23話 最終話
鬱蒼と茂る木々に囲まれた山の麓に一軒の神社が置かれている。
一軒、とは言っても鳥居から始まり参道、拝殿、本殿、更に古札所や宝物殿まで有し、この神社を守る宮司の住居も置かれている為かなり広大である。
その神社と共に在る御山は「鎮守の杜」と言われており、神聖な山、滝、岩が祀られている神聖な場所と言われている。
その神社奥にある社庭と呼ばれる庭園を見渡せる回廊に、巫女装束を纏った姿で横座りをし、その足元でまるまっている猫を撫でている少女がいた。
「ヒト、とは難しいのぉ」
「楽しんでいると思ったが」
「それとも違うのぉ」
「では嫌か」
「・・・このままで良いわ」
「そうか」
我の飼い主は別の世界でオタクと呼ばれるヒトだった。
猫である自分をとても可愛がってくれたのと同様に、ハコの中の少女と呼ばれるヒトらしきモノも愛しんでいた。
ある日、そのヒトが突然動かなくなり、そのヒトと同じ臭いのする不透明なモノが動き出した。だから我はその臭いの後を追って見知らぬ場所へと彷徨い、忽然と消えたその臭いの最終地点に飛び出したのだが。
「傷付いたヒトはここに来ておるのか」
「君が連れて来たようなものだからね」
「やはりそうなのか」
「心配か」
「似た臭いが側にあったから気になっただけよ」
「そうか」
あの場で我がクルマというモノに潰されていたらココには来ていない。
我の代りに動かなくなったヒトは、その最終着地点が私の目指していた地点だった為に、ソコでの理に反して連れて来る事となってしまった。
動かぬヒトの口元から何かが聞こえた気がして、その口元を舐めとったのが悪かったのだろうか。
「主は見つかったか」
「漸く見つけたぞ」
「哀れよのう」
「ふん。我を置いて行く事が間違いなのだよ」
「先で見つけたモノは気に入らぬか」
「・・・興味のあるモノだったが、私のモノでは無かったわ」
我はココに来て、一から人を学んだ。
猫の記憶が邪魔だったが、主に近づく為には全てが必要な事だった。
親から勧められるままの道を歩んだが、主と思しきヒトにはまだ会えず、より一層の探索が必要だと思う事から、別のヒトが集まる学び舎へ針路を移した。
あの学び舎は五月蠅すぎる。
「主の好きな場所に興味があったのでは無かったか」
「そうだな。あれも楽しかったぞ」
主が良く言っていたのだ「選択を間違えてはいけない」と。
だから、主が選択していた通りにしたのだが、結局は上手く行かなかった。
「現実は、二択や三択で答えが出る物では無いよ」
「それも良い経験になったのぉ」
「お前の主はそれを知っているから、ココに来なかったのかも知れないな」
「ふん。お蔭で探すのに手間取ったわ」
「知らないのだからな」
猫の主は病で亡くなり輪廻の輪に入って行った。
猫は輪廻から外れたモノだった為、巫女の元へ訪れた。
長い時を猫として過ごした「姫猫様」は輪廻の輪に入る事を条件に、ココで人となった。
姫が連れて来た傷ついたヒトは輪廻の輪に入ったが、姫との接触でその力を宿しているのでは無いかと思うが。
こればかりは私にも分からぬ事。
姫様と仲の良かった祖母の「萩様」なら分かったかも知れぬ。
私は「萩様」の生まれ変わりの巫女。
記憶を受け継いだが、それ以上の事は分からない。
「主が呼んでおる」
「行くか」
「嗚呼」
膝の上から下り立ち前足を思い切り伸ばして体を伸ばすと、ストンと社庭に飛び降りて色取り取りに咲いていた花の中に消えて行った。
丁度其処には猫と同じ淡い水色の小さな花が咲いていた。
ココは姫の主が気に入っていたゲームの世界と酷似した世界。
本来なら、姫の主だけが来る予定だったのだが、姫の「力」が強大過ぎて他のモノまで巻き込む事となった。
姫猫様は数千年を生きる猫又の姫様だ。
その姫様が関心を寄せてしまったが為に彼女が主人公となってしまった。
そして、姫様が干渉したヒトの記憶にも同じ世界が残っていた為、そのヒトも巻き込む事になったのだろう。
姫の主は、全ての事を無に帰して転生している。
それも姫が願ったからだろう。
昔からこの世界には異界の者が入り込む事があったらしい。
数代に一人、力を持った巫女が生まれると起こる珍事だったそうだ。
それでも複数人、猫も入れてだが三人も呼び込むとは、萩様とは大した巫女だったのだろうと思っている。
しかしその力ゆえだったのか、呼び込んだ後直ぐに亡き人となってしまった。
// ブーン ブーン //
着物の袂から携帯を取り出して開いて見れば、新着メールが届いたと教えてくれるヒツジが踊っている。
『 柚へ 大変心配を掛けましたが、無事に退院しました。退院してからの方が何だか大変になりそうです。近い内に、私の話を聞いて下さい!お願いだよー! さくら 』
私の大切な友人はとても可愛い。
賢くて頭も良いが結構なお転婆でもある。
中学まではそれ程目立つ存在では無かったが、アノ高校に進学してから彼女は徐々に変わりつつある。
彼女と初めて会ったのは幼稚舎の入学式。
私も私の両親も彼女を見てとても驚いたものだ。
萩様と同じ白茶の髪色を持つ少女。
カラフルな色よりも、非常に希少な白茶は稀有な存在となる。
「御ばあ様も御戯れが過ぎます」
巫女は立ち上がると、手の中の携帯を操作しながら廊下の向こうへと消えて行った。
終話
最後までお付き合い頂いた皆様、本当にありがとう御座いました。
感想やお気に入りにメッセージ、PVやユニーク数の多さに驚愕しつつも本当に感謝しております。
とても多くの方に読まれているという事実に、途中、ちょっと不安になったりもしましたが、こうやって終話を迎えられた事を嬉しく思います。
応援して下さった皆様方、本当にありがとうございます。
言葉では感謝しきれないほど感謝と幸せを頂きました。
ありがとうございます!




