17話 文化祭
そう、文化祭よ。
イベントが山盛りな文化祭な訳ですよ。
「行きたくないなあー」
ヒロインにとってはドキドキワクワクな文化祭も、私にとっては限りなく嫌な予感しかしない文化祭な訳なんですよ。
おまけにさ、クラスの出し物「にゃんにゃん喫茶」って! オイ!
どうしてこうもお決まりのコースを取るのか、マジで泣きたいわよっ!
大体のストーリー展開なんて知れてる訳で。
いつも三つ編みにして物静かな撫子さんが、髪を下ろして化粧なんかすると物凄い美少女に変身するのよ。アウトオブ眼中だった同級生の男子とか先輩とかが、急に恋心なんぞを開花させて近づこうとするのよねー。でも、そこでヒロインの思い人が現れて「こんなに綺麗だったのか」とかって見惚れて攫って行くって言う王道のパターンよね!間違いないっ!
それはいいのよ。もうとっくに思い人云々は諦めてるから好きにしていいんだけどさ。
今はそれ以上の問題が自分の身に降り掛かっているのだよ。
机の上に乗っている紙袋を睨みつけたまま数秒・・・「はああぁぁ~」と特大の溜息を付いた私の心境を誰が分かってくれるんだろう。
昨夜、花蓮と薫様の突然のご訪問を受け、無理やりのコスプレショーを開催されました。
花蓮と薫様は、夏休みのファッションショーbyおフランスで仲良くなったらしい。
「さくら、明日はコレがあなたの衣装ですからね」
「キャー!さくらちゃん、可愛いわー、お持ち帰りしたいぃー!」
2人で騒ぐだけ騒いでお帰りになったのは、日付が変わる直前でした。
作ってくれたのは嬉しいけど。
それも有名なデザイナーさんの家の薫様が作ってくれたのは、とーーーっても嬉しいけど。
ふわふわの真っ白くて長い耳に真ん丸のしっぽ。
短いパフスリーブの袖にひらひらの襟。
お尻が半分位見えそうなショートパンツにもこもこのロングブーツ。
にゃんにゃん喫茶て名前からして、普通は猫だろうが!ね・こ!!?
何で私だけうさぎなんだよおーーーーー!
花蓮曰く、「皆が猫なんだから、受付ぐらい他の動物が宜しいのでは無くて?」
薫様曰く、「バンビちゃんも作ったのよ~♪ 後ね、パンダちゃんもあるわよ~♪」
意味が分かりません!
「誰が着るかーーー!」
時計を見れば10時を少し過ぎてます。
本日の集合時間は8時でした。
今日はこのままお休みと言う事で。
//ブーン// //ブーン// //ブーン// ・・・・・・・・・・
マナーモードになっている携帯が、机の上で動いてます。
怪奇現象でしょうかねぇ。
//プップー// //ビービー// //ヴオンヴオン//・・・・・・・
何やら表が騒がしい気がします。
昼間暴走族でしょうかねぇ。
//ドタドタ// //バタバタ// バンッ!!!
「さくらっ!!!」
ベッドの上で丸くなって布団を被っている私に、随分と近くで声が聞こえます。
//ベリッ// っという効果音と共に視界を遮断していた布団が消えました。
目の前には・・・不敵に笑う花蓮と、にこやかに笑う帆夏がおりました。
「クラスを代表して迎えに来ましたよ♪」
ほ、帆夏、意外と外せないキャラだったんですね。 わーん。。。
「い、い、いらっさいまし~ にゃんにゃん喫茶 えいぎょうちゅう~」
教室の入り口で【にゃんにゃん喫茶】の看板を手に客引きをしている私は、自分の事をうさぎ、うさぎだと言い聞かせて仕事をしております。
遅れてやってきた私をみたクラスメイトは「遅刻した罰」と言って、一人づつ交代でツーショット写真を取るという判決を言い渡しました。
只でさえ遅刻して来たうえにそんな事をしていた訳だから、私達のクラスの営業時間は大幅に遅れましたよ。
その遅れを挽回せよ!と言う訳で・・・今現在に至ります。 わーん。。。
「うさちゃん~!かわいいー!」小さなお子様は大歓迎です。
「ほらっ・・・行けよ・・・だから・・・」思春期の少年よ。
もじもじしていても時間だけが過ぎて行くぞ?私もそろそろ休憩だからね?
にこっと笑いかけてあげたら、物凄く小さな声で「写真撮らせて下さい」と言って来た。
慣れって怖いね。(笑)
教室の半分を仕切った「裏方」で、やっと休憩に入る事が出来たんだけど、休憩しているのは私だけだった。
(何だか申し訳ない。でも少しだけ喉に潤いを与えさせて下さいませ。声出しっぱなしだったから結構辛いんです。はい。)
紙コップに分けて貰ったイオンドリンクを口に含みながら、仕切りの間から向こうの様子を伺ってみる。
にゃんにゃん喫茶だから、私以外はみんな猫だ。
女子はお決まりのメイド服に猫耳としっぽ付き。
男子は黒のスリーピースに猫耳としっぽ付き。
みんな、それが凄く似合っている。
でも、その中で一番目を引くのは、淡い水色の長い髪をふわふわと遊ばせている撫子さんだろう。
150センチより少しだけ高い身長に小さな顔。
彼女の為に猫のコスプレをしたのじゃ無いかと思う位似合っている。
写真を求められて、はにかんだ笑顔で寄り添う姿はやっぱり可愛いと思う。
もう一人、目を引くのは花蓮だね。
シャムネコみたいに気高くて、カッコイイ。
(何故かひよこの着ぐるみを来て接待している薫様に、違和感を受けないクラスメイトも肝が据わっていると思います)
みんなが休憩をろくに取らないで働いているのを横目に、だらしなく椅子に凭れかかってぼーっとしている自分が情けない。
そろそろ仕事に戻るかーと思って立ち上がる時に、思わず出ちゃった掛け声が年寄り臭い。
「はぁ~よっこいせぇ~」(あら、変な声をだしちゃった)
仕切りの向こう側で、ぷぷっ、クスクス、って笑い声が聞こえてる。
(まずいっ!聞こえちゃった?花蓮に怒られる!?)
こっそりこっそり教室から出ようとした所で、教室に入って来たお客さんにぶつかってしまいました。
「す、すみま・・・!」せん、まで言えずに、下を向いたまま廊下を駆けだした。
走っても、走っても、纏わり付くあの人の匂い。
爽やかなのに少し甘くて、大好きだったあの香り。
顔とか仕草とか、目を瞑れば探す事は無いのに、香りだけが何処までも追っかけて来る。
全然諦め切れて無いじゃんか。私の馬鹿。
前世でも、こんなに人を好きになった事、あっただろうか。




