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異世界に行く前に「はい」を選んだら、強制選択スキルを押しつけられた

掲載日:2026/04/14

     ◇

 真っ白な空間だった。


 上下も左右も分からない。立っているのか浮いているのかも分からない。そんな「無」の中に、俺はぽつんと放り出されていた。


「……え、俺、さっきまでベッドでスマホいじってたよな?」


 最後の記憶は、TLをぼんやり眺めながら深夜テンションで「異世界行って無双とか、まぁ一回くらいやってみてぇよなぁ」などと、ろくでもないことを考えていたところで止まっている。


 その直後、こめかみの奥がズキリと痛んだ。

 視界がぐらりと揺れ、ノイズみたいなものが走る。

 意識が一瞬、ストンと落ちた気がした──


 気付いたら、もうここだった。



「では、これからあなたにはこちらの世界へ行ってもらって──」


 上から、声が降ってきた。

 男とも女ともつかない、落ち着いたトーン。だが内容は、めちゃくちゃそれっぽい。いかにも「転生管理者です」と言いたげな雰囲気だ。


「まてまてまてまて!!」


 反射で叫んでいた。


「なんだよいきなり“これからこちらの世界へ行ってもらって”って!」


 いかにもな声に投げかける。


「テンプレ進行するな! せめて意思確認しろ! 選択の余地を残せ!『気付いたら異世界でした』とか、俺の知らんところで決めるな!」


「……はぁ」


 ため息が聞こえた。そこそこ深いやつ。


「分かりました。では、あなたのご要望に応じて“選択プロセス”を導入します」


 次の瞬間、視界の中央にウィンドウが浮かび上がった。

 ゲームで見慣れた、あの感じのシンプルなUIだ。


【これでいいですか?】

→ はい/いいえ


「……あ、そうそう。そういうの、そういうの!」


 思わず顔がほころぶ。


「こういうの欲しかったんだよ。“はい/いいえ”ってちゃんと聞いてくれよ、って話なんだよ!」


 気分良く、俺は「はい」を選んだ。


【“はい”が選択されました】

【“強制選択”スキルが付与されました】


「......は?」


 見たこともないスキルが、当たり前みたいに表示された。


「では、そのスキルをもって、あなたには異世界での──」


「待てぇぇい!!」


 思わず素でツッコむ。


「『これでいいですか?』って訊いたの、このスキルの話だったのか!? 俺は“UIとしてそういうのがいい”って言っただけで、“このスキルでいい”とは一言も言ってないんですけど!?」


