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22話 乙女





「やっと、帰って来たー」



長かった入院も漸く主治医の了解を得て、どうにか退院出来る事になった。


(あの先生も大概に心配性だわー)


まあ、意識不明の患者が5日後に目を覚まして一安心したのに、その日のうちに電子機器がピーピーピーピーと何度も鳴り響けばそれもしょうがない事かも知れない。

その後2日間は本当に「面会謝絶」になり、更にそれから2日間は時間制限付きの面会と限定されてしまった。



週末にお見舞いに来てくれたクラスメイト達は、面会謝絶になっていた事を随分と心配してくれたようだけど、原因が原因なだけに正直に打ち明ける事は出来なくて赤面しながら誤魔化す事となってしまった。



『好きな人から人工呼吸を受けたと知って、心拍数と血圧が上がったからです』

とは流石に言えません。



後から花蓮に教えて貰って分かった事だけど、その事は皆が知っている事であり学校中に噂が広まっていた事なので今更なんだそうだ・・・


だよね~

学校の敷地内で行われた行為なんだからさ~

見られてたよね~


ああ恥ずかしい。




恥ずかしがる事じゃないのは分かってるけどね?

そのお蔭で今の私が息してるのも分かってるんだけどもね? 

もう少し、こう、 ねえ? 

さらっと教えてくれれば良い事じゃありません?


それをわざわざ色気満載で教えてくれたのよ、彼ってば。




私が目覚めた翌日の事。


内臓に疾患は無い事から、その日の夕食から食事が出る事になった。

食事と言っても重湯と言われる固形物が一欠けらも入っていない物で、こんな物なら食べなくても良いわーと思ったけど、行き成りの固形物は胃に負担になるから徐々に慣らして行くと言われればしょうがない。



しかし右側を打撲しているのでスプーンを持つのも大変な訳だから、看護師(女性)の方が介助してくれる事になっていたんだけど、タイミング良く龍ちゃんが現れてそのお役目を引き受けてくれる事になった。


(両親は溜まったお仕事で残業しているらしいよーゴメンネー)



でもね、昨日の今日よ?


視線を合わせるだけでもドキドキするし鼻血も出そうになるってのに、そんな人がスプーン持って「アーンしろ」みたいに凄むのよ。


これ最悪よ。何の羞恥プレーをお望みですか?と聞きたくなるわよ。


でも私だけがわたわたしてるのも何か可笑しいし、こっち一応病人だし、考え過ぎだなーと思って普通の顔をして口を開けましたよ。




んで、スプーンを口に運びながらこんな事を言い出したのです。



「今度はきちんと味見をする」



これ、意味分かります? 普通は分かりませんよね?



「龍ちゃんも病院のご飯食べたいの?」



と、なりますよね? そうですよね!?



「お前をな」



( は? お前・・・味見? トワーーー!?)



スプーンを咥えたままで顔を真っ赤にしている私に、更に追い打ちを掛けて下さいました。



「人工呼吸の時は良く覚えていないからな」




(ダァーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?)





   // ピーピーピーピーピー //





全ての計器が外されて居なかった私の病室は、やっぱり賑やかだった。



本当なら面会謝絶は1日の筈だったけど、更にもう1日延びたのはこの所為だと思っている。






元気になって来ると人とは不思議なもので、入院生活とは大層暇な事だと理解する。


午後になれば暇を持て余している私の為に、本やお菓子を持って柚が来てくれる事が大層嬉しい。


1日おきに来てくれる花蓮と帆夏は、授業でのプリントとか書き取ったノートとか、後は流行の雑誌等を持って来てくれる事に感謝してる。


こんな事を云うと笑われるけど、暇な筈の入院生活も、友達のお蔭でなんとか乗り切れたのだ。



お見舞いに来てくれた友達に、折角の文化祭を台無しにしてしまった事を謝っていたけど、誰からも責められる返答は無く、逆に気を遣わせてしまった事に申し訳ないと思ってしまった。




違うか。


生徒会メンバーからは散々文句を言われて、散々慰めて頂いた。(変だよね)











「・・・さくら、さくら?」


ぼんやりとしていたら、屈み込んだ龍ちゃんの顔が視界に入った。


「え?あ、気が付かなかった」



ベッドに腰掛けると、部屋のドアが右後方に位置する為、聞こえずらい(聞こえないかな)。



「やっぱり聞こえてなかったか」


「うーん。こればっかりは、ね」



右の耳は殆ど聞こえない。

でも治療で治ると言われているから今はそれを信じてる。

最悪の場合は手術になるだろうけど、治る見込みがあるのなら悲観する事は無いと思ってる。



今日の退院にはママと龍ちゃんが来てくれた。


パパも来ると言っていたけど、仕事を放ったらかして来たら絶交―と言うのが聞いたのか来なかった。パパがあんまり頻繁に休むと、秘書の方々が大変迷惑を被ると言う事を知らないのだろうか。知っていたとしても、秘書や部下の方々が大変有能なのでそれに甘えているのでは無いかと思っている。(パパ、実は確信犯かもね)



龍ちゃんとママは荷物を下ろしていたが、私には先に部屋で横になるようにと言って手伝いを却下されている。


もう何ともないんだけど、ココは素直に言う事を聞いておいた方が良いと思って部屋でぼーっとしていた。



「じゃあ、俺は仕事に戻る」

「うん。ありがとうねー」

「・・・メール、返事を寄こすように」

「わ、分かってる!あれは、ワザとじゃ無いって!」




ごめんなさい。どうやら私の手違いだったみたいです。




メールや電話が繋がらないと思っておりましたが、きちんと繋がります!



