1話 33歳
ノリで書いてしまった作品です。
1話の内容が短めですので、気軽にお読みくださいませ。
「よっしゃあー!!やっとこの日が来た!」
携帯電話を握り絞めて、自分の部屋で狂喜乱舞するのには訳がある。
幼い頃から大好きだった龍ちゃん、10歳年上の木之本龍太郎からデートのお誘いがあったからなのである。
小学生の頃は余り会う機会に恵まれなかったけど、あの頃は余り会いたい時期でも無かったから、年に数回会えるだけで丁度良かった。
中学生になって、高校受験の準備に塾へ通いたいと言うと、何故か家庭教師が来る事になった。
自分的には「塾に通う」というのがポイントだったんだけど、親にとっては色々と心配事が増えるだけだったらしい。
そして両親が連れて来た家庭教師が、なんと!龍ちゃんだったのである。
心の中でガッツポーズを作りましたよ。当然!
龍ちゃんは大学の院生になっていて、丁度アルバイトを探していた所だったらしい。
それからの2年間は週に2回も会う事が出来て嬉しかったけど、最後の1年は龍ちゃんが就職したので余り会う事が出来なくなった。そして夏からは海外へ研修に出て行き、戻って来たと知ったのは1週間前の事だった。
「長かったわ。本っ当―に長かった!」
長い長いと連呼するにしては、この春高校生になったばかり、高々16年しか生きていない者の言う事にしては大袈裟過ぎる気がする。
が、
「やっと、無理しないで生きていける~」
ぼふっ、とクッションのお山にダイブした少女の顔は、どこか疲れたおばさんみたいに虚ろな半目でココでは無いドコかを見ているようだ。
暫くの間そのままの格好でぼーーーっとしていた少女は、おもむろに机の上から鏡を取り出し百面相を始めてしまった。
「この顔で普通って、マジで助かるわ」
憧れの小顔、整った眉毛、色素の薄い茶色い瞳の大きな目、付けまつ毛不要の長いまつ毛は24時間上向きで、すっと通った鼻筋の下には桜色の唇が弧を描いている。
胸元まである髪の毛は染めてもいないのに茶色で、まるでウエーブを付けたような天然カールが綺麗に揺れている。
ついでに付け加えると、158センチの身長で42キロの体重、手足は細く長くほどほどのメリハリボディーというまるで、そう、まるでマンガのキャラみたいなのだ。
「みたいって、他人事な言い方かなー。でも、自分だけど自分を演じて来た自分にしてみれば他人に近い気もするし?」
はあ。
「まあいいや。高校生になれば少しは自分を出しても平気だよね。多少変な言動を取っても大人っぽく見える位で誤魔化せるっしょ!うん!大丈夫、中身33歳なんて誰も分かんないって!」
えっ!?33歳?
「本っ当ぉーにしんどかったのよ!ねえ!聞いてよっ!」
私が33歳になった年、秋も終盤でそろそろ冬が来るわねって頃に、季節外れの雪が降ったのよ。雪国でも無い都会に例年よりもうんと早くに雪が降って大騒ぎだった日、私は自分の車で隣町に出張で来ていてね。もう少しで着くな、なんて思ってた時に猫がね、ヒュッて飛び出してきたのよ。
驚いてハンドル切ったら崖の下に落ちたらしくて、どっかのアトラクションで味わう浮遊感みたいなのを感じた後、物凄い衝撃が来てさ、はっと気が付いて目を開けると、白やピンクや水色の小さなお馬さんがくるくる回ってたのよ。
ねえ、話見えてる?
でさ、見た事も無い人達がパパだよ~ママだよ~なんて言う訳よ。自分よりも若くて綺麗で髪の毛が緑色とピンク色の男女がだよ。只でさえパニックになってる状態なんだもん、信じられる訳ないじゃんか。
もう火が点いたように泣いたね。
言葉はしゃべれないし、思うように動けないしで、毎日毎日烈火のごとく泣いてたよ。
両親が心配してさ、何か大変な病気じゃないかって病院に連れて行かれたりもしたんだけど、今から思えば悪い事したなーって思うよ。
でもね、その病院に行った時に、初めて自分の姿かたちを知ってさ、今度はボー然とした訳よ。ママが入った病院のお手洗いには大きな鏡が有ってね、そこに映し出された自分とママを見たら色々な事に合点がいったの。
まさかの転生。
頭の中とか感情とか(心もね)は33歳のまんまで、生まれ変わっちゃったみたい。
それからは色々と考える事があったから、泣きもしない笑いもしなくなっちゃって、またまた両親に心配かけちゃたりしたんだけどさ。(笑)
でも、せっかくやり直せるんなら、そんなチャンスが与えられたんなら、今度は楽しく生きてみようって思ってさ。
嬉しい事に両親が話している言葉も日本語だったから、結構安心していられたんだよね。
でもね、でもね、これが逆に大変だったのよ!
1歳2歳の子供が流暢にしゃべったり、難しい漢字を読み書き出来たりしてみーよ。
ね?
「天才現る!」なんて有名人になっちゃうでしょ。
それもアリっちゃーアリだけど、ある程度の年齢になってそれ以上の進歩が無かったら、逆に自分自身が恥ずかしくなると思うのよね。
それなら、普通、普通の上、位で頑張れれば楽しいんじゃ無いかなって思ったんだよね。
33歳だったから、余計な知識はそれなりに持ってたし。
幼いフリして大人の会話に耳を傾けて、現在の状況なんかも探ってさ、自分の家にとっての利益になるか不利益になるか、とかね。
それに一応私もお嬢様な訳で、物騒な事に拉致や誘拐とか度々あったんだけど、それは子供らしからぬ判断や行動で全て未然で阻止したわよ。
だって、知らない人ばっかりだったし、問題はないと思うよ?
兎に角さ、これだけ恵まれた環境なんだもの。
楽しまなきゃ損だと思わない?
前世では普通も普通で並み居る普通の中でもダントツの普通の人生だったもの。
この新しい人生が突然終わったとしても、それまでの間は後悔しないように過ごしたい。
だから、毎日が女優よ。
子供の役を演じる女優よ。
羞恥に耐えながら、顔を赤くしながら、私は子供、と暗示を掛けて過ごしたのよ。
あれは本当に毎日が罰ゲームの気分だったわ。
でも、やっとその罰ゲームからも解放されつつあるんだよ。
だって、高校生って、急に大人になるじゃない。
今までと違う環境になる訳だから、少々の変化があっても誰も気づかないでしょ?
まして、私の通う高校は・・・特別だから。
「あ、龍ちゃんに返信しなきゃ!」
16歳の顔に戻った私は、手にしていた鏡を放り投げ、携帯電話を開いて頬を染めるのだった。
作者は乙女ゲームを余り良く知りません。無料版で1・2度した程度ですのでゲームについての深い知識は皆無です。ごめんなさい。