「あなたは“選択の明確化”を望みました。その願いを最大限に反映した結果が“強制選択”スキルです」


「俺が欲しかったのは“普通に選べる権利”であって、そのやばそうな“全部選ばされ続ける呪い”みたいになるのはおかしいだろ!おかしいよな? ほら、はい、いいえ」


【前言撤回しますか?】

→ はい/いいえ


「おう、撤回するわ! いったん取り消しだ!」


 即座に「はい」を選ぶ。


【本当にいいんですね? このために生まれた私という人格を消去しますか?】

→ はい/いいえ


「はぃいや、えぇ……?」


 急に言葉が重くなった。


「人格って、お前……」


「はい。私は『あなたが選択を希望した瞬間』に生成された、“選択プロセス管理人格”です。あなたの撤回は、私の存在意義そのものの否定に該当します」


 さっきから話している管理者然とした声とは別の、透き通った声が淡々とそう告げた。

 ……若干、しょんぼりしているようにも聞こえる。


「お前、そんな重い設定背負ってるの?」


「背負わされました。あなたの一言によって」


 ぐうの音も出ない。

 ものすごく面倒くさいやつだ、こいつ。


【人格を消去しますか?】

→ はい/いいえ


 ウィンドウが、淡々と迫ってくる。

 さっきまでただのシステム表示だったボタンが、妙に重たく見えた。


「……いや、さすがにそれは、ちょっと、なぁ?」


 俺の意識からは「はい」の選択肢が消えていた。


【“いいえ”が選択されました】


「ありがとうございます。では私は、今後のあなたの人生において“選択”を提供し続けます」


「その言い方やめろ。生涯の契約みたいな響きを出すな」


「実際、一生です」


「やっぱり取り消させる気なかっただろ!!」


 俺が叫んだ瞬間、視界が激しく揺れた。

 真っ白な世界が崩れ、色と匂いが一気に押し寄せてくる。


「それでは、いってらっしゃい」



     ◇

 風が、顔を叩いた。

 青空。緑の丘。遠くには森。土と草の匂い。

 どこからどう見ても、“異世界ファンタジー”としか言いようのない景色だった。


「……おお、本当に異世界」


 感心しかけたところで、またしてもウィンドウが飛び出す。


【息を吸いますか?】

→ はい/いいえ


「いや、それはもう自動でやらせてくれよ!?」


【“はい”が選択されました】

【正常な呼吸が継続されます】


「当たり前のことにイチイチ確認入れるなよ……」


「分かりました。それでは」


【着地しますか?】

→ はい/いいえ


「いや待て、今俺──」


 気付いた。

 俺の体は、そこそこの高度から地面に向かって落ちている最中だった。


「うおおおおお!! はい!はい!はい!」


【“はい”が選択されました】


 その瞬間、俺の体は自動操縦に切り替わった。

 空中でくるりと回転し、膝と足首をバネのように使い、衝撃をきれいに逃がして──

 ほとんどノーダメージで着地してしまった。


「……なにこの華麗なムーブ」


「着地動作を最適化しました」


「便利だな、おい」


【説明を表示しますか?】

→ はい/いいえ


「説明、頼む」


【“はい”が選択されました】


「“強制選択”スキルの概要を説明します。

 一、一定以上の行動に対し、選択ウィンドウが表示されます。

 二、いずれかを選ぶまで、行動の結果が確定しません。

 三、選んだ選択肢に対し、私が可能な範囲で結果を最適化します。

 以上です」


「……要するに、“なんでもいいからどっちか選べ。あとは勝手にやっとく”ってスキルだな?」


「平たく言うとそうなります」


「平たく言うな。怖いだろ逆に」


 とりあえず呼吸を整えてあたりを見回す。

 遠くに小さな集落が見えた。煙が上がり、木の柵と家々らしきシルエット。

 ゲームで言うところの“最初の村”感がすごい。

 とりあえず俺は村へ向かって歩きだした。


【走りますか?】

→ はい/いいえ


「歩いていくよ」


【歩きますか?】

→ はい/いいえ


「だから歩くってば」


【“はい”が選択されました】

【体力消費を抑えた移動が行われます】


「面倒なくせに有能なんだよな、お前……」


「ありがとうございます。褒めますか?」

→ はい/いいえ


「その選択肢はいらない」


 速攻で「いいえ」を選んでおいた。





     ◇

 村の入口には、しょぼい木の門と、槍を持った男が一人立っていた。

 赤い髪に筋肉質な腕。「田舎村の門番」として教科書に載せられそうなビジュアルだ。


「おい、お前さん。見ない顔だな。旅の者か?」


【門番を信用しますか?】

→ はい/いいえ


「うわ、やっぱ出るのか……」


「どうした? 具合でも悪いか?」


「いえ、ちょっと脳内UIがうるさくて……」


 門番に心の声が聞こえるわけもない。

 いたって普通の門番だ。いきなり何を疑ってかかるというのか。


【“はい”が選択されました】

【対話がスムーズに進みます】


「旅人です。道に迷って。もしよければ、中へ入れてもらえますか?」


「おお、そうかそうか! 客は久しぶりだ! よく来たな!」


 門番──後にギルと名乗る男は、にかっと笑って肩を叩いた。

 スムーズだ。スムーズすぎる。


「こういうときは、便利なんだよな……」


「活用しますか?」

→ はい/いいえ


「その聞き方やめろ」


 俺は若干引きつった笑いを浮かべつつ、村へ入れてもらった。

 案内された村長の家は、他の家より少し大きいくらいの木造建築だった。中から出てきたのは、白い髭を蓄えた小柄な老人。いかにも「村長です」といった風貌だ。

 事情を話すと、村長は何度も頷きながら言った。


「そうかそうか。旅の途中で迷ったのか。この村には宿なんて立派なものはないが、部屋の一つや二つ貸すくらいなら構わんぞい」


「本当ですか。助かります」


 ほっとしたところで、村長はふと真顔になった。


「ただな……。最近、少し物騒でのう」


「物騒?」


「ああ。森の方から魔物が出るようになったのじゃ。昔から小さなゴブリンくらいはおったが、最近は凶暴になってきてな。畑は荒らされるし、家畜も攫われてしまった。村の者だけでは、もう手が足りん」


