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15話 茶事





夏休みも終わったある休日。

コンビニやケーキ屋さんにはそろそろ秋を感じさせる「マロン」シリーズが並び始め、心はうきうきし始めるんだけど現実は「まだ暑いー」って頃に、ママと一緒にお出掛けする事になりました。



「えー、着物なの?」

「当たり前でしょう。茶事なんだから」

「今日も暑いよー」

「建物の中は何処も涼しいでしょう」



まあ確かに。

車の中も涼しいし、建物の中も涼しい。

車は玄関から玄関まで乗り付けるから、直に暑さを感じるのはほんの少しだけ。



「今日の茶事、何処?」

「下條先生の御宅ですって」

「・・・あっそ」

「あっそって、撫子さんと同じクラスでしょう。仲良くしているんでしょう?」

「そこそこね」



実際そこそこしか話をした事が無いのは事実。


それは私が彼女を嫌っているとか龍ちゃんを取られた腹いせに無視するとか、そう言う事では無いのだ。本当にそうじゃ無いんです。

多分それは私だけじゃ無くきっとクラスの皆が同じだと思うから。



彼女の登校はいつもぎりぎりで、休み時間になると慌てて何処かへ行ってしまう。お昼休みもそうだから、クラスの誰かと一緒に食べている所を見た事が無いのだ。

放課後だって直ぐ部活に行っちゃうし、忙しいのかなーとか思うと下らない事で声を掛けるのも迷惑かなと思っちゃうのよね。



何だっけ?イベント?とかがあるんでしょ?

放課後は屋上に行くとか、お昼休みは校舎の裏だっけ?あ、あと図書館も秘密があるとか無いとか・・・良く分かんないけど、面倒臭そうだなって思っちゃうんだよね。

何だかゲームに縛られてるんじゃないのかなーって思うけど、それはヒロインの宿命みたいなものだと言われればしょうがないし。



私は彼女がゲームのヒロインだと知っているから、興味と言うか好奇の目で見ている所はある。悪いとは思うけど。

でも、他の人、クラスメイトからすれば・・・良い気持ちでは見られないと言うのが正直な所だと知っている。



八方美人とか、ハーレム作る気なの、とか色々言われてるのを耳にするのはきついからね。



益々孤立しそうな彼女が不憫で、最近私は彼女の事を名前で呼ぶようにしている。

決して心が広い訳では無い。

私だって女の子だし、出来れば関わりたくないと思ってるのが正直な所だけど・・・龍ちゃんに相応しい女性になって欲しいな、なんて思うのは年寄り臭いのかね?



私は撫子さんの友達にはなれないけど(薄情でごめんよ!)彼女の事を分かってくれる友達が出来れば良いのになーとは思うのです。



その内でいーから、彼女も私を名前で呼んでくれるといーなーとかも思ってる。








今日の茶事は下條家の亭主から招待を頂いたので、私とママとママのご友人2人の4人だけの茶事となっている。茶事は少人数でする事が殆どで、この度は流派の違う私とママを招待しての交流会なのだそうだ。因みに私とママは藪内流という流派で、下條派より古い武家茶道と呼ばれる流派である。




茶事は亭主(撫子さんのお母さん)の気さくな人柄のお蔭でスムーズに運び、今はお庭を見せて頂いている所なのですが、何故だか迷子になりました。


ママとお友達と亭主が同じ連続ドラマに嵌っている事が発覚し、その話で大盛り上がりしているのでさっぱり話に着いて行けません。


(昼ドラは学生には見られませんからね)


途中で先に戻るからと声を掛けて戻って来たつもりが、(多分)母屋の裏手に出てきてしまったみたいです。




おかしいなあー、方向音痴じゃ無いんだけどなー。





来た道を戻ろうと思ったら「プチッ」と音を立てて草履の鼻緒が切れてしまいました。


(ココで?ココで切れるの?何でかな~)


周りを見回しても誰も居ないし、大体ココに誰かが来るような場所でも無いだろうし(来るとしたら逢引とか? いや~んママ達の話じゃ無いんだからさ~)と諦めて、草履を脱ごうとしゃがんだら何処からか笑い声が聞こえて来た。





木造の日本家屋の裏手に咲いている紫色のりんどうの花。

その花の中に立つ二人の姿はまるで一枚の絵の様だった。



墨黒色の長着に鼠色の帯を回した着流し姿の龍ちゃん。

その足元にしゃがんでりんどうの花を手にしているのは、えんじ色の小袖にピンク色の帯を締めた撫子さん。






普段から着物を着ている人はやっぱり所作が綺麗だなと思う。

歩き方、袖や裾のあしらい方がとても自然で女性らしい。

学校で見る撫子さんより、もっと大人な女性に見えるのはやっぱり着物の所為だろうか。



羨ましいと思う。私は自分の着物姿が余り好きでは無いから。



例えば、金髪の外国人がどんなに高価な着物を着ても、しっくり来ないのと似た感じがするのだ。黒髪の国に居たからなのか、やっぱり着物には黒髪が一番合うと思っている。

だからなのか、巫女の衣装を着た親友の柚を見るとほっとするし、彼女の着物姿が一番だと思っている。

じゃあ、撫子さんは二番と言う事で。



(いやいや、それよりも、どうしよう。てか、どうする?)



割り込むのも申し訳ないし、でもこのままじっとしているのにも限界はあるし、と言う事で、ここは高校生らしく声を掛ける事に決めました。



「撫子さーん」


(流石に龍ちゃんとは言えませんわ)



「えっ、あっ、道明寺さん?どうされました?」

「すみませんが何か御履き物を貸して頂けませんか?鼻緒が切れてしまって」

そう言って草履を持ち上げれば「まあ大変」と言ってから、隣の龍ちゃんの腕に手を添えて彼に何かを囁いてから母屋の方へ消えて行った。





(あらま、龍ちゃんと2人になってしまったよ)





龍ちゃんは何故だか黙って私を見ているだけで、立っている場所から動かない。

雰囲気的には睨んでいるような、怒っているような、何か言いたいような風にも見える。


私は何となくだけどこの機会を逃したら、もう二度と龍ちゃんとは会えないような気がして、鼻緒の切れた草履を手に片足ケンケンしながら近づいて行ったのだ。



「龍ちゃん」

「・・・何だ」


「今まで、ありがとう」

「・・・何の事だ」


「好きだったんだ」

「・・・・・!?」


「だからね、ありがとう」





何故彼だったのかは分からない。

気が付いたら好きだった。

恋なんてそんなもの。





「さく  」

「さくらー!?あ、居たわ!もう、探したのよー」

「あ、道明寺さん、お待たせしました」



龍ちゃんが何か言い掛けたみたいだけど、ママと撫子さんが来たので何を言いたかったのか聞けなかった。

続きを聞きたかったような、聞きたくないような、そんな余韻を残した別れもちょっとは良い気がする。

もう少し時間が経ったら、こう言いたかったのかなって(そうねえ、例えば「俺に惚れるな」とか?きゃー!)自分に都合の良いように想像出来るのも楽しいかも知れない。




しかし、色気も何にも無い告白だよねー。


(草履片手にケンケンって無いわー)


私らしいって言えばそれまでだけどさ。


(何気ににへら~と笑っていたらごめんねー、照れ隠しだよー)





私としては言いたかった事が言えたから、結構スッキリと失恋を受け止める事が出来たのだ。


(こういう所は若さよね。)


等と年寄り臭い事を思うけど、昔の私には出来ない事だったから(自分から告白するとか無理だわー)何となく自分自身が物凄く誇らしく感じる記念日となりました。









撫子さんが貸してくれた草履は赤い鼻緒が可愛い物だったので、それと似た可愛いハンカチを添えてお返ししたけど、最近の撫子さんは少し元気が無くてちょっと気に掛かる。



声を掛けてみたら、文化祭が不安だと言う事だったので納得した。

私は文化祭が楽しみだったけど、クラスの催し物が決まった段階でいろいろと諦めました。





高校生初の文化祭。

何も無いようにお願いします。<m(__)m>


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