第3話 ご主人様?、でございます
「う、うわあぁぁ!」
箱を開けて中から出てきたH-Mティオールはブラジャーとパンツ、つまり下着のみだった。
いくらアンドロイド・機械と言われても見てくれは完全な女の子。
驚くのも無理は無いだろ?
『?どうなさいましたか、ご主人様?』
しかしそこは機械。"恥じる"感情を持ち合わせていない彼女は気にする事も無く、その問い掛けてきた。
「ど、どうなさいました、じゃないだろ!
頼む、服を着てくれ」
しれっとされると逆に僕が困る。
彼女が服を着ないとまともに話も出来ない。
『服ですか………お言葉ですがご主人様。
私が着る服はどこにあるのでしょうか?』
「な、な、何だって…!?」
ふ、服が……無い!?
ちょ、ちょっと待ってくれ。
今箱の中に付属品として入っていないか確認するから。
なるべく彼女を見ないように注意しながら箱の元へ。
それでも彼女の真下に箱があるので、否が応でも指のスキマから、半開きの視界に、彼女の綺麗な素足が映ってしまう。
「あと……もう少しで…」
箱に到着する直前――
『ご主人様、お顔の温度が二度上昇しております。ご体調が優れないのですか?』
――半裸の彼女が自ら近付いて来た。
「………っ!」
近付くにつれ、自動的にズームアップされる綺麗な素足。
ハイテクな機器を兼ね備えてる彼女なら0.1℃の僅かな変化すら見逃さない。
だから近付いて来たのだろう。
「や、止めろ!ストップ、ストップ!」
『何故…ですか?今も体温が上がりまし――』
僕が動き始めた彼女を無理矢理変な形で止めたのが悪かったのか、バランスを崩した彼女が覆い被さる様に倒れてきた。
「!?まずい」
このまま倒れ込むと彼女は顔ごと床にダイブしてしまう。何とかして受け止めないと。
そう考え、体勢を直そうとしたが…
「わっ!?」
ズドーン…
見事にそれは失敗した。
しかも運悪く彼女が僕に覆い被さる、のでは無く……
僕が彼女に覆い被さってしまった。
「――!?―!?」
声にならない悲鳴に似たものを挙げた。
オーバーヒート寸前だ。
『申し訳ありません。お怪我はございませんか?』
オーバーヒート寸前の僕を放って置き、そんな事を言えるのは無感情だからだ。人の気も知らないで……。
早く退こう、そう思い体を動かそうとしたら――
『申し訳ありません仙李様。H-Mティオール用の衣服を渡し忘れま………。お取り込み中の所を邪魔したようですね。ここに置いておきます。
ではごゆるりと』
彼女用の衣服を届けに来てくれた春さんが玄関から、この状態を見てしまった。
だが、流石はメイド。表情一つ変えること無く、去っていった。
「…は、春さん!誤解、誤解です!」
あぁ…もう会わせる顔が無い。
春さんが家に戻ったらどう報告されるのだ……。
彼女の上から退いた後、壁に寄り掛かりながらの後悔。それを見て何かピーンと来たのか、彼女が一言。
『ご主人様。その格好は所謂猿の反省、というものですね?』
……いい加減服を着てください!