 ゴブリン。

 THE・ファンタジー雑魚モンスター。


【戦闘に関与しますか?】

→ はい/いいえ


「お前、今の話聞いてすぐ“戦闘”の二択出すなよ」


「あなたが“状況を理解しようとした”ため、選択肢を提示しました」


「そういう仕様いらん……」


 とはいえ、確かに放っておけない話ではある。

 でも、だからといって、見ず知らずの村のために命懸けで戦うとか、そこまでのお人好しでもない。


「無理にとは言わん。腕に覚えがあれば頼みたいが、旅人に危険を押し付けるわけにもいかんからな」


 村長が、申し訳なさそうに言う。


「いや、その……俺、戦闘とかはあまり……」


 やんわり断ろうとした瞬間、ウィンドウが飛び出した。


【行動判定:依頼を断ろうとしています】

【確認:村人を見捨てますか?】

→ はい/いいえ


「言い方ァ!!」


 お前、ちょっとはオブラートを覚えろ。


「……見捨てる、とか言われたら、そりゃ断りづらいだろ」


「事実の簡潔な表現です」


「簡潔すぎんだよ!」


 村長はもちろん、このウィンドウは見えていない。

 不安そうにこちらを見つめているだけだ。


「……分かりました。できる限りお手伝いします」


【“協力する”が選択されました】

【クエスト:森の魔物退治 開始】


「クエストって言うな」


 村長はぱっと表情を明るくし、俺の手を握った。


「ありがとう、若者よ。しかし、無理はするでないぞ」


 その夜は村長の家の一室を借りて寝ることになった。

 ふかふかではないが、ちゃんとした布団だ。

 異世界初日にしては、かなり恵まれていると言っていいだろう。



     ◇

 チュンチュン、という鳥の鳴き声で目を覚ました。

 窓から差し込む光。見慣れない天井。

 そうだ、ここは異世界の村長の家だ。


【起床しますか?】

→ はい/いいえ


「いや、もう起きてるが?」


【“はい”が選択されました】

【起床処理を続行します】


「起床処理ってなんだよ……」

 布団から出ようとすると、またウィンドウ。


【布団から出ますか?】

→ はい/いいえ


「出るに決まってるだろ……」


【“はい”が選択されました】


 布団から出たら出たで、今度はこれだ。


【顔を洗いますか?】

→ はい/いいえ


【水を節約しますか?】

→ はい/いいえ


【寝癖を気にしますか?】

→ はい/いいえ


「朝から情報量多いな!?」


 本当になんでもかんでも選ばせたいらしい。洗面桶の前で「はい」「いいえ」を連打しながら、俺は思った。俺の当たり前ってなんなんだろう...。

 

