第2話 出会い、でございます
「ふぅ……」
今日はやけに目覚めが良かった。
H-Mティオールに会えるからなのか、それともこのだだっ広い封鎖された離から解放される事か。
一つ言っておくが、決して楽しみであった訳では無い。信じてくれ。
ここで簡単にだが僕の素性と家柄等を話しておこう。
僕の家は明治時代から続く貴族・華族の部類に入り、その中でも当主にあたる。
今ではその名残を残しながら数々の事業を行い、日本でも最大級の財閥として名が知られている。
家名は"西園寺"だが、セキュリティやその他の事に配慮し仕事関係以外では"四季"と名乗っている。
つまり、僕には名前が二つあり、一つは仕事用に使う"西園寺"の姓:西園寺仙李。
一つは仕事外用に使う"四季"の姓:四季仙李。
因みにだが、学校では仕事外となるので四季仙李として通っている。
「よし、こんなもので大丈夫かな」
説明しながら荷造りをしていたら、意外と早く終わった。
キャリーバッグ三個に詰め込んだ衣類。
ショルダーバッグ二個に詰め込んだ電子機器関連。
教科書類を持って行こうとしたら
『それは置いていって構わないそうです。高校は今までの所では無く新しい高校に行くらしいので』
と、春さんに言われた。
それにしても…高校まで変えるなんて相当な事だ。
企業秘密、というやつなのだろうか。
後々聞いた事だが、変えるのは高校だけでは無く、家・名前・個人情報等。
僕がどこの家庭でどういう状況なのか、全くをリセットして行うのがH-Mティオールの実験条件。
…………………
『仙李様、迎えの車が到着しました。正門までお越しください』
荷造りを終えて数十分、淹れてくれたコーヒーに舌鼓を打ちながら待っていたら春さんが教えてくれた。
「ありがとうございます。今、向かいます」
飲み掛けのコーヒーをぐいっと飲み干し、部屋を出ていった。
荷物は既に運送済みなので、所持品は携帯電話と財布のみ。
『来たか。仙李、しっかりやるんだぞ』
「大丈夫です。ご心配無く」
正門では門柱に寄り掛かるお父様と
『自分を信じれば何も問題はないでしょう』
備え付けの石椅子に腰掛けるお母様がお見送りに来てくれた。
「では、行って参ります」
何時も乗っているリムジンでは無く、一般に流通している四輪車に乗る。
ギシッ……。
これは何の繊維を使っているのだろう?
繊維が粗いからホコリが付きやすいな…。
足も伸ばせないな…血流が悪くなる。
『仙李様、その様なご所望は我慢してください。仙李様はこれから、一般人として生活を行って貰いますので』
「はぁ、そうでしたね。気を付けます」
『お気を付けください』
クスクス、と笑う春さんの笑顔から、まさか心まで読める能力があるとは思えなかった。
春さんは運転中なのでこちらの心理状態を確認する事は出来ない筈なのだが。
…家から大分離れたな…景色が変わり、潮の香りがしてきた。
海の近くに行くようだ。
心地好く感じる潮風を浴びながら海岸線を走る。その車の中では気を遣ってくれているのか、春さんがシューベルトの曲・冬の旅を流している。
そろそろ第五曲目の菩提樹に差し掛かった所で
『そろそろ目的地に到着します』
口惜しそうにそう言った。
……そこから7分後、目的地の家に着いた。
世間から見るとどうなのかは知らないが、見てくれは良いと思う。新築にも見える。
『この家は仙李様の為にご主人様がお建てになられたものでございます』
「へぇ、そうなんですか」
また心を読まれた。メイドさんってそういう能力を備え付けてるのか?
『開きました、どうぞ中へ。荷物は既に中に入っております。では私の役目はこれで終了です、後な中に居るH-Mティオールにお聞きください。
それでは失礼します』
口早にそう言った後、鍵を受け取り、春さんは実家に戻っていった。
「さて、今日からここが新しい家だな。
…あれは?」
家の中に入って直ぐに見つけた大型の箱。
フィギュアが入ってるあの箱とそっくりだ。
「これが…H-Mティオールか。えぇと開け方は」
外にはみ出していた説明書。
指示通りに箱のボタンを押していくと
プシューーと音を立て、蓋が開く。
未来チックだな、とポツリ呟いた。
……開けてから数秒後、箱の中のH-Mティオールはゆっくりと起き上がり、俺に目を合わせこう言ったが、俺にはそれが聞こえなかった。
『初めましてご主人様。本日よりお世話させていただきます』
なぜなら……
開口一番に彼女が下着しか着ていなかった事に驚いた。