14. 全力の好きと、守護魔石の実用化検討
はい、乙女タイム終わり!
というか、『なかったことにしてみせる……キリッ』って決めたのは私でしょおおお。
もうまったく私は本当に駄目なやつだ。
でもでも『僕はなんでもわかってるよ』みたいな、包容力、反則すぎないですか?
『好き』って思っては『バカ、駄目駄目』って思うこの無限ループ、そろそろやめたい。――待てよ、好きって思っちゃ駄目って思ってるから、こうなってる可能性もあるのでは? 人間、やっちゃいけないことほどやりたくなるものよね。
(――もはや、終着点は変わらないのだから、いったん全力で好きって思ってみるのはどうかしら? もちろん心の中でだけで)
貴族令嬢たるもの、ポーカーフェイスは得意である。
「これほどの効果があれば、常時の守りは魔石に任せられそうだね。つよい個体が現れた場合に、聖女と騎士団が向かえばいい」
しまった、検証も序の口。切り替えなくては。
ルシアン様が耐性について要点をまとめると(分かりやすいです、好き!)、テオドール様が発破を掛けた。
「喜べ、お前ら。この激務とのお別れもすぐかもしれないぞ。そうと分かれば本腰いれて、実用化しようじゃないか」
『非番がちゃんと非番になる……だと?』
『これで給料が良いだけが取り柄って言われなくなるかも……?』
『それはわからないけどな』
目に見えて、騎士たちのモチベーションが上がったのがわかる。テオドール様はちらりと私を見ると、ニヤリと笑ってみせた。
……この口の上手さ、詐欺師と変わらないです。
「効果がわかったところで、設置場所について意見のあるものは?」
ルシアン様は自分の意見を述べるより先に隊士たちの話を聞くタイプのようだ。
(自身の立場や知識が、彼らの思考を止めないようにしているのかしら。上司姿はなかなか見れない……、役得だわ!)
隊士たちは慣れたように話し出す。
「街に近すぎるよりも森の中に設置したいが、魔物に持っていかれたり、壊されたら一大事だよな」
「ああ、手の届かないところに隠す必要がある」
「隠すか……。木の洞や土の中くらいしかないよな」
考えがまとまり始めたのか、質問をしてきた。
「障害物があっても効果範囲はかわりませんか?」
「はい。魔物と魔法攻撃を阻害するようになっているので、木の洞でも土の中に埋めても結界は展開されます。――ただ、魔石本体を攻撃されると弱いのが欠点です」
「なるほど、土魔法使いのテラ・スカトゥム(土の盾)で魔石を包んで、埋めるのはどうだ?」
(テラ・スカトゥム。……土壁のシェルターね。土魔法使いが作るものなら強固のはず)
「土中に埋めるなら相性がいい守護ですね。その魔法なら結界の展開には影響しないですし、いい考えだと思います」
「守護の効果範囲は現在円状だけれど、土中に埋めるなら半円で良いね。範囲を絞ることで魔石の魔力の消費を抑えられるかな?」
(よい視点です、ルシアン様!)
「そうですね、……はい、範囲の調整は可能だと思います。研究室に戻り次第確認します」
「よろしくね。では、土中に埋める方針で考えようか」
ルシアン様は騎士の一人に目配せした。
「じゃあ俺が。――テラ・スカトゥム!」
騎士が手をかざすと、足元の土が盛り上がり、魔石を包み込むようにして硬質な土壁へと変化し、土中へ沈んでいく。
元の通り平らになった地面から、先ほどと変わらぬ白い守護結界がふわりと浮かび上がる。
「……すごい。イメージ通りだわ」
一人でしていた空想が、人の手を介して、現実になっていく。
(――こんなに心躍るのね)
一人で黙々と研究ができればいいと思っていたけれど、こんな快感を知ってしまえば、欲が出てしまいそうだ。私だって、対等に人と関わっていたいし、誰かの役にたてる人間になりたい。
焦げ茶色の長い髪が、初夏の爽やかな風にそよいだ。
◆◆◆
さて、時間というものは欲しいときほど足りないのはなぜかしら。実地検証とは、こうも改善点を詳らかにしてくるものなのね。
先ほどから私の脳は、フル回転だ。糖分欲しい……。
「一つの魔石で想定よりも広範囲をカバーできるけれど、魔石ごとに保有魔力が異なるから、魔力が尽きるタイミングがまちまちなのは管理上問題だね」
はい、フル回転の原因の一つはこの人なんですけどね。この短い期間で改善点が出るわ出るわ。有能も考えものである(すてき!)。
ルシアン様はたじろいだように、ほんの少し体を引いた。いけない、前のめりになってしまったかも。今日はなんだかこの反応をよく見ている気がする。私の研究者ムーブが炸裂しすぎかもしれない。控えなければ。
それにしても、たじろぐ肩も素敵だな……。
あ、今度は視線を逸らされた気がする。落ち着いた研究者を装わなければ。
「では、魔石の保有魔力を鑑定して、効果時間が同じになるように結界の範囲を調整します」
「……できる?」
「個々に調整が必要なので時間と手間はかかりますが、できます。ゆくゆくは、効果時間の最適化や、用意できる魔石の数も考慮しないといけないですね」
「そうだね。今はできるということが分かればいいよ」
検討段階だから具体的な値は決める必要はない。ただせめて、この三つの魔石だけは個々の調整が出来ることを彼らに示す必要があるな。これは宿題っと。
「魔石を設置した場所の管理も問題だね。広い森だし、埋めてしまえばもうわからない」
「うーん、そうですね……」
「守護魔石に居場所を伝える魔方陣(在所陣)を組み込むのは難しいよね?」
基本的に一つの魔石には一つの魔方陣しか転写できない。つまりそれを実現するなら、今の守護の魔方陣に在所陣を組み込んで一つの魔方陣にするしかない。守護と退魔の陣が織り込まれていた時のように、複雑で効率が悪くなり、魔石では成り立たなくなる。
「……はい。残念ながら。それに在所陣の場合、受け乗り手に常に場所を知らせてくるので、すごく煩いかと……」
「……それは、そうだね」
ルシアン様と首をひねっていると、テオドール様が明るい声を出した。
「石同士が話せればいいのになあ。雷魔法使い同士のテレパシーみたいに」
「……はっ! いいかもしれません!」
そもそも在所陣は、クズ魔石でも発動できるほど魔力の消費が少ない。
「一つの魔石でなんとかしないといけない、ということもなかったですね。在所陣なら安価な魔石で良いですし、なんなら保有魔力の大きい守護魔石の漏れ魔力で補填できるのでランニングコストはほぼゼロですね。受け取り手を人にしないといけないというのも固定観念では? 受け取り側も魔石にして、魔石が場所を一括で管理。そのためには場所を視覚的に表示する必要があるか……。こちら側の魔方陣はかなり練らないといけないですが、不可能ではない……?
なるほど……。さてはテオドール様、天才ですね」
「お? おお?? ちょっと何言っているかわからないけど、ありがとう?」
しまった、今度はテオドール様を引かせてしまった。この顔は弟で何度も見ている。コホン、と一つ咳払いをして背筋を伸ばした。
「魔石同士が話す案、なんとかできそうです」
「受け取る側の魔石が聞きに行った時だけ在所陣の魔石が反応を返すようにできれば、情報量も魔力も効率が良さそうだね」
思わずルシアン様をばっ!と勢いよく振り返ってしまった。だって、こうも早口でまくし立ててしまった内容をちゃんと聞いてくれて、しかも理解して、助言までもらえることは今までなかったのだもの。
「……っ!」
あ、驚いたように目を丸くした姿、なかなかレアです。可愛いです。
「ただ、考えなければならないことがたくさんあるので、少しお時間頂きますがよろしいでしょうか」
「それは、もちろん」
そうと決まれば、まずは必要な機能を洗い出して、整理するところからだわ。守護魔石の調整も必要だけど、管理ができなければ実用化も現実的じゃないものね。
やることを優先順位つけて考えていると、ふふっと笑い声がした。
ルシアン様が口元に手を当てて笑っている。その場が華やぐようだ。
『おい、副団長が楽しげに笑ってるぞ』
『というか、副団長、いつもとなんだか違うくないか?』
『……そうだな。少し饒舌だし、表情もいつもより柔らかいというか、よく変わるというか……』
騎士たちの反応からしても、彼の笑みはその場を華やかにしているようだ。やっぱりルシアン様も、休暇が欲しいわよね。副団長、宮廷魔術師、公爵、なんて明らかに働き過ぎだもの。異常よ。
私の研究が彼の休暇になるとしたら、素敵じゃない?
「生き生きしてるね。頑張ってくれるのはありがたいけれど、無理はしないこと。いいね?」
青い瞳がキラキラと光を湛えたまま細まった。
(ゔっ……! こちらを気遣ってくれるこの優しさ……! うう……)
思わず唇を噛んだが、私は変な女ではない。
私は今日一日という短い時間で学んだ。好き、と全力で思うのもしんどいということを。
いや本当に、この短い時間で何回思った?……これはいけない、自覚は気持ちの増殖を産むのだ。私に被虐趣味はないので、結末が分かっててあえて育むなんてしたくない。
これが策士策に溺れるというやつか。これまで通りのほうがマシだわ。