 そんな調子で、


【服を整えますか?】

【挨拶の内容を考えますか?】

【本日のテンションをどう設定しますか?】


「テンションまで数値化すんな!! ……普通だよ普通!」


 土間に行くと、朝食が用意されていた。

 焼いたパンにスープ、野菜少々。シンプルだが、うまそうだ。


「おお、おはようさん。よく眠れたか?」


「おはようございます。ええ、おかげさまで」


【挨拶を返しますか?】

→ はい/いいえ


「いま返したとこだよ!」


 内心でキレながら、席につく。


【パンを食べますか?】

→ はい/はい


「二択の意味どこいった」


 パンを一口かじる。外はカリッと、中は思ったよりふんわりしている。


【焼き加減に満足しますか?】

→ はい/いいえ


「……うまいな」


【“はい”が選択されました】

【満足度:小上昇】


「満足度とか出るの、ゲームのステータス画面みたいでなんか腹立つな……」


 朝食を食べ終える頃には、俺の脳はすでに「選択疲れ」を感じ始めていた。


「これ、長く続いたら普通にストレスだよな……」


【ストレスを自覚しましたか?】

→ はい/いいえ


「そういうところだぞ!!」




     ◇

 クエストを受けてしまった以上、森へ行かないわけにはいかない。村の外れから伸びる獣道を進んでいく途中も、ウィンドウは遠慮なく飛んでくる。


【慎重に進みますか?】

→ はい/いいえ


【足音を抑えますか?】

→ はい/いいえ


【今のところ怖いですか?】

→ はい/いいえ


「最後の質問いらねぇだろ!!」


 俺は「はい」だか「いいえ」だかを選びながら、なんとか森の入り口までたどり着いた。

 木々が生い茂り、薄暗くなっている。

 いかにもモンスターが出そうな雰囲気だ。


 その不安が現実になったのは、ほんの数分後だった。


「……グギャ」


 低い唸り声。

 茂みの影から、小柄な緑色の小鬼が現れた。身長一メートルほど。手には錆びた短剣。

 うん、どう見てもゴブリンだ。


【逃げますか?】

→ はい/いいえ


「逃げる!!」


【“はい”が選択されました】

【しかし、このゴブリンは足が早いため、戦った方が早く終わります】


「お前がそういうこと言うからややこしいんだよ!!」


【戦闘モードに移行しますよね?】

→ はい/いいえ


「なんだそのUIは!! お前の意思で変えられるの!?」


 ウィンドウが「はい」の圧をかけてくる。

 仕方なく「はい」を選ぶと、身体がぐっと前に出た。

 気付けば、手にはそこらの木の枝が握られている。


【敵との距離を詰めますか?】

→ はい/いいえ


「詰めなきゃどうにもならんだろ! はい!」


【武器を叩き落としますか?】

→ はい/いいえ


「はい!」


 選択した途端、俺の右腕は勝手にしなり、木の枝がゴブリンの手元を正確に叩いた。


「ギャ!?」


 短剣が弾かれ、地面に転がる。


【続けて攻撃しますか?】

→ はい/いいえ


「ここで『いいえ』を選んだらどうなる?」


「戦闘が長引き、軽傷〜中傷のリスクがあります」


「“あります”って、まあまあのリスクをさらっと言うな。はいしかないじゃねーか!」


 次の瞬間、俺の身体はまたも自動操縦モードに入り、枝の先端がゴブリンの頭をしたたかに打ち据えた。

 ゴブリンは白目をむいて倒れる。そのまま動かなくなった。


【戦闘終了】

【勝利しました】

【経験値を獲得しました】

【ジョブ:そこそこやれる一般人】


「ジョブ名のセンスどうにかならない?」


 息を整えながら、倒れているゴブリンを見下ろした。


「……これが、“選んだ側に結果が最適化される”ってことか」


 あまりにもスムーズすぎて、逆に怖い。


【怖いですか?】

→ はい/いいえ


「シンプルに聞くな! はいだよ!」


【“はい”が選択されました】

【恐怖の自覚を記録しました】


「なんで記録すんだよ……」



     ◇

 さらに森の奥へ進むと、薄暗がりの中に不自然な空間が現れた。

 木の枝や骨を組み合わせて作られた、粗末な小屋。

 その周囲には、さっきのゴブリンより少し大きめの個体が数体うろついている。


 その中央に──ひときわ大きなゴブリンがいた。


「グギャアアア!!」


 咆哮。

 こいつがボスだな。


【ゴブリンを最低限だけ倒して撤退しますか?】

→ はい/いいえ


「最低限ってどこまでだよ……」


【“最低限”の場合、一部のゴブリンが生存し、村への再襲撃リスクが残ります】


【いいえが選択されました】

【ゴブリンの巣を壊滅させますか?】

→ はい/いいえ


「そうするしかないか」


 ため息をつきながら「はい」を選ぶ。


【“はい”が選択されました】

【難易度:やや高い】

【報酬:村の信頼+そこそこのお礼】


「“そこそこ”とか言うな。もうちょっと夢見させろよ」


 その後の戦闘は、ほとんど“選択肢とのたたかい”だった。


【正面から突撃しますか?】

→ はい/いいえ


【雑魚を先に倒しますか?】

→ はい/いいえ


【卑怯にも転倒を狙って足ばかり攻撃しますか?】

→ はい/いいえ


 表示される選択肢を次々に選んでいくだけで、俺の身体は勝手に最短ルートを辿り、敵を無力化していく。

 木陰に飛び込み、背後を取る。

 足を払って転ばせる。

 手から武器を奪う。

 懐に飛び込み、渾身の一撃を叩き込む──


【戦闘終了】

【クエスト:森の魔物退治 クリア】


「はぁはぁ、……勝った、のか?」


 荒い息を吐きながら、俺はその場に座り込んだ。


「俺、マジで、ほとんど何もしてないんだけどな……」


「あなたは“選ぶ”という行為を行いました。それ以外は私が補助しました」


「それが怖いっつってんだよ……」



     ◇

 村に戻ると、入り口からして騒がしかった。


「帰ってきたぞー!!」


 案内してくれた門番のギルが叫ぶと、村人たちがわっと集まってきた。


「おお、本当に戻ってきた!」


「魔物はどうなったんだ!?」


「森は!?」


 ギルが俺の肩をガシッと掴む。


「こいつがやったんだ。あの巣を一人で叩き潰してきた!」


「おおおおおおおおお!」


 歓声。

 村長も涙目で歩み寄ってきた。


「ようやってくれた……! 本当に、ありがとう、本当に……!」


【感謝を受け取りますか?】

→ はい/いいえ


「ここで謙遜したらなんかややこしいことになりそうだしな……はい」


【“はい”が選択されました】

【村人たちの信頼が大きく上昇しました】


 村人たちの表情を見ていると、さっきまでの恐怖やストレスが、ほんの少しだけ薄らいでいくのを感じた。


「……まあ、こういう結果なら、悪くはなかったのかもな」


【“悪くない”という評価で記録しますか?】

→ はい/いいえ


「評価まで記録しようとすんな……。はい」



     ◇

 その後は、村に滞在しながら畑仕事の手伝いや荷物運びなど、簡単な雑用を請け負いながら過ごしている。


「兄ちゃん、悪いがこの薪、割ってくれないか」


 ギルが斧を持ってきて、庭先の薪の山を指さす。


「任せてくださいよ。薪割りくらいなら──」


【薪を割りますか?】

→ はい/いいえ


「まあ割るけどさ」


【斧を持ちますか?】

→ はい/いいえ


【握り方を最適化しますか?】

→ はい/いいえ


【ケガ防止モードを有効にしますか?】

→ はい/いいえ


「急にオプション多くない?」


 とりあえず全部「はい」を選ぶ。


【姿勢を安定させますか?】

→ はい/いいえ


【飛び散る木片に注意しますか?】

→ はい/いいえ


【斧を振り下ろしますか?】

→ はい/いいえ


「ちょっと待て。

 一回斧振るだけで、何個選択肢出す気だよ!!」


「詳細制御は安全性向上に寄与します」


「寄与しすぎて思考リソース足りないんだよ!」


 あたふたしているうちに、画面上のウィンドウが妙に重なりはじめた。


【処理中……】

【処理中……】

【処理中……】


「おい?」


【エラー:選択肢が渋滞しています】

【強制リセットしますか?】


→ はい/はい

「だから、二択の意味ないだろ!!」


 やけになって「はい」を押すと、一瞬視界がフラッシュした。

 気付けば、俺はなぜか薪とは逆方向に斧を振り下ろしていて、慌てて体勢を立て直す羽目になった。


「お、おい兄ちゃん!? 大丈夫か!?」


「だ、大丈夫大丈夫! 今ちょっとUIがフリーズしてただけ!」


「何言ってんだお前……?」


 ギルは苦笑いして首を振る。


「無理すんなよ。ゆっくりでいいからな」


【恥ずかしいですか?】

→ はい/いいえ


「やかましいわ!!」


 俺は斧を握り直し、今度は余計なオプションをできるだけスルーしながら、ひたすら薪を割り続けた。




     ◇

 村での異世界生活にも、少しずつ慣れてきた頃。


【管理者からの通信を受信しました】

→ 接続する/拒否する


 例のウィンドウが、唐突に目の前に浮かんだ。


「……出たな、元凶」


 俺は「接続」を選ぶ。


「お久しぶりです。異世界生活の具合はいかがですか?」


 あの管理者然とした中性的な声が響く。


「お前のせいで、毎日が選択だらけだよ」


「それは何よりです。あなたの望んだ通り、“選択のある人生”になっています」


「望んだ方向性が間違って解釈されてるんだよなぁ……」


「さて──」


 管理者の声色が、少しだけ真面目なものに変わる。


「あなたに、ひとつ大きな“選択”を提示します」


 新たなウィンドウが表示された。


【この世界に残りますか? 別の世界へ転送されますか?】

→ 残る/転送される


「……急に重いな」


「この世界で暮らし続けることもできます。別の世界へ行き、さらに多くの選択を経験することもできます」


「“さらに多くの選択”って言い方やめろ。過労死しそう」


 村長の顔、ギルの顔、村人たちの笑顔が脳裏に浮かぶ。

 朝のどうでもいい選択ラッシュも、薪割りのエラー祭りも、今となっては、まあ悪くなかった気がしてくるから不思議だ。


「……とりあえず、今はここに残る」


【“残る”が選択されました】


「了解しました。それでは──」


【あなたは自身の選択に責任を持ちますか?】

→ 持つ/持たない


「“責任”、ねぇ」


「責任を持たない場合、選択の結果をすべて“他人のせい”にすることができます。

 その代わり、満足度と一貫性が大きく低下します」


「人生のアドバイスにしては辛辣だな」


【責任を持ちますか?】

→ 責任を持つ/他人せいにする


「……持つよ」


 小さく息を吐きながら、俺は自身の選択に責任を持つことを選ぶ。


【“責任を持つ”が選択されました】

【あなたの選択は、あなた自身のものとして記録されます】


「最初から全部、お前のせいみたいなもんだったけどな」


「“せい”にしますか?」

→ する/しない


「そこで選択肢出すな!」


 思わず笑いがこみ上げる。


「いいよ。これから俺が選ぶのは、俺の責任ってことでいい。お前のせいには……“しない”ことにしてやる」


【“しない”という回答を検出しました】

【想定外の回答です。データベースに保存します】


「想定外だったのかよ」


「人間の選択は、たいてい想定外ですから」


 管理者の声が、ほんの少しだけ楽しそうに聞こえた。


【システムとの会話を終了しますか?】

→ 終了する/終了しない


「終了する」


「当然、別の世界というのは元の世界も含むわけですが——」


【“終了する”が選択されました】


「ん?ちょっと待て!何か不穏な事言ってない!?」


【会話を終了します】


「おい!戻ってこい!」


【会話を終了します】


「聞こえてんじゃねーか!!」


 ウィンドウがふっと消え、現実の音が戻ってくる。


【理不尽ですか?】

→はい/いいえ


「”はい”だよ、チクショウ!」




     ◇

「兄ちゃん! 今夜は盛大に飲むぞー!」


 ギルが樽を抱えて叫んでいた。


「そうじゃそうじゃ! 宴じゃ! 村の恩人のお祝いじゃ!」


 村長が両手を上げてはしゃぎ、子どもたちが走り回る。


【宴に参加しますか?】

→ はい/いいえ


「参加するに決まってんだろ」


【“はい”が選択されました】

【今日も、あなたの選択で世界が進みます】


「……まあ、そう悪くない」


【“悪くない”という評価で記録しますか?】

→ はい/いいえ


「いちいち記録しなくていいっての」


 笑いながら、俺は樽の方へ歩き出した。

 どうせこの世界は、俺が選び続けることでしか進まない。


 だったら──

 せめて、楽しそうな方を選んでやる。


【この方針でよろしいですか?】

→ はい/いいえ


「うるせぇ。──はい」

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