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あたたかな星

作者: ねむるこ
掲載日:2025/12/27

 それはとてもとても寒い冬の夜の日のことでした。

 小屋の中に小さな団子がふたつ。

 ニハルとアルネという姉妹が毛布にくるまってだんろの火の前で手をつないですわっていました。

 だんろの火は小さく、今にも消えてしまいそうでニハルの心を不安にさせます。

「おねえちゃん。おかあさんとおとうさんはまだ?」

 アルネがぐずりはじめたのでニハルはアルネの手を強く握り直して落ち着かせようとしました。

「もう少しで帰って来るから。待とうね」

「やだ!やだ!どうして帰って来ないの?」

 アルネはニハルの手をふりほどき、だだをこねます。

「少し遠くの町まで行ったからね。帰って来るのに時間がかかってるんだよ……」

 ニハルは朝、おかあさんとおとうさんが言っていたことをアルネに言ってきかせました。口にだしながらもニハルの心は不安でいっぱいでした。

 もし、本当にこのままふたりが帰って来なかったらどうしよう。

 ニハルもアルネと同じように不安な気持ちでいたのです。だけど自分はおねえちゃんだから。妹の前で泣くわけにはいかないのです。おかあさんとおとうさんにも「アルネをよろしくね」と言われています。

「どうしてそんな遠いところ行くの?」

「布を売るためだよ。お仕事だからしかたないでしょ?」

「お仕事なんかしなくていいから。早く帰ってきてよ……」

 アルネがうえーんうえーんと声を上げて泣き始めました。こうなるとアルネの機嫌(きげん)を元に戻すのは大変です。

「ほら。泣かないで。お仕事しないと私達、ご飯が食べられなくなっちゃう。ここにだって住めなくなるよ」

「それでも寂しいもん。怖いもん……。おかあさーん、おとうさーん……」

 アルネを泣き止ませるにはどうすればいいだろうか。こまったニハルはあることを思いつきました。

「アルネ。お星様を見に行きましょう」

「……お星様?」

「そう。きらきらしてとってもきれいだよ」

 アルネの顔がぱあっと明るくなります。

 ニハルが今よりも小さい時のこと。不機嫌になって泣いていたらおとうさんが星を見せてくれたのを思い出したのです。

 美しい満天の星空を見たらきっとアルネも泣き止んでくれるはず。

「お星様!見たい!」

 アルネの笑顔にニハルがほっとすると、アルネの手を引いて外に出ました。

 星ならばいつでも外にある。その美しい輝きでアルネの心をきっと励ましてくれるはず。そう思っていたのに……。

 小屋から一歩外へ踏み出すと、冷たい空気がニハルの頬をチクチクさしました。

 息を吸うだけで鼻からのど、体全体が冷え切ってしまいます。

 空を見上げてニハルはがっかりしました。重たい雲が空を(おお)い隠していたからです。星のひとつも見えません。

「何もないじゃん……。お星様も。おかあさんも。おとうさんも……いない」

 アルネの小さな瞳にまた涙がたまっていくと、うえーんうえーんと声を上げて泣き始めてしまいました。

「ごめんね……。だいじょうぶだから。すぐに帰って来るから……」

 アルネをはげましながらニハルの声がかすれていきます。

 いつも空にある星がひとつも見えない夜がこんなにも怖くて、不安になるなんて。

 いつも側にいるおかあさんとおとうさんがいないさびしさといっしょになってニハルの目にも涙がにじんできました。

 この世でたったふたりになってしまったかのような心細さ。

 怖くて寂しくて……悲しい気持ちがニハルの心を雲みたいに(おお)いつくしました。

 ニハルは自分の手がしもやけになっているのに気が付きました。(つめ)たくて、少しかゆい。

 あわてて両手をこすり合わせ、はあーっとあたたかい息をはくと……ニハルの白い息からきらきらとした何かがあらわれました。

 じいっと見つめてみるとなんとそれは……

「お星様だ!」

 ニハルの白い息から現れたのは空に浮かんでいるはずの星でした。

 白い息とともに美しい光りの輝きはすぐに消えてしまいます。

「……どうしたの?お姉ちゃん?」

 アルネが涙を服のそででぬぐいながらニハルの方を見ました。

「アルネ……よーく見ててね」

 ニハルが得意そうに笑ってみせると、勢いよくはあーっと白い息をはきました。

 白い息はきらきらと光る、美しい星のむれとなってアルネの目の前にあらわれたではありませんか!

「わあ!すごい!きれい、きれい!」

 アルネがはしゃぎながら目の前に現れた星をつかもうと手を伸ばします。

 よろこぶアルネを見てニハルはまた笑顔で白い息をはきだしました。

「すごい!すごい!お星様がいっぱい!」

 星が見えるのは白い息が出ているいっしゅんだけ。

 それでもふたりは消えたり現れたりする星を見ておおいに(たの)しみました。

「ねえねえ。つぎはわたしの手の中ではあーってやって!」

「いいよ」

 ニハルはアルネの小さな手を自分の手でつつみこみ、そこに息をはあーっとはきました。

「わあ……!きれい」

 ふたりの手の中にたくさんの星々がきらめいています。

 その光景はとても美しく、ふたりの冷え切っていた心をあたためてくれました。

「お星様ってあたたかいんだね」

「そうだね。あたたかいね」

 ふたりで顔を見合わせて笑っていると……

「おーい!ふたりとも!ただいまー!」

 男の人のこえが聞こえてきました。

「おとうさんだ!」

 アルネがうれしそうにニハルの顔を見上げます。ニハルもうれしくてほっとして……笑顔でアルネに向かって大きくうなずきました。

「かえりがおそくなってごめんなさい」

 おとうさんのうしろからおかあさんの姿も見えます。

 ニハルとアルネはふたりのもとに走っていくと、つよくだきつきました。


 いつの間にか重たい雲は消え、満天の星々が四人の家族を優しく照らしていました。



 





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