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12話 試練





水曜日って、昔から苦手だった。

1週間の中でも1番ヤル気の起きない日で、明日はまだ木曜かあ~なんて思う日だったりする。水曜日が悪い訳では無くて、私の気の持ちようが悪いだけの事。

分かっているんだけどねー。


陸上競技大会が終わって、なんだか気が抜けた感じなんですー。




「さくら」

「ん~~~?」

「あなた、まるでやる気が有りませんわね」

「ん~~~」

「もう少しちゃんとなさい」


花蓮が私の後ろに回ってぼさぼさに纏めたままだった髪の毛を直し始めた。

午後からの体育の授業でマット運動なる物をしたからしょうがないのだ。

でも逆に言えば、朝と同じまま綺麗に整った花蓮の髪型の方が不思議なんですけどね。



「花蓮、く、くすぐったい」

「あなたの髪は、とても柔らかいわね」


花蓮は先日の陸上競技大会で落ち込んでいた私を花蓮の自宅に連れ帰り、そのまま何だかんだと世話を焼いてくれて以来、こんな感じになっている。



花蓮は、高ビーだけど、嫌じゃない。

なんでもズケズケと物を言うのも、見た目が高ビーなのも、アメリカで育った環境の所為ってだけで、彼女が述べる意見はほとんど間違っていないのも事実なんだ。



「道明寺さ~ん、ダニエル先生が呼んでますー」

その声に返事を返し、「出来たわよ」と言って教室を後にした花蓮はなかなかカッコ良かった。



そんな感じでグズグズしていた水曜の放課後、あっ、と思い出せば約束の時間が近かった。



慌てて鞄を持って教室から飛び出そうとした時、廊下から袴田先生に呼び止められた。


「悪いけど、これ、下條に持ってってくれ」

「下條さん?」

「これから弓道部だろ?」

「えっ、あっ、今日は・・・」

「茶道部、弓道部の隣だから頼んだ」


袴田先生は別の先生から声を掛けられて、また直ぐに何処かへ行ってしまった。



(考えないようにしてるんだけどなあー)



でも急がなきゃ。


待ち合わせ場所は弓道部と反対方向に当たる。

走れば何とか間に合いそうだと思って、急いで弓道部の方へと向かう事にした。




弓道部は学園内の一番外れに位置し、その建物をぐるりと囲む様に塀が立っている。それは弓道という「矢」を使う性質の為で安全上の対策だ。



その弓道部の手前には美しい庭園がある。小振りだけど高校の敷地内だとは思えない程凝っている。その庭の奥には平屋建ての日本家屋が佇み、その中でお茶を立てる音と着物の衣擦れの音だけが耳に聞こえる様だ。



弓道部と茶道部の境目、一間半ほど奥まった所に向かい合わせで両部の入り口がある。

その境目に近づいたら話し声が聞こえて、これは丁度良かったと思って顔を覗かせたら、楽しそうに話しをしている龍ちゃんと下條さんがいたのだった。



「あ」

「さくら」

「道明寺さん」



わざと邪魔をした訳じゃ無いよ?


だから、龍ちゃん睨まないで。ね? 御用が済んだら直ぐに帰るからさ。



下條さんに先生から預かった封筒を渡し、中身を確認して貰っている間、背中に視線がグサグサ刺さる気がしたのは気の所為かしら。


「はい。確かに。ありがとうございます」

丁寧にお礼をされる程の事でも無いんだけど、まあいいや。


「じゃあ、またね!」

と言ってその場を離れようとしたんだけど、私の腕を掴む猛者がいらっしゃった。

「さくら、今日は   」

「さくらもちー?何やってんの?」


あれ、東雲君こそどうしたの?


「あれ?待ち合わせ場所、駐輪所じゃ無かったですか?」

「そうだよ。でも君がこっちに走ってくの見えたから、どうしたのかなーって思って来てみた」

「袴田先生に頼まれ事されたの」

「ふーん。終わった?」

「終わった」

「じゃ、行くか」



掴まれていた筈の大きな手は何時の間にか無くなっていて、少しだけ寂しいなと思う自分に泣きそうになった。



「それじゃ、バイバーイ」



思いっきりの笑顔で手を振り別れを告げた。






龍ちゃんが今日来る事は知っていた。

昨夜メールが来ていたから。

でも、今日は予定が入ってるからって、弓道部へは行けないって返事をしておいた。



予定は本当の事。



この間、科学部で東雲君と話をしていたら、何でかお花を習う話になってしまって、断るに断れない状況のまま本日2度目の練習日となってしまった。





「う~ん。君の生け花、斬新過ぎでしょ?」

「だから、無理だって言ったじゃないですかー」

「んー、教え概がありそう」

「諦めましょうよ、東雲先輩」


東雲君は私の生け花に向かって難しい顔をしながら手を入れ始めた。





( 龍ちゃん )





何度か龍ちゃんからメールが届いた。

それは何時ものそっけないメールで「明日は弓道部に行く」とか「週末○○のレストランに行く」とか、メモ代わりに近いメールだけど、それでも届くと嬉しかった。



でも、下條さんが龍ちゃんに好意を抱いている間は、私が何をしても上手く行くことが無いのも事実で、今日みたいに弓道部に近づいただけでツーショットをお見舞いされるし、会いたいと電話を掛ければ圏外で、それならメールと思えばエラーになる。



龍ちゃんから届くメールの返事も同じ状態で、OKの返事を返せば送信出来ず、断りのメールを返せば普通に送信する事が出来るのだ。だから最近は返信しない事が増えて来ている。




ココまで来るとさ、ヒロインって凄いなーって思っちゃう。

この世界はヒロインを中心に回ってます。って言い切られちゃった感じ。




それって、もしかして私が異分子だからなのかな。




他の人達は自分の選択肢を間違えてなくて、私だけが選択肢を間違えてるって事だよね。




なんつーか、面倒臭いなー。




高校生の恋愛なんて、恋に毛が生えた程度のもんだし。

大体、中身33歳がこんな事でへこたれてどうするって気がするのよね。







私の生け花を前に、まだ難しい顔をしている東雲君に声を掛ける事にした。




「東雲先輩、スカッとしませんか?」





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