正確に説明すれば、繋がる様になったになるのかな。



あの頃の私は99%諦めムードだった訳で、1回だけの繋がらない電話に落ち込み、偶々エラーで送れなかったメールに慄いてしまったのだ。


携帯を開いては閉じてを繰り返しているうちに、どうやら龍ちゃんのアドレスの小さな・(点)を消してしまった事に気づかないでいたようだ。


電話番号も然りで、11桁の電話番号の筈が12桁に増えていたのには吃驚したっけ。



私の携帯電話は登録しているアドレスと電話番号以外は着信拒否する設定となっており、この理由により龍ちゃんからの連絡が来なくなった模様です。



龍ちゃんは、着信拒否をされる位嫌われたんだと思っていたのに、突然私が告白した事により物凄く悩んだらしいです。


(だよねー)





あれ?・・・って事は?




ヒロイン下條撫子の恋愛シュミレーションは失敗に終わったって事?


えっ?あれ? もしかして、私が邪魔した事になるの?





マジですかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?





そんなつもりは毛頭御座いませんよ!!


本当ですって!!


龍ちゃんを諦めようと直ぐに決断したのだって、彼女を応援していたからですよ!!


出来れば彼女に「スペシャルハッピーエンド」とやらを迎えて欲しいとまで思ってましたから!!



だって!


だって!





『下條撫子』は、私がゲームで命名したヒロインの名前で、私の前世での本名・・なんですからっ!!





「さくら?」


「・・・・・」





ああもうどうしよう。


今頃気が付くなんて最低だよ自分。


下條さんが転校するって言った時に気が付くべきだったのに。


下條さんが瞳をきらきらさせて夢を語る姿に、そんな事も考えないで応援してしまった自分が凄く情け

ない。



すっかりゲームと言う事を忘れて、道明寺さくらとしての生活に慣れてしまった自分に呆れてしまう。






それじゃあ『下條撫子』としてのゲームは終わりなのか?


彼女は転校と言う理由でリセットしたのか?




違う。それはきっと違うと思う。




彼女は、自分の道を見つけたのだろう。



乙女ゲームのヒロインでは無い、本当の進むべき道を。








「・・・そんな顔をするな」





龍ちゃんは床に膝立ち状態で私の目の前に居る。


私には龍ちゃんの首元のピンク色のネクタイの結び目しか見えないが、彼には私の表情がまるっと見えているだろう。


それが分かっていても、表情を取り繕う事が今は出来そうも無い。



「・・・ごめん」



これからどうすればいいの・・・










「泣いている女を放って置けない、と教えなかったか?」


「え?」


「ましてや、惚れてる女だと」


「ええっ?」



そう言えば、ポタポタと透明な雫が手の上に落ちている。



あれ?何時の間に泣いたんだろうと不思議に思い、その涙を拭い取ろうと手を動かそうとしたのだけど。


手、どころか体中の何処も動かせなくなりました。


辛うじて目と口は動かせますけど。




がっつりと抱きしめられて私が動けないのを良い事に、瞼や頬に彼の唇が降り注ぐ。




「りゅ、龍ちゃ・・・」



はい。口も動かせなくなりました。






が、



「・・・お前、経験あるのか?」



ちょっと行き成りの濃厚なキスに、息も絶え絶えな私は龍ちゃんの言っている意味がちゃんと理解出来ません。



「・・・まさか、な?」



「ゼイ、ハア、って・・・あの、何が?・・・あっ! いっやあーーーーー!!」




やっちゃったっ!


龍ちゃんのキスを思い切り受け止めてしまいました!


ついでにお返しまでした様な気がします!


16歳の少女がする事じゃあ無いですよねっ!?





中身33歳です!それなりの経験踏んでます!でも今は純潔です!





だあーーーーーでも説明なんて出来ないわーーーーーorz





今までは誤魔化せた事が、コレに関しては誤魔化せそうに有りません!


自信は皆無です!(泣きたいよー)




でも言わせて貰えば龍ちゃん、君だって相当なもんですよ!


キスだけで翻弄されるなんて(意識吹っ飛んだしー)どんだけ場数を踏んでるんですか!?






「味見だけでは足りそうにないな」


「へっ?」




にやりと不敵に笑う虎が、違うか、龍が舞い降りました。




ソコーーー!喜ぶ所じゃ無いよーーー!?




ベッドの端まで後退したが、猛禽類(龍は含まれるかしら)の一睨みでそれ以上動けない。


ちがっ、これ以上後退したら確実にベッドから落ちるって。




壮絶な色気を纏った彼はもう目の前。


今までの凛とした彼は、鎧で作った猫を被っていたんだと初めて知りました。








ヒロイーーーーーン! プリーーーズカムバーーーック!!!








やっぱり私は私の幸せを掴み取る為に頑張りますっ!







END


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