第5話――だから、次は別の誰かに幸せを――
温とすくねがベンチを離れてから十五分が経った。
十五分といえば、亀山公園の外に出て戻ってくるのにじゅうぶんな時間だ。なのに二人とも戻ってこないのは、なぜ。
もしかして。
嫌な予感がトラの脳裏をよぎる。何度も腕時計を見つめた。秒針が速い。
さらに五分が経過した。大丈夫、とトラは自分に言い聞かせる。温はすくねと会って、なんやかんやと雑談を楽しんでいるんだ。きっと、そうに違いない。
だけどそれは、永遠にも似た時間だった。周りの華やぎのいっさいが静寂へと化す。
トラは待った。
ただ、いるかどうかもわからない神様に祈りながら、二人の帰りを待った。
どうか、温とすくねをこの場所に戻して下さい。
物語とか、一年とか、先導役とか。そんなの、どうでもいいじゃないですか。
僕は二人に出会って、山咲と花ヶ原のことが好きになりました。
汽笛の音に耳を震わせて、鼻もぎ大会をしました。
クリスマスの夜に、すごくお洒落なお店でおいしい料理を食べました。
そして僕はこの手で……神様、あなたが棲んでいるかもしれない……鉱山の岩肌に触れることができたんです。誰のものでもないあの場所で、僕は赤茶けた時間を越えた。
もう大丈夫です。
僕はもう、大丈夫。
だから、次は別の誰かに幸せを。
神様、あなたは、そういうふうには考えてくれませんか――?
トラが強く念じた、その時。
花吹雪が、誰かの姿を隠していることに気がついた。
まるで窓を伝う雨水にそっくりだ。トラは、桜の群れが通り過ぎるのを待つ。
やがて晴れ上がった楕円の視界には、一人の女の子が立っていた。
二本のアルミ缶を頬に当てておどけるその子は、にっこりと笑って眉尻を下げる。
あれは……。
…………、
……………………、
………………………………温さん。




