第7話 衝撃的、でございます
『そのデータベースにご主人様のお名前など事細かく入力してください』
「はい…」
二回目の気絶から目覚めた後、彼女が流石に察したらしく器用に背中だけを開け、パソコン状の物を差し出した。
「えーと、西園寺…と。後は……」
『入力にミスがございますと私にも反映されます。お手数ですが確認を怠らないようにお願いします』
「わ、分かりました」
物凄いプレッシャーです。
タイピングの音とは違うカタカタが聞こえてきます。
住所・年齢・電話番号……応募ハガキか!?
…………そして
「これで…よしっと。ふぅ、長かったですね」
やっと打ち終わりました。僕のタイピングが遅い訳では無く、量が多いんです。
確か……128項目はあったような気がします。
それにしても…今の月は夕暮れが遅いですね…
腹の虫が騒いでいるのにまだ日が差してます。
くぅぅ~
「……」
し、しまった!気を抜きすぎてお腹が鳴ってしまった!
は、恥ずかしい…。
ま、まぁ感情が未だ入っていない彼女ならそれ程気にはしないよな……?
『ご主人様、お腹が空いておられるのですか?
では御膳の準備を致します』
ある意味気をつかってくれました。
「…………」
『……………』
トントントントントン ジャァー ジュージュー
彼女がキッチンで料理をしているが僕たちの間に会話が無い。
メイドは余計な事を口走らない、とでもインプットされているのか?
「あの……」
『どうなさいましたか?ご主人様』
「すいません…何でも無いです」
『そうですか』
…気まずさの余り喋ってしまったが、内容を準備していなかったから直ぐ終わった。
情けなくなった。
「はぁ…する事が無いから自室に行って来ます」
聞こえるか、聞こえないか、という程の大きさで呟く。
『では準備が出来ましたらお呼びします』
地獄耳ですね。分かります。
「どうしよう。彼女に感情を育ませる自信が無いな」
のそのそと階段を上がりながら項垂れる。
普段から姿勢には気をつけているが、今回をもって猫背になりそうだ。
「取り敢えず、機械とは言え彼女は女性だ。
僕の方も気をつかわないとね」
ガチャっと扉を開けた。
そこには――
学校の机を9つ程並べた大きさの大理石の机。
西園寺グループの最新作モデルのPC。
最高級の黒曜石を張った床。
などなど。
「家は質素なのに内装は豪華ですね…」
高低差がありすぎて疲れてきた。
この家を出るときには別人になっている自信がある。
「まったく…お父様の考えはつくづく分かりませんね…。ん?」
部屋をまんべんなく見渡すとあることに気付く。
「僕は何処で寝れば良いのでしょうか…」
睡眠スペースが無い。
布団でもだすのか?
しかしクローゼットの中を探しても見付からない。
如何すれば?
… …あ。
「寝室があるのか」
結論。
「直ぐ隣が寝室でしたか。もっと周りを見ないといけませんね。灯台もと暗し、です」
でも…何故こんなに大きいのでしょうか?
キングサイズより大きく見えますが。
暫し唸っていると背後から…
『言い忘れていましたがご主人様と私は同じ寝具で寝る、とお父様から聞いております』
右手にビーフストロガノフを持った彼女が仏教面で立っていた。