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14話 夏休み




学生っていいよねっ!マジで、最高だよねっ!

だって、こんな長期な休みなんて、社会人になれば取れませんって。



小学生の頃は無理して同年代の子達と遊んだけど、結構無理があったし。


中学の頃は受験対策で模試とか検定とかでゆっくり出来なかったし。



それは私の選択がT大付属高だったからであって、他のクラスメイト達は何時でものんびりしてて、頭の中はお花畑だったわよ。



これでも一応お嬢様な訳で、幼稚舎から大学までストレートな「幼小中高一貫校」に通っていたの。幼小中高とは言っていても結局は大学の付属学校な訳で、金持ちはお勉強が少々苦手でもその大学には進学できる訳なのよ。

そうなると、高校にも大学にも質の高い勉強を望むのは無理で、私は将来の夢の為に其処から脱却する事を望んだ訳さ。



目指すは『保険の先生』(養護教諭)です!

それほどの理由は無いけど、昔々随分とお世話になった時に憧れたから、なんです。



この先どうなるか分かったもんじゃ無いし、自分の身は自分でなんとかしないと不味いだろうって、結構真剣に悩んでたんだからさ。


今から思えば、あそこまで悩まなくても人生どうにかなるよ~って伝えてあげたいわね。


だって、周りが遊んでる時に、真剣に勉強してたんだもん。




//ピロリン// //ピロリン//




メールの着信を知らせる電子音が部屋に鳴り響く。


慌ててメールを見てみれば、そこにはノー天気な東雲君からのメールが到着していた。



『高ビーなおばさんが、高ビーな娘を連れて稽古にきた。物凄く疲れたのでスカッシュしましょ♪』



メールを開くと今までの受信記録が新しい順に並んでいる。


画面に表示されるのは10件で、それより前のメールを見たい時は矢印で下に送って目当てのメールを探し出す。


少し前まではちょっと下へ送れば見つけられた、題名と大して変わらない素気ないメールが今は見当たらない。


龍ちゃんからメールが届かなくなって随分と経つ。


弓道部へ足を運ばなくなったのは、それと同じ位随分前。


今更気にする事では無いんだけど、メールを開くとちょっとだけ思い出す懐かしさに胸がキュッと縮まった。





『はい了解です。 先輩、すっかりスカッシュに嵌りましたね!』




2回目のお花の稽古の日、そうそう、あの日は龍ちゃんと下條さんのツーショットを見て落ち込んだ日、気分転換に先輩を誘ってスカッシュを打ちに行ったんだ。


叔父さん(花蓮パパ)の経営してるスポーツクラブには結構行ってるし、スカッシュを教えて貰ったのもそこのインストラクターの人からだった。

単純で面白くてスッキリするって気分が良い。


先輩は初めこそ上手く打てなかったけど、1時間経つ頃にはかなり上達していた。

更に1時間体を動かしてからの帰り道、先輩が買ってくれたソフトクリームを食べながら、私が騙されて科学部に入部した日に運んだ荷物が、準備室に置かれていたクッションだと知らされて大笑いをしたのだった。





約束の時間にジムに行くと、ラウンジには東雲君と暁君が待っていた。



「出掛ける所を見られたらしくて、バイクで追いかけてきたの、コイツ」

「だって、暇だったんっすもん」

「暁先輩、暇な時はスカッシュに限りますよ!」

「えっ?スカッシュ?」


このジムにはスカッシュ用のコートは2つしかない。


「それじゃあ、東雲先輩、ダブルスをしましょうか」

「お、ついにですか」

「はい、そろそろ大丈夫ですよ」

「俺は?」

「暁先輩は、インストラクターから教えて貰って下さい」

「おうよ」



スカッシュは、2人のプレーヤーがボールをラケットで打ち合うスポーツで、四角い箱の様な室内のコートで、床だけでなく四面の壁を使って行うところに特色がある。



私は気分転換でする事が多いから、殆どは1人で球を追っている。

時々インストラクターの人など、馴染の人がいれば一緒にプレーをする事もあるが、基本はソロで走り回る方が好きだ。




「もっちー、凄いな」

「もっちーって何ですか、暁先輩」

「さくらもちって言い辛いからさ、もっちー」

「普通にさくらで良くないですか」

「それじゃあ面白く無いじゃない」

「ソコですか」



2人でプレーをすると、結構体力的に辛い。


30分で休憩を取ったら、暁君がしたいと駄々を込ねるから、東雲君と2人でしてもらう事になった。

私は続けてするなんて体力は無いので助かったし、今日は何だか調子が悪かった。



プレーをしている東雲君と暁君は楽しそうで、見ている方も思わず笑みになる。



華道の家に生まれて、華道の道を進む東雲君。

見た目は穏やかな好青年で、背筋の真っ直ぐな真面目な人と言う印象を受けやすい。

しかし、気を許した人には何事もオープンになる傾向があり、特に年上の女性には甘え上手と言う特技を持っている。

運動は苦手かと思いきや、身のこなしも軽く、今も薄らと笑顔を浮かべてプレーを楽しんでいるよう

だ。



警視総監の息子の暁君。

何処から見てもやんちゃ坊主の代表選手。

何事も全力投球がモットーで、曲がった事は大嫌いな熱血漢。

身体能力は高く、30分の基礎勉強で殆どを飲み込み、只今大きな声を上げながら楽しそうにプレー中だ。



弟がいたら、こんな感じかも。



そんな目線で見ていたら、勢い余った暁君が全力で壁にぶつかって目を回し、その姿を見た東雲君が大爆笑していた。


(東雲君のあんな顔、初めて見たわー。意外と可愛いじゃん)






ラウンジで休憩している時に気になった事を聞いてみた。



「西園寺先輩や森ノ宮先輩はどうされてるんですか?あ、桃井先輩も」

「清隆はアメリカ、遥は家具の買い付けでイギリス、薫もファッションショーとかでフランスに行ったんじゃないかな」

「お二人は?海外とか行かれないんですか?」

「面倒臭いしさ、わざわざ治安の悪い所に行くのも考え物でしょ」

「流石、暁先輩」

「夏休み位、のんびりしたいしね」

「以外ですね。夏休みも5人で遊んでるのかと思ってました」

「やめてくれ。アイツらと一緒だと碌な事が無い」




そんな事を言っていた2人も、西園寺君に呼ばれて結局アメリカへ行く事になったらしい。



らしいと言うのは、その頃私も両親と共に、兄の居るイギリスへ行っていたからなのだった。





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