮の従妹」

(知ってたのねー)




「なーんだ、さくらもち、もう皆と知り合いだったんだ」

何故か全員分の珈琲を差し出した先生は満足そうだった。




科学教室の隣の準備室は、生徒会役員の溜まり場だった。




彼らが言うには「秘密基地」なんだそうだ。

全生徒から注目を浴びるのも大概に疲れるらしい。

(疲れるのかー。私はてっきり彼らの栄養素の一つだと思っていたけどなー)

なんて思ったら、一斉に非難の視線が私をグサグサと突き刺した。

(うぎゃ!コイツらはエスパーか?)




一応、科学部は存在している部活として名前がある。

でも、何処で誰が何をしているのか分からない部活の為、入部希望者がいない。

今年の1年生が誰も入部しなかった場合、廃部になる事が決まっていたらしい。

廃部になると、活動費が入らない、暖房冷房が使えなくなる、などモロモロの理由から阻止するべく、手頃な人材を探して騙したと言う話らしい。



「さくらもち、他言は無用。でも何時でも遊びにおいで」



こうして私は科学部のたった1人の部員となったのである。






他言無用って、誰にも言える訳ないだろおーーーーー!


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