A Little Light
初投稿で一度のせたものに追加で書きました。
題名は変えていません。
読むのが二回目になる方もいらっしゃるかもしれませんがよろしくお願いしますm(__)m
斑に紅く染まった道路、例に漏れず元のアスファルトの色は黒。
どんな色彩も消してしまうその色は今、"紅"という色に掻き消されている――様に見えた。
違う。
私の視界がその"紅"で染まっている、染められているんだ。
紅の上には、彼。
彼の着ている白いワイシャツもまた、斑に紅く染まっている。
彼の瞼は一向に上がらず、その手は、身体は、変に冷たい。
その整った、光のような笑顔を作り出す顔は、血の気が無く青白い。
そして温かさを失った腕に、胸に抱き抱えられているものは
――私
―――と、本
一瞬ズキリと鈍い痛みが頭を貫く。
そして過去の、この目に映し出されていた記憶が蘇ってくる。
後方から来た自転車とぶつかり、持っていた本が投げ飛ばされる。
あれは、彼に貰った宝物。同じ本はいっぱいあるけれど、あれだけは違う。
あれは、この世で一つしかない。
それを拾いに夢中で道路に飛び出す。
沢山の悲鳴の中に混じる彼の叫び、トラック。
そして―
――最期の、温もり。
すぐに理解った。
―――彼は、死んだのだと。
私を、本を取りにトラックの前に飛び出していった私を庇って、彼は死んだのだと。
私は慟哭した。
声も出ずただ静かに、ひたすら。
死ぬべきなのは私だった。
それとも彼は、彼と出逢う迄、闇の底にいた私に"生き抜け"と言いたかったのだろうか。
もう喋ることのない彼は、この疑問になんと応えてくれるのだろう。
解らない。
その答えも、これから私はどうすればいいのかも。
だけど一つだけ。
貴方は私に、小さな光をくれたよ。
だから私はこれから、貴方のくれたこの小さな光を目指していく事にしたの。
どうかしら。
なかなか良い"夢"だと思わない?
『小さな光』
貴方は、 この本の名と同じものを私に与えてくれたね――
「ごめんね、ありがとう。」
と、そう聞こえた。
目を開けると、そこには広がった紅い血も、彼の姿もなく、汚れ、傷つき、ボロボロになった一冊の本だけがあった。
『小さな光』
と言う名前の本が――
つかの間の、幻。
――――――――――――数年後
――――――――――――
「おかーさーん、この本何ー?」
五歳の誕生日をつい最近迎えた末の息子が、本を抱えて駆けてくる。
――あ、あの本は
「それはね、お母さんの宝物なの。」
「古いし汚いしぼろぼろなのに?」「そう。
古くて汚くてぼろぼろだけど、お母さんの想い出が詰まった宝物。
元の所に戻してきて。」
「へんなのー」
そう言ってまた駆けて行く。
あの本は、あの事故の時にぼろぼろになってしまったけれど、彼が遺してくれたもの。
私に光を与えてくれたものだから今も大切にしまってある。
光輝、言いたいことがあるの。
あれから私は貴方が遺してくれた光をたどって、今、大きな光の中で生きているよ。
"ありがとう"
この話を本サイドで書いたものをあげてあります。
よろしければそちらもどうぞ。