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19話 病院





// ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ //






この規則正しい電子音を、何時か何処かで聞いた気がした。


(ああ、お父さんの病室にあったのと同じ音だ)






さくら、さくら、聞こえる?ママよ。


(ママ、今日はお仕事じゃ無かった?)




さくら、聞こえるかい? 友達が来てくれたよ。


(パパまで、またお仕事サボったの?)




さくらさんっ、どうして、こんなっ・・・


(帆夏?どうしたの?)




さくら、早く目を覚まして、ね。


(花蓮まで、何かあったの?)





・・・今は、もう少し眠った方が良いよ・・・


(・・・だれ?)





規則正しい電子音と、何処か遠くから届いて来る声にぼんやりとする。

体は酷く重くて指の一本を動かすのも億劫だった。そんな状態だからなのか、瞼を持ち上げる事すら出来ない。



一体、どうしたんだろう。



考える事すら酷く億劫で、何もかも全てを投げ出してしまった。


それと同時に自分を包んでいた淡い光が忽然と消え、入れ替わる様に暗みに包まれる。

言い知れない恐怖が忍び寄って来そうだったが、私の手を包む暖かい手がそれを払ってくれた気がした。





ごめんね、もう少しだけ、もう少しだけ、待っててね














「・・・・・っ、うっ、ごっ、ごめん、なさいっ、・・・ごめっ、うぁ・・・」


「・・・・・だい、じょうぶ」


「・・・うえっ・・・ほんとうに?」


「・・・うん。だいじょうぶ」




小さな声で一生懸命「ごめんなさい」と泣いている声に意識が浮上する。


目を開けたいんだけど、接着剤で張り付けた様に重くて中々上手く行かない。


その間も小さな声が途切れ途切れに聞こえて一層慌ててしまう。


慌てている筈なのに体を動かすのも思う様に行かなくて、何だか少し苛々として来る。



何度も動かしてやっと開いた目に映ったのは、小さな男の子だった。



(また泣いてる)



その子を見たと同時に、自分のした事を思い出して、自分の状況にも納得した。




泣いている子に私のかすれた声はなかなか届かない。


泣き声が少し小さくなった時に、少しだけ大きな声を出したらやっと届いたようだ。


大きな声と言っても、普段よりもとてもずっと小さな声だった気がする。





「病院では静かにしないと・・・」


そう言いながら子供を窘めるのは、やっぱりあの時のお母さんだった。

お母さんは目を開いている私と目が合うと、目を大きく見開いて口をパクパクしている。


(金魚みたい)


どうやらこのお母さんは驚くと口をパクパクさせて、両手で空をかき分ける癖があるみたいだ。




「まあ!まあ!さくらっ!」


「ママ・・・」


「お、おはよ・・・うぅっ・・・おはよっ・・・」


「うん」



凄く寝坊してごめんねと言いたかったけど、喉の奥や口の中がヒリヒリとして言葉を乗せる事が出来なかった。



それから直ぐに先生(主治医らしい)が駆けつけて簡単に私の様子を見てくれた。


どうやら峠を越したらしいが、まだ血圧が低いので眠れるならもう少し寝た方が良いと言われ、素直に目を閉じてみたらそのまま眠ってしまったらしい。








再び目を覚ました時、ベッドの横の椅子に座っているパパと目が合った。途端にパパがポロポロと泣き出した。


「・・・パパ」


「うん、うん、パパだよ、うぅっ」


「・・・ごめんね」


「さくらは、何にも悪くないよぉ」


「・・・すこし、ねすぎちゃった?」


「そうだね、起きるまで五日も掛かっちゃったね」


「え・・・うそ・・・」



あれからそんなに経っていたのか!?

何て事だ。

それじゃあ心配されるのも当然だ。



喉が渇いていて上手くしゃべれないから、パパに頼んで水を貰うけど、少々温く感じる水は正直美味しく無い。もう少し冷えたものが飲みたいと言ってみたけど、今はまだ駄目なんだと言われれば我慢する外ない。

パパからも眠れるなら寝た方が良いと言われたけど、今はそれほど眠いとは感じなかった。



って言うか、恐ろしくて眠れないと言った方が正しいのかも知れない。病室の中は機械だらけで、それらが全部私の体と繋がっているみたいなのだ。体を動かしたいけど動かせない状況下に、余り考えたくない状況が頭を過る。




「どうしたの?」


周りを見渡したまま黙っている私にパパが不思議そうな顔をして話し掛けて来た。


「機械がいっぱいだなーって、」


アンドロイドってこんな感じなのかな、と見当違いな事を思ってしまう。


「うん。今日まで全然目が覚めなかったからね。明日になったら全部外れると思うよ」

「全部?」

「うん。全部じゃ無いかな。だって、怪我は大した事が無いからね」

「本当?」

「本当だよ」

「・・・そっか」


パパの言葉に凄く嬉しくなって、思わず体が反応して動こうとしたけど、体中に走る激痛に苦い顔になってしまった。


「全身打撲なのは事実だからね、まだ動かない方がいいよ」

パパ、それはもう少し早く言って欲しかったな。



眠れないなら、と言う事で、パパが今までの事を教えてくれた。




車の前に飛び出した私は、そのまま車に跳ねられて宙を舞ったそうだ。


(あの男の子は擦り傷を作っただけで済んだと聞いて嬉しかった)


そして、落ちた先が幸運にも大型トラックの幌の上だったそうで、だから打撲だけで済んだらしいと言う事だった。


「運が良かったのかな?でも、良くも無いかな」

「良かったんだよ」


パパはとても真剣な顔で見つめている。

多分、それは、もしもそのトラックが居なかったらと考えた時の所為なのだろう。


「そうだね」



「それに龍太郎君の適切な指示のお蔭でもあるし」

「へっ?」

「彼が救急車の手配と搬送先の病院に連絡を入れてくれたから直ぐに対応が出来たんだよ。さくらはね、少しの間、ショックで呼吸が止まったと聞いたよ」

「・・・・・」



ほんの数秒数分でも三途の川を覗いていたのかと思うと心臓がバクバクと早くなり始めた気がする。それとほぼ同じに、//ピーピーピー//とアラーム音が部屋に響き始め、パパと二人でなんだろうねと顔を見合わせてしまった。


それから直ぐに看護師さんと先生がやってきて、私の体の再検査をするとか大騒ぎになってしまったけど、急な心拍数の変動の原因がパパだと分かって直ぐに病室から追い出されたのは言うまでも無いか。


「やっと意識が戻った患者さんにショックを与えないで下さい!」先生の言う事は最もだと思うよ。パパ。




もしもだけど、三途の川に番人さんが居たとしたら「あんた、また来たの」と笑われていたのでは無いかと思うと凄く恥ずかしい